第68話 第一階層、探索
「それじゃ、探索を始めようか」
アベルはそう言いながら、《索敵》を行う。
「このフロアには、敵は5体いるみたいだね。全部単独で徘徊してる。一番近いのは部屋を出て右150メートルのところだね。多分、この部屋の中だ」
アベルは、マップの中の小部屋を指さす。第一階層は細い迷路状の通路と、5つの部屋で成り立っている。
「単独なのはありがたいわね。とはいっても、Sランクダンジョンの敵だから、気を引き締めていかないとね」
「キュウ!!」
アベル達はダンジョンを進んでいく。部屋を出て右に曲がり、細い通路をズンズンと歩いていく。敵の気配がする部屋の入口前で身を隠し、部屋のなかを窺うアベル達。部屋の中には、見たこともない魔物が一匹闊歩していた。
「な、なんだあれ!? 鉄の獣!?」
アベルの目に映っているのは、オオカミのような獣。だが、そのからだは銀色で、金属のような光沢がある。動きは滑らかだが、歩くたびにガシャンガシャンと音が鳴り、重量感がある。
「初めてみる敵ね。名前は……アイアン・ウルフってとこかしら。それにしても、堅そうね……」
ティナがヒクついた表情を浮かべながらつぶやく。鉄のようにも見えるが、見たことのない金属だ。強度によっては、アベルの剣もラドの爪も通らないかもしれない。それなら――
「今回はティナの《パワーショット》の出番だね。作戦は……」
アベルがティナとラドに小声で作戦を告げる。
「OK! 分かったわ!」
「キュウ!!」
「それじゃ、作戦開始!!」
掛け声とともに、アベルとラドがアイアン・ウルフに向かって飛び掛かっていく。敵は驚いた様子で、5メートル程後方に飛び退き、臨戦態勢を取る。思ったより軽い身のこなし。スピードもありそうだ。スピードを上げ、ラドが右前足のドラゴンクローで攻撃を仕掛ける。
ギン!!
ラドの攻撃がヒットする瞬間、鈍い金属音が部屋の中に響く。やはり見た目通り、アイアン・ウルフの体は金属で出来ているようだ。体表にうっすらと傷がつくも、大したダメージを受けていない様子だ。
続いて、アベルが《居合》で斬りかかる。
キン!!
甲高い音とともに、アベルの剣がアイアン・ウルフの右前足に衝突する。魔力で研ぎ澄まされた鋭いアベルの剣が食い込んでいく。渾身の力で剣を振りぬくアベル。だが、堅い金属状の体に阻まれ、敵の右前足を半分ほど切り裂くことしかできない。
「準備が出来たわ!」
部屋の入り口からティナの声が響く。アベルとラドが部屋の中に飛び込んだ瞬間から、ティナは《パワーショット》の発動準備をしていた。ちょうど5秒が経過し、ティナのクロスボウには大きな光の矢が出現している。
「よし! ラド、離脱だ!」
掛け声とともに、アベルとラドが左右に散開する。右前足を負傷したアイアン・ウルフはバランスを崩し、その場に立ち尽くしている。
「いっけー!! 《パワーショット》!!」
ティナがパワーショットを放つ。右前足を負傷したアイアン・ウルフはその場でジタバタするだけで、迫りくる青白い矢を避けることができない。
ゴウ!!
轟音と共に、アイアン・ウルフの上半身が消え去る。そして、絶命したアイアン・ウルフは青い光の粒となって消えていく。
カラン。
アイアン・ウルフを倒した直後、地面に黄色く丸い石が落ちる。アイアン・ウルフの魔石だ。
「ふう、なかなか強敵だったね……」
アベルがそう言いながら、黄色い魔石を拾う。
「アベルの剣も、ラドの爪も通らなかったものね。――《パワーショット》で何とか倒せたけど、毎回これは正直キツいわね」
ティナが腕を組みながら、渋い顔をする。《パワーショット》は全身の魔力を一点に集め、巨大な矢を放つ大技だ。アベル達のパーティーで最大の火力を誇るものの、発動に5秒かかる上に魔力消費が甚大という欠点もある。フロア全ての敵を《パワーショット》で倒して回るのは骨が折れるというのがティナの率直な感想のようだ。
「キュウ!!」
不意に、ラドが大きな鳴き声を上げる。視線はアベルが左手に持つ黄色い魔石と右手の魔剣・デュランダルを行き来している。――なんとなく、ラドが何を言いたいかを察するアベル。
「アイアン・ウルフの魔石を使えばいいってこと?」
ティナがラドに問いかける。コクコクと頷くラド。魔剣・デュランダルは黄色い魔石をはめることで剣の威力を向上させることが出来る。今はめている《ベヒーモス》の魔石は素早さを向上させる効果があったはずだ。
アベルは《ベヒーモス》の魔石をデュランダルから取り外す。剣が重くなった感覚。そして、《アイアン・ウルフ》の魔石をはめる。剣はさらに重くなった感覚がするも、刃がかなり鋭くなっているように見える。
「あ! 攻撃力がかなり上がってる……かな?」
コクコクと頷くラド。どうやら、アイアン・ウルフの魔石は素早さが下がる一方、攻撃力を大幅に向上させるという性質があるようだ。
アイアン・ウルフとの戦闘で、最も厄介だったのは敵の防御力の高さだ。一方、《ベヒーモス》の魔石は素早さを向上する効果。対アイアン・ウルフと言う意味では、相性は良くはない。敵の性質に合わせてデュランダルにはめる魔石を付け替えて戦うのが魔剣士の闘い方と言うことだろう。
「ありがと、ラド。それじゃ、早速次の敵で試し斬りしてみようか!」
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次回、第二階層探索です!
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