第63話 評決、そしてさよなら
「お、オレが、死刑? 英雄の、この俺が?」
信じられないといった様子でうつむくゲイル。こぶしを強く握りしめ、手はブルブルと震えている。
「待てよ! こんなのは陰謀だ! オレが、オレが死刑なわけないだろ!! もう一回、やり直せ!!」
「もうやめよう! ゲイル!!」
この期に及んで自分の罪を認められないゲイル。それを見かねて、アマンダが大きな声を上げる。静まり返る法廷。
「わたしね、この一か月間、自分がやったことについてずーっと考えてみたの。わたしたちをずっと助けてくれていたアベルくんに対する裏切り。――どう正当化しても、許されないことだなって」
アマンダの瞳から涙があふれる。涙をぬぐいながら、アマンダは震える声を上げる。
「今まで、何度もアベルくんに命を助けてもらってたなって。それなのに、バカな思い上がりで彼を殺そうとして……もう、彼の望む罰を受け入れるしかないんじゃないかなって」
一呼吸おいて、アマンダがさらに続ける。
「死刑は怖いけど、もうそれしか償う道がないじゃん! 私は、もう逃げないって決めたの! ――アベルくん、本当に、本当にごめんなさい!」
アマンダが深く頭を下げる。心からの謝罪。リサとフォルカスもアマンダに続く。彼らの目は、深い反省と後悔に染まっていた。――だがそれも、もう遅い。判決は下されてしまったのだ。
ゲイルは、頭を下げる彼らを見つめ、苦しそうな表情を浮かべている。
「ゲイル被告。君は、最後に何か語ることはないかね?」
ガイアスがゆっくりとした口調で、ゲイルに語り掛ける。
「オレは……オレは!!」
ガクッとその場に崩れ落ちるゲイル。膝をつき、俯きながら小さな声で語り始める。
「ずっと、アベルに嫉妬していた。オレは英雄に、世界の中心になりたかった。でも、村のみんなは、助けた人々は、ギルドの職員は、みんな口々にアベルのことを凄い凄いと言うんだ。オレが英雄のはずなのに。オレがヒーローのはずなのに。そう、ずっと思っていた」
ゲイルはまだ、俯いている。
「でも、ずっと気づいていた。本当にすごいのは俺じゃないって。アベルがいたから、オレは英雄なんだって。アベルが居なかったら、オレは何もできない。全部、知ってたんだ」
ゲイルの目から、涙が落ちる。その雫は、両手の甲に染みをつくっていく。
「オレはなにもできない――それを認めたくなくて、ずっとアベルに八つ当たりしてた。アベルを見下すことで、ちっぽけな自尊心を満たしてたんだ」
ゲイルがバッと顔を上げ、アベルの目を見つめながら言う。
「アベル、すまねえ!! 本当にすまなかった!! お前は、オレをずっと助けてくれていたのに! お前はオレの親友だったのに! オレは、オレの弱さが憎い!! ちっぽけな自尊心にとらわれて、お前を傷つけてしまった――なんで、なんでこんなことを……」
ゲイルの顔がクシャッとゆがむ。
「うわぁあああああ!!」
泣き崩れるゲイル。地面に突っ伏しながら、何度も『すまねえ、すまねえ』と喚いている。法廷に響くのは、ゲイルの嗚咽、そして謝罪。許しを請うためではない。ゲイルの言葉からは、一切の打算を感じない。そこにあるのは、後悔と自責の念。ゲイルは心から反省し、自分の罪と向き合っているようだ。
「では、陪審員殿、判決の続きを」
突如、法廷に響くガイアスの声。コホン! と咳ばらいをし、陪審員が大きな声で話し始める。
「判決は、死刑。執行猶予、40年!!」
法廷がどよめく。ゲイル達が顔を上げ、呆然としている。執行猶予。つまり、40年間、刑の執行は免除されるということだ。
「執行猶予の条件は以下の通りである。
一、マンチェストルから追放処分とし、今後一切アベルに接触しないこと。
一、一切の犯罪行為をしないこと。
一、冒険者として活動し、人助けを怠らないこと。
一、冒険者以外で収入を得ることを認めず、収入の50%を寄付すること。」
陪審員が4つの執行猶予条件を述べる。これら4つの条件を一つでも破れば、即ゲイル達の死刑が執行される。逆に言えば、これら4つの条件を40年間守り続ければ、ゲイル達の死刑は免除される。
「あ、アベル……」
ゲイルが顔を上げ、アベルの目を見つめる。その目に映るのは、驚き、疑問。喜びの色は一切見えない。ゲイルが再び口を開く。
「アベル! なぜだ!? どうして……」
ゲイルの言葉に、アベルはゆっくり口を開く。
「ゲイル。僕は、君を絶対に許さない。だから、死刑でなんて終わらせない。罪の意識に一生苦しんで、苦しみ抜いて償っていくんだ。死ぬまで休むことは許さない。最後の最後まで、冒険者として人助けをするんだ。それが、僕が君に臨む罰だ」
アベルの言葉に、ゲイルの目から大粒の涙がこぼれる。アマンダ、リサ、フォルカスも涙を流し、嗚咽を漏らしている。深い反省に感謝。彼らの目からは、それ以外の感情をアベルは感じ取れない。
「すまねえ……ありがとう……すまねえ」
ゲイルの嗚咽交じりの声が法廷に響く。アベルの復讐は終わった。
◇◆◇◆
「なかなか、アベルらしい結末ね」
閉廷後、傍聴席にいたティナがニヤニヤしながらアベルに話しかける。なんだか上機嫌だ。
「キュウ!」
ラドもぴょんっとアベルの右肩に飛び乗り、モフモフの毛をアベルにこすりつけてくる。ラドもなんだかうれしそうだ。
「僕らしい、かな?」
「ええ。厳しくもあり優しくもある。そんな感じ」
ティナが微笑みながらそう言う。
「優しい、かな? 死刑判決だよ? それに、執行猶予の条件も割とキツイと思うけど」
アベルの返答に、ティナはフフッと笑う。
「優しいわよ。今度こそ、その優しさはゲイル達にも伝わったはずよ。良かったわね、アベル」
そう言いながら、アベルの頭を軽くなでるティナであった。
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次回、新章開幕です。
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