第67話 海底遺跡への入り口
グリニッド海岸を文字通り飛び出したアベル達は、順調に海面上空を《フロート》で飛んでいく。ゆっくりフヨフヨと浮いている3人は、30分ほどかけて10キロ沖にたどり着く。
「えーっと、この辺のはずよね」
ティナが手書きのマップを開きながら口を開く。とはいえ、辺り一面、海しかない。特に目印になるものは何も無い。
「潜ってみないとわからなそうだね。ティナ、お願い」
「はい、《アダプテーション》」
ティナが《アダプテーション》を唱える。今回は海中探索。《アダプテーション》で体の周りに空気の層を作り、水中でも呼吸できるようにするのが目的だ。そのため、アベル達の体の周りに、幅1.5メートル程の分厚い空気の層が作られる。これで、5分ほどは水中に潜っていられる。
「キュウ!!」
ラドが楽しそうな声を上げる。風船のような《アダプテーション》の空気の層が気に入ったようだ。
「それじゃ、早速潜ろうか」
アベルの言葉を皮切りに、3人が海の中へと潜っていく。《ライト》を詠唱しながら、水深50メートルほどの海底を探索していくアベル達。すると、北東300メートルほどの海底に遺跡のようなものを見つける。ゴツゴツとした海底から、高さ10メートルほどの三角錐の物体が突き出している。近づくと、三角錐は灰色のレンガ状の物質で作られており、手触りはツルツルしている。一部装飾が施されており、明らかに人工物だ。
「多分コレ、だよね」
アベルがティナとラドに向かって話かける。水中であるが、《アダプテーション》の空気のおかげで会話は可能だ。
「そうみたいね。あ! 遺跡の頂上に何かあるよ」
そう言いながら、遺跡上部、三角錐の頂点へとティナが近づいていく。アベルもティナを追いかけると、そこにあったのは赤く光る球状の物体だ。
「なんだろうね、これ。宝石みたいに見えるけど」
ティナはそう言うと、球状の物体に手を触れる。その瞬間、ブンッという音が辺りに響き、ティナの身体が目の前から突如消えてしまう。
「ティナ!?」「キュウ!!」
突然消えたティナにアベルとラドが驚く。慌てて赤く光る球状の物体に近付き、手を触れる。すると、再びブンッという音とともにアベルとラドの身体も消えてしまった。
「わ!!」「きゃ!!」「キュウ!!」
突如、目の前にティナが現れ、驚くアベルとラド。同様にティナも驚いてる。
辺りを見廻すアベル。5メートル四方程度の小さな部屋。壁は灰色のレンガ状の材質でできており、海中で見た遺跡のそれと酷似している。壁には4つのランプが備えつけられており、《ライト》を詠唱しなくても部屋の中は明るい。
「もしかして、ここって遺跡の中?」
アベルの言葉に、ティナがマップを取り出す。マップの中に書かれた遺跡の入り口は小さな小部屋になっている。ティナがマップを見つめながらつぶやく。
「うーん、そうかも。部屋の出口を出るとT字路になってるはずなんだけど……」
アベル達は部屋の出口に向かい、外を見渡す。マップ通りのT字路だ。
「遺跡の中で、間違いなさそうだね。――閉じ込められたみたいだ」
アベルが腕を組みながらつぶやく。外からは赤い球に触れることで遺跡には入れたが、小部屋の中にはそれらしきものは何一つない。すなわち、現状遺跡から脱出することはできないというわけだ。
「食料と水、たくさん持ってきてよかったわね。ラドの《アイテムボックス》のおかげね! ありがと、ラド!」
「キュウ!!」
ティナに褒められて、ラドもうれしそうだ。食料と水は10日分はある。つまり、10日以内にダンジョンを探索し、出口を見つければ問題ないわけだ。
「マップもあるし、慎重に進もう。早く帰ろうと焦ってミスをするのが一番怖い。マップに出口らしき場所が書かれてたりしない?」
「えーっと、あ! 第二階層一番奥に『出口』って書いてあるわ! 多分、ここまで行けば問題ないはずよ」
ティナの言葉に、アベルは安堵の表情を浮かべる。出口の場所が分かっているのといないのとでは精神的なきつさが全然違うからだ。情報を集めてくれたアンナに、心の底から感謝だ。
「それにしても、不思議な材質ね。石でもないし、木でもない。ツルツルしてるけど、触った感じは金属でもない」
ティナが壁を触りながら不思議そうにつぶやく。そう言えば、Sランクダンジョン《理の地下神殿》も似たような材質だった。一方、Aランクダンジョン・《ミラージュの塔》の壁は城等に使われる普通のレンガであった。やはり、Sランクダンジョンは何か特別な存在なのかもしれない。
「……今考えても答えは出ないさ。それじゃ、慎重に探索を始めようか!」
「了解!」「キュ!」
こうして、Sランクダンジョン《グリニッド海底遺跡》の探索が始まるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、第一階層探索開始です!