第69話 グリニッド海底遺跡、順調な探索
魔石、《アイアン・ウルフ》を魔剣・デュランダルに装着し、《索敵》が示す敵の方へと歩いていくアベル達。細い通路を進み、次の部屋の入り口で再び立ち止まる。
「またアイアン・ウルフみたいね」
ティナの言葉に、アベルがコクっとうなずく。
「今度は、《縮地斬》で部屋の外から斬ってみよう」
《アイテムボックス》と《居合》の連携スキル、《縮地斬》。《居合》の切っ先を《アイテムボックス》で遠くに飛ばすというもので、射程は10メートル。部屋の中を闊歩するアイアン・ウルフは射程圏内だ。
「それじゃ、いくよ! 《縮地斬》!」
「キュウ!」
ラドが白く光り輝き、連携スキル《縮地斬》が発動する。魔石の効果か、いつもより斬撃がかなり重い。
ザン!!
少し鈍い音とともに、斬撃が敵に命中。アイアン・ウルフの体は真っ二つになり、青い光の粒となって消えていった。
だいぶスピードは失われているようだが、攻撃力は申し分ない。不意打ちをする上では、魔石+連携スキル《縮地斬》はかなり有力なオプションのようだ。
「へぇー、あっさり倒せたわね」
ティナが驚きの表情を浮かべる。その隣で、ラドがピョンピョンと跳ねている。
「キュウ! キュウ!」
どうやら、何か試したいことがあるようだ。ラドはアベルの右足のすそをくわえながら、早く次の部屋へ行こうとアベルを引っ張っている。
早速、次の敵がいる部屋の前へと小走りで向かい、部屋の入り口前で立ち止まる。部屋の中にいるのはアイアン・ウルフ。まだこちらには気付いていないようだ。
「キュウ!!」
ラドがグーっと前足を伸ばし、《ライトニング・バースト》を詠唱する。雷属性の範囲攻撃スキルだ。
バリバリバリ!!!
アイアン・ウルフがいる部屋全体が、凄まじい電撃に見舞われる。逃れる術の無い攻撃が、アイアン・ウルフを直撃する。雄たけびを上げ、苦悶の表情を浮かべるアイアン・ウルフ。ラドの攻撃が終わっても、金属の体の周りをバチバチと青白いスパークが飛び交っている。攻撃が終わっても、アイアン・ウルフは沈黙したままだ。――おかしい、いつまでたっても、アイアン・ウルフが動かない。
「あれ? 麻痺、しちゃってる?」
ティナが部屋に入り、恐る恐るアイアン・ウルフに近づいていく。アイアン・ウルフは白目をむき、ピクピクと痙攣している。一向に動く気配はない。
「もしかして、雷属性の攻撃が弱点なのかな? 動きが止まっちゃってる」
アベルが腕を組みながらつぶやくと、ラドがコクコクと頷いている。どうやら、ラドは敵の弱点を知っていたようだ。
――なぜ、初めて入るダンジョンなのに、ラドはアイアン・ウルフの弱点を知っていたのだろうか? アベルの頭に一つの疑問が浮かぶ。だが、今は目の前の敵を倒すことが先決だ。浮かんだ疑問をかき消し、アベルはアイアン・ウルフに向かって《居合》を放つ。
ザン!!
無残にもアイアン・ウルフの首が斬り飛ばされ、青い光となって消えていく。
「ラド、なんでアイアン・ウルフが《ライトニング・バースト》に弱いってこと、知ってたの?」
「キュ!?」
アベルの質問に、ラドが困ったような表情を浮かべる。上手く答えられない、答えることが出来ないと言った表情だ。アベルはふうっと一息つき、優し気な笑みを浮かべる。
「ま、それはいいか。ありがと、ラド。助かったよ。これで、複数のアイアン・ウルフに襲われても安全に対処できる」
《ライトニング・バースト》は範囲攻撃の雷魔法だ。複数で同時に襲われても、敵全体の動きを止めることが出来る。
その後、アベル達はマップを見ながら第一階層を進んでいく。たどり着いたのは、第二階層へと続く階段のある部屋だ。
「ボスは、いないみたいね」
部屋をのぞきながら、ティナがつぶやく。目の前の部屋には、アイアン・ウルフが1匹。それ以外の気配はない。サクッとアベルの《縮地斬》で敵を殲滅し、部屋の中へと入る。
「罠も特にないみたいだね」
「キュウ!!」
アベルの言葉に、ラドがトタトタと階段に向かって走っていく。追いかけるように、アベル達も第二階層へと進んでいく。
◆◇◆◇
第二階層も、第一階層とさほど変わらない構造だ。狭く迷路のような通路と10メートル四方ほどの部屋を抜けていくアベル達。敵もアイアン・ウルフで第一階層と同じだ。マップを見ながら、目指す《解牢の錠》のある部屋に向け、歩いていく。
「思ったより、順調ね」
「うん。このままの調子でいけば、すぐに攻略でき――と思ったら、ボスのお出ました」
部屋の入り口の前でアベル達は立ち止まる。ティナのマップに目をやると、そこは《解牢の錠》がある第二階層最奥の部屋だ。
部屋の中にいるのは、巨大な獣。その見た目は、ベヒーモスそっくりだ。――ただ一つ、全身が金属でできていることを除いては。
「アイアン・ベヒーモス……ね。さて、どれほどの強敵かな?」
アベルはそう呟きながら、懐から剣を抜くのであった。
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次回、ボス戦です!