第65話 アベル、ついにSランク冒険者になる
扉を開けると、そこは煌びやかな空間だった。部屋というにはあまりにも広く、壁や窓は装飾で溢れている。天井からは大きなシャンデリアが垂れ下がっており、足元にあるのはフカフカの赤い絨毯。その絨毯の脇では大勢の兵士が列をなしている。絨毯は真っすぐと前方へと続いていく。20メートルほど先には20段程の階段があり、階段の上には豪華絢爛な椅子に座った一人の老人。この国の王、フレデリクが座っている。
アベル、ティナ、ラドの3人は今、国王との謁見の間にいる。馬車で王都マンチェストルに入ったあと、そのまま王城まで連れていかれた。そして案内されたのは謁見の間。Sランク冒険者への昇格のため、国王の面談が今ここで行われようとしている。
アベル達はゆっくりと赤い絨毯を歩いていく。隣を見ると、ティナが少し緊張した面持ちだ。ラドはアベルの少し前を歩いている。いつもの元気いっぱいな様子は感じ取れない。フサフサの尻尾は下がり、ジッと階段の上の玉座を見つめながら歩いている。
階段下まで歩いたアベル達は、跪き頭を下げる。すると、国王フレデリクは玉座に座ったまま、口を開く。
「顔を上げよ」
……どことなく、尊大な感じだ。国王であるから当然ではあるのだが、アベルは少し嫌な印象を受ける。そのまま、アベルはゆっくりと顔を上げる。しばし間をおいて国王フレデリクが口を開く。
「お前たちか、《ミラージュの塔》を攻略したのは」
やはり、少し嫌な感じがする。ラドの毛が、フルフルと震えている。これは、相手を警戒しているときのしぐさだ。
「はい、フレデリク陛下。私はテイマーのアベルと申します。こちらは、ヒーラーのティナです。あと、テイムした動物、ラドの3人メンバーで戦っております」
アベルの言葉に、ぴくっとティナが反応した後、小さく会釈する。アベルの右足のすぐ横にいるラドが、頭の裏をアベルにこすりつけてくる。アベルの対応に、ラドは安心したようだ。
「ふむ、テイマーにヒーラー、それに獣か。それだけのメンバーで、よく《ミラージュの塔》を攻略できたものだな」
ピクッとアベルが反応する。まるでラドをペットか何かと思っているかのような言葉に、アベルは苛立つ。だが、その感情が現れないように取り繕いながら、言葉を発する。
「ええ。ラドとティナがとても優秀な攻撃役と回復役でしたので。私は、補助スキルに長けておりまして、索敵も使えます。3人のチームワークで《ミラージュの塔》を攻略できたのかと存じます」
腕組みをしながら、国王フレデリクが考え込む。
「ふむ。して、塔の最上階には《真実の鏡》があったはずだが、あれには何が映っておったかな?」
再び、ぴくっとアベルが反応する。真実の鏡、その存在をなぜ国王が知っているのだろうか。そして、なぜそれを気にするのだろうか。ティナの母親、大聖女セシリアの手紙の文言がアベルの脳裏に浮かぶ。
「さすが国王陛下。博識でいらっしゃる。私どもが真実の鏡の前に立った時、とても面白いものが映っておりました」
アベルの言葉に、国王が身を乗り出して聞き入る。やはり、何かある。アベルはそう直感した。
「何も映っていなかったのです。3人で鏡の前にたったのですが、皆の姿が消えておりました」
アベルのはうそをついた。『本当のことを言ってはいけない』、そう直感したからだ。
「そうか、ただの偶然だったか」
国王フレデリクが腕を組んだまま、一言つぶやく。そして、急に興味を失ったかのように言葉を発する。
「ふむ。面談は以上だ。Sランクへの昇格を許可しよう」
そのままシッシッと虫を払うかのようなジェスチャーを行い、面談は打ち切られた。一礼したあと、そそくさとアベル達は謁見の間を出ていく。
◆◇◆◇
「ふう、とりあえずSランクに昇格できてよかったわね」
部屋を出た後、ティナが口を開く。よく見ると汗びっしょりだ。
「そうだね。――謁見は色々と気になることが多かったけどね」
コクッとティナがうなずく。ラドがアベルの足に体をこすりつけてくる。ラドも疲れているようだ。
「それじゃ、明日からは早速、Sランク冒険者として活動しましょっか!」
ティナが元気な声を上げ、右手を天高く突き上げる。
「そうだね。それじゃ、例のアイテムを探しに行かないとね。Sランク冒険者としての初仕事、頑張っていこうか!」
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次回から、Sランクダンジョン、《グリニッド海底遺跡》の探索が始まります!