第70話 第二階層のボス、アイアン・ベヒーモス
第二階層最奥、20メートル四方ほどの大きな部屋の入り口前。アベル達は入り口の陰に隠れ、部屋の中を窺っている。中にいるのは、巨大な一匹の獣。その体は銀色に輝き、体長は5メートルほどある。アイアン・ベヒーモスだ。
「ねえ、もしかして結構簡単に倒せるんじゃない?」
ティナが腕組みをし、首をかしげながら言葉を発する。ラドもこくこくと頷いている。アベルも同意見だ。
「アイアン・ウルフには雷属性のスキルが有効だった。アイアン・ベヒーモスにも効く可能性が高いね」
「キュウ!!」
アベルの言葉に、早速ラドが《ライトニング・バースト》を詠唱する。
バリバリバリ!!
部屋の中に轟音が響く。凄まじい電撃。だが、アイアン・ベヒーモスは平然としている。体の周りに青い光の層があり、《ライトニング・バースト》の電撃は、体を覆う層の周りでバチバチと黄色いスパークを発生させている。どうやら、アイアン・ベヒーモスには電撃が届いていないようだ。
「く! マジックバリアが張ってある! ラド、接近して仕留めるよ!」
そう言い、部屋の中に入ろうとするアベル。だが、ラドがアベルの右足の裾を咥え、フルフルと首を横に振っている。『行くな』と言っているようだ。
アイアン・ベヒーモスに目をやると、ブルブルと震えながら唸っている。頭部の曲がった大きな角が光り輝やき、角の周りでバチバチと白いスパークが放たれている。何かのスキルの前兆。――とてもイヤな予感がする。
「く! 離脱!」
部屋の入口付近に固まっていたアベル達は、左右に散開する。部屋の壁を盾に、ベヒーモスの死角に入る。
ピュン!!
気味の悪い音とともに、アベル達の目の前に光の筋が通っていく。ベヒーモスの口から放たれたレーザーだ。部屋の入り口付近の床はレーザーに焼かれて黒く変色した後、赤い溶岩となって溶けている。
「ひえ! これ、当たったら即死じゃない!」
ティナが驚愕の表情を浮かべる。ラドも、あまりの敵の攻撃の威力に毛が逆立っている。
「レーザー、か。防御不可能な攻撃。敵に近寄れない……」
アベルが腕を組んで考え込む。ひとまず、膠着状態だ。今、アベル達がいるのは敵からの死角。レーザーは届かない。そして、アイアン・ベヒーモスがアベル達に近づいてくる可能性も低い。接近戦になり、アイアン・ベヒーモスのバリア内でラドが《ライトニング・バースト》を放てば、アベル達の勝ちだからだ。狡猾なベヒーモスは、むやみに間合いを詰めたりしないだろう。
10秒程考えこむアベル。そして、一つの作戦を思いつく。その間も、アイアン・ベヒーモスは、威嚇するかのように部屋の入り口に向かってレーザーを放っている。ピュン、ピュンという音が断続的に響く。
「《マジックアロー》と《ボルティック・アロー》の連射だ! 敵のマジックバリアを突破して、直接電撃を畳み込もう!」
アベルの作戦は、遠距離から雷属性の攻撃を仕掛けること。《マジックアロー》で生成した魔力の矢を敵のマジックバリアにぶつけ、バリアを相殺。その直後、雷属性の《ボルティック・アロー》を放ち、敵に直接電撃を叩きこもうというものだ。
「おもしろいじゃない! で、問題はタイミングね。レーザーの発射直後を狙えばいいのね?」
アベルは、コクっとうなずく。敵はレーザーを1秒間隔程度で断続的にはなっている。それはつまり、連続してレーザーを撃ち続けられない証左だ。
「よし! 《マジックアロー》! 《ボルティック・アロー》!!」
アイアン・ベヒーモスがレーザーを放った直後、ティナが部屋の入口付近に飛び出し、2本の矢を連射する。凄まじい速度で《マジックアロー》がアイアン・ベヒーモスに向かっていく。マジックバリアを突き破り、矢は消失する。そしてそのすぐ後ろから、さらに高速の《ボルティック・アロー》がアイアン・ベヒーモスに飛んでいく。矢は、消失したマジックバリアを潜り抜け、そのまま敵の額部分に命中する。
バリバリバリ!!
凄まじい音とともに、アイアン・ベヒーモスに黄色い電撃が襲い掛かる。白目をむき出し、巨体がビクビクと震えている。そして、そのままズンっと地面に横たわり、動かなくなる。
今がチャンスとばかりに、アベルとラドがアイアン・ベヒーモスに向かって飛び出す。《居合》とラドの斬撃のオンパレードだ。ラドに至っては、両前足のドラゴンクローを使い、敵を滅多打ちにしている。
数秒後、アベル達の目の前にあるのは、ズタボロになったアイアン・ベヒーモス。足は4本全て切り離され、角は折れている。最後に、アベルが渾身の力で《居合》を放ち、アイアン・ベヒーモスの脳天を切り裂く。そして、アイアン・ベヒーモスは青白い光となって消えていった。
カラン!
アベルの目の前で、大きな赤い魔石が床を転がる。床にしゃがみ込み、魔石を拾うアベル。
「久しぶりの魔石ね。早速、ラドに渡そうよ!」
ティナが嬉しそうに提案する。久しぶりにレベルアップするのが嬉しいようだ。アベルは、赤い魔石をラドに渡す。
――幻獣・ラドは魔石を吸収しました。連携スキル・《経験値10倍》が発動します。
――《経験値10倍》の効果により、ラドに貯蓄された経験値が10倍になってアベルとティナに還元されます。
――アベルのレベルが132に上がりました。
――ティナのレベルが126に上がりました。
――《経験値10倍》の効果により、幻獣・ラドのステータスが大幅に上昇しました。
――幻獣使いの能力により、幻獣・ラドのステータスがアベルに還元されます。アベルのステータスが大幅に上昇しました。
――魔石「アイアン・ベヒーモス」を吸収した効果により、スキル・《レーザー》をラドが覚えました。
お読みいただき、ありがとうございます。
第四章はストーリー展開がメインなので、ダンジョン探索はあっさり目です。
次回、ついにあのアイテムを入手! そして、ストーリーが動き始めます!