第71話 グリニッド海底遺跡、その奥にあったもの
「レベル132と126。だいぶ上がったわね」
ティナがうんうんと頷きながら口を開く。
「赤い魔石は、鉄巨人以来だからね。それに、ラドの《レーザー》もありがたいね。大分戦略の幅が広がる」
ラドがモフモフの胸を張りながら、どや顔を浮かべている。実際、《レーザー》の使い勝手はかなり良い。新たな遠距離攻撃手段の上に、回避のしようがない。反射されると厄介なので使いどころは難しいが、強力な武器であることは確かだ。
「それで……ここに、解牢の錠があるはずなのよね」
ティナが懐からマップを取り出し、そう言う。三人がジッとマップを見つめる。今いるのは、第二階層最奥の大部屋だ。そしてそこに、解牢の錠があることが記されている。
「キュウ!!」
ラドがタタっと部屋の右奥に向かって走っていく。ラドの向かう先には、ドアのない小さな小部屋がある。タタっとその中に走り込んでいくラド。
「ちょ、ちょちょっと待ちなさいよ!!」
ティナが少し慌てた様子で、ラドを追いかけていく。アベルもそれに続く。
「な、なんだこれ! 倉庫か何か?」
部屋に入るなり、アベルが驚きの声を上げる。その理由は、目の前に積まれた多数のコンテナだ。ティナがコンテナの上部をこじ開け、中身を確認する。
「やっぱり。コレ、解牢の錠よ。アンナさんに見せてもらった絵と同じ。こんなにたくさんあるなんて――」
ティナがコンテナの中から、1枚のカード状のアイテムを取り出す。銀色のカードで、表には文字が書かれている。
「ほんとだ。『カイロウノジョウ』って書いてあるね。」
アベルの言葉に、一瞬ティナが止まる。そして、大きな声でアベルを問い詰める。
「な、なんであんた、文字が読めるのよ!?」
アベルが驚いた表情を浮かべる。
「な! ぼ、僕だって字くらい読めるさ」
字も読めないほどに学が無いと思われていたのか、とアベルはショックを受けている。だが、ティナの論点はそこではないようだ。
「そうじゃなくて!! なんでこの文字が読めるの? これ、古代文字でしょ!? 一部の学者しか知らない文字のはずよ!?」
ティナの言葉に、アベルがぽかんとした表情を浮かべる。
「なんでと言われても……昔から、普通に読めてるよ」
そう言えば、文字を勉強した記憶がない。物心ついたころから、現代文字と古代文字の両方を読めていた気がする。
「な! そ、そんなバカなことある!? じゃ、じゃあ、この文字読んでみてよ!!」
ティナが驚愕の表情を浮かべながら、1枚の紙切れをアベルに手渡す。どうやら、解牢の錠と一緒に倉庫内に置いてあったようだ。
「えーっと、『解牢の錠――外界から遮断された結界を解除するために使うアイテム。全レベルの封印システムに適用可能だが、一度使うと効果を失う消耗品』だって。どうやら、取り扱い説明書みたいだね」
アベルがスラスラと紙切れに掛かれた文字を読み解く。眉間を右手で押さえて、はあっとため息をつくティナ。
「アベルって本当に何者なの? 古代文字が読める冒険者なんて聞いたこともないわよ」
「そ、そんなこと言われても……読めるんだから、仕方ないよ」
「ま、それは良いわ。目当ての物も手に入ったし、早速この遺跡からはお暇しようかしらね」
そう言いつつ、ティナがマップを手に大部屋に戻っていく。マップに目をやるティナ。入口から左方向にも小部屋があり、そこが出口のようだ。
ティナが出口に向かって歩き始めた瞬間、ラドがダダっと駆け出していく。ラドが向かっているのは、入り口から見て正面奥の壁。何もない壁の前で、お座りのポーズで座り込むラド。
「ラド!? どうしたの?」
アベルがラドに近づいていき、壁の前で立ち止まる。ラドはアベルをジーっと見つめた後、目の前の壁に再度視線を移す。――この壁に、何かあるのだろうか。アベルが壁に手を振れる。特に何も違和感はない。
「この壁がどうかしたの!?」
ティナも壁を触るが、特に何も違和感はないようだ。だが、ラドは壁をジーっと見つめている。
「キュ!」
ラドが突如、《デスペル》を唱える。
ヴォン!
その瞬間、壁に紋様が現れ、赤色に光り輝く。そして、突然スッと壁の紋様が消え、その奥に通路が現れる。何かの部屋の入り口のようだ。
「隠し通路!? これは……行ってみるしかないわね」
ティナが地図を見つめながら、ボソッとつぶやく。この隠し部屋の情報は、アンナから見せてもらったマップにも書かれていない。
ゆっくりと暗い通路を進むアベル達。10メートル程歩いた後、目の前に扉が現れる。ドアノブを回し、ガチャッと扉を開くアベル達。部屋に入るや否や、その光景に驚く3人。
目の前に広がるのは、巨大な魔道具。ボタンやらパネルやらが大量に配備されている。そして、ガラス張りの床下には、巨大な機械類が唸り声を上げている。
「だいぶ、大掛かりなシステムだね。しかも、今も稼働中みたいだ」
アベルの言葉が、部屋の中に響く。
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