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第7話 ティナは聖女で、やっぱりチートらしい


「それじゃ、これからよろしくね。アベル」


 頭に被っていたフードを取り去るティナ。年齢は、アベルと同じくらいに見える。20歳前後だろうか。さらさらでしっとりとした長い黒髪に、大きな茶色い瞳。少し吊り上がった眉からは、ティナの芯の強い性格が伺える。

 ティナはヒーラーらしい優しい笑顔を浮かべ、右手を差し出す。冒険者とは思えないほど、華奢で小さな手だ。


「よろしくね。ティナ」


 アベルも右手を差し出す。グッと力をこめ、固く握手を交わす二人。ティナは握手をしながら、アベルを真っすぐに見つめてくる。そのまなざしはとても力強く、何かしらの固い信念を感じるアベルであった。


◆◇◆◇


 30分ほど道なりに歩くと、茶色い地面にぽっかり空いた洞穴が見えてきた。ダンジョン《黒曜の洞窟》だ。洞窟の入口は幅15メートルほどあり、かなり大きい。


「ここが黒曜の洞窟? 思ったより黒くないのね」


 ティナが素朴な疑問を口にする。


「入口はね。レッサードラゴンが生息する中層以降は、洞窟の周りは黒一色になるよ。レッサードラゴンの放つ熱気が、周りの土を溶かして、『黒曜石』にしちゃうんだ。ここが黒曜の洞窟って呼ばれる理由さ」


――黒曜石。いわゆる、溶岩の一種だ。ガラス質の岩石で、黒くツルツルした肌触り。綺麗なものは、宝石として取引される場合もある。


「それじゃ、ちゃっちゃと入りましょうか! 私たちパーティーの初仕事、張り切っていくわよ!」


 意気揚々とダンジョンに入っていくティナ。アベルとラドもそれに続く。そして、10メートルほど歩いたところで、ティナの足がピタッと止まる。


「く、暗いわね……」


 洞窟なのだから、当たり前だ。ティナは洞窟に入るというのに、松明たいまつすら持ってきていないようだ。


「《ライト》」


 アベルが照明魔法を唱える。すると、アベルの頭の上に光の玉が出現し、半径20メートルほどを明るく照らす。洞窟型ダンジョン探索の必須魔法だ。


「あ、ありがと、アベル」


 バツの悪そうな表情を浮かべるティナ。


「ティナって、ダンジョン潜るの初めて? 松明たいまつも持ってないし……」


「う……そ、そうよ。悪い?」


「別に、悪くないよ。ただ、初々しいなって思ってさ」


 アベルの返答に、ティナは少し頬を赤らめる。


「今まで、ずーっと修道院で修行してたから。冒険者のこととか、あまりよく知らないの」


「そう言えば、なんでティナは冒険者になろうと思ったの?」


「え!? う、うーん、ちょっと答えづらい質問ね。家庭の事情というか……」


 アベルの質問に、少しだけ動揺するティナ。また、『家庭の事情』。気になるキーワードだが、アベルは聞き流しつつ、ティナの回答を待つ。


「実は、欲しいアイテムがあるの。そのアイテムを手に入れるには、Sランク冒険者になる必要があったわけ。で、《聖女》の修行を中断して、冒険者になったの」


「え……《聖女》? ティナって、《ヒーラー》じゃなかったの?」


――聖女。ヒーラーの上位職だ。治癒魔法を扱う職業の中で、最上位に位置する。女性ヒーラーの中から才能をもつ者のみがなれる、選ばれし職業。その多くは、特別な血筋の者だ。ティナの『家庭の事情』とは、どうやらそういうことらしい。

 ちなみに、治癒魔法を使うヒーラーは、圧倒的に女性優位である。男性のヒーラーには、《聖女》のような上位職は存在しない。しかも、治癒魔法の威力も、基本的には女性ヒーラーの方が男性ヒーラーより圧倒的に高い。このため、高ランクのパーティーの回復担当は、必ずと言っていいほど女性冒険者だ。


 アベルの質問に対して、目を丸くしたティナが言う。


「あれ? 言ってなかった? でも、聖女なんてそんなに珍しくもないでしょ」


 ティナがそう言い放つ。唖然とするアベル。


「いやいや、何言ってるの。聖女ってものすごく希少でしょ? 少なくとも、ウチのギルドにはいないはずだよ。Sランクパーティーが血眼になって探すくらいだし」


 実際、Sランクパーティー《蒼の集い》のアマンダは、ヒーラーであり聖女ではない。


「そうなの? 修道院では、周りに聖女が何人かいたから、別に普通だと思ってたわ。っていうか、あなたに『希少』なんて言われたくないわよ。≪幻獣使い≫なんて世界中探したっていないんだから」


「う……た、確かに」


 アベルは軽く論破されてしまう。


「でも、よくよく考えると、すごいパーティーね。幻獣使いのアベルに幻獣ラド、そして、聖女のわたし。よくもまあ奇特なメンバーが集まったものね。物珍しさだけで言ったら、世界有数のパーティーなんじゃない?」


 両手を広げ、いたずらっ子のような笑みを口元に浮かべながら、ティナが軽口をたたく。ティナは軽くとらえているようだが、アベルは内心震えあがっていた。

 聖女は、一国を揺るがしかねない力をもつ存在だ。聖女の治癒魔法の威力は凄まじく、聖女一人で兵士1万の戦力差をひっくり返せると言われるほどだ。かつて、2つの大国が聖女一人を争って戦争にまで発展したという史実もある。


 そんな聖女に加え、ティナ曰く『世界をひっくり返せるほどの』幻獣と幻獣使いがいる。

 もしかして、とんでもないパーティーが誕生してしまったのでは? そんなことを考えながら、洞窟を奥へと進んでいくアベルであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回、3人パーティーでの初戦闘です。



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