第64話 王都・セイントベルへ
アベルとティナ、そしてラドは今、4人乗りの馬車の中で向かい合って座っている。ソファはフカフカで、内装は煌びやか。窓は2つあり、外の景色が飛び込んでくる。舗装された道路の周りには、のどかな草原が広がる。その奥には険しい山々がそびえたっている。季節は春だと言うのに、その頂上は白く染まっている。
マンチェストルから北へ40キロ、アベル達が目指すは王都・セイントベルだ。
「はあ、まさか王様からお呼びがかかるとはね……」
ティナがため息をつきながら、つぶやく。アベルもコクっとうなずき、ティナに同意する。まさかSランクに昇格するために王都へ向かう必要があるなんて、想像だにしなかったからだ。
アベルは2日前の出来事を思い出す。
――アベルの回想――
「ええー!! 国王からの面接が必要になった!? な、なんでなんですか! アンナさん!」
ギルドの1階、受付前。ティナが大きな声を上げると、近くにいた職員や冒険者が何事かと一斉に振り返る。ティナは顔を少し赤らめ、小声でささやくようにアンナを問い詰める。
「単なる形式的な書類審査じゃなかったんですか?」
「すすすすみません。本部からの依頼でして。アベルさん達をSランクに昇格するよう推薦したんですが、なぜか国王自ら面接する、という返答があったんですぅ」
アンナが小さくなりながらそう言う。ギルド本部からの命令であれば仕方がないが、違和感はぬぐえない。
「なんで、僕達だけ面接があるんですか? 《蒼の集い》の時は書類審査だけで終わりましたけど」
アベルが首をひねりながらそう言う。アンナがヒソヒソ声で話し出す。
「それが良く分からないんですよ。《ミラージュの塔》が踏破されたからじゃないかって、マンチェストル支部では噂になっています」
「《ミラージュの塔》が?」
「ええ。《ミラージュの塔》は、Sランクに認定するよう本部に何度も依頼して、却下されてたじゃないですか。そして、《ミラージュの塔》を攻略したアベルさん達だけは面接がある。ちょっと不自然ですよね」
確かに、《ミラージュの塔》については色々と情報が絡み合っている。突如消えた大聖女セシリア。セシリアが消えた直後、ダンジョン化した《ミラージュの塔》。セシリアの手紙には、《ミラージュの塔》の真実の鏡に関して言及がある。――あらゆる出来事が、《ミラージュの塔》に関係しすぎている。
「まあ、この段階で色々と推測しても仕方がありません。そういうわけですので、王都まで行って頂けますか? 明日、王都から迎えの馬車が来る手はずになってますので」
――――
「あ、見えてきたわよ! アベル!」
ティナの声で、アベルの意識が現在に戻る。馬車の窓から外を見るアベル。馬車の周りに広がるのは、広大な平原。馬車の進む舗装された道路の先に街が見える。白を基調に統一された、美しい街並み。その中心には、権威を象徴するかのように雄大な王城が見える。
「それじゃ、早速国王への謁見を済ませて、S級冒険者になっちゃおうか」
アベルがそう言うと、ティナがコクっとうなずく。馬車は王都・セイントベルへと快速を飛ばしていく。ラドがアベルのソファにぴょんっと飛び乗ってきて、ひざの上で丸まっている。
その体がほんの少し震えていることに、アベルは気づいていた。
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次回、ついにアベル達がSランク冒険者に!