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第62話 ゲイルの裁判、開廷


 城塞都市・マンチェストルの北外れ。アベルの目の前には、神殿のような大きな建物がある。建物全体は白色で統一されており、神聖さを感じさせる。入り口の門は大きく、白を基調とした装飾で彩られている。本殿の周りには幾本もの白く太い円柱が並ぶ。アベルは今、マンチェストル・地方裁判所に来ている。


 今日は、ゲイルの裁判が行われる。裁判所の中に入るアベル。踊り場にある天秤を掲げた女神の銅像が目を引く。アベルはそのまま階段を上り、ゲイルの裁判が行われる第一裁判場へと入っていく。


「ほう。思ったより、落ち着いた表情だね、アベル君」


 裁判場の原告席に座ると、進行役のガイアスから声をかけられる。


「それに、ラドも一緒なのかね」


 ガイアスが、アベルの右肩にのったラドに目をやり、言葉を続ける。


「はい。ラドも、被害者ですから」


 ラドのモフモフの毛をなでながら、アベルは言う。ラドもゴロゴロと甘えた声で鳴くものの、心なしか緊張しているようだ。


「証拠は十分。ゲイル達のやったことは悪質だ。ギルドへの虚偽報告、証拠隠滅。何より、冒険者の仲間殺しは罪が重い。今回の犯行は殺人未遂ではあるが、おそらく、アベル君の求刑通りの判決になるだろう。――本当に、いいのかね?」


 ガイアスが神妙な面持ちで聞いてくる。


「はい。僕の心に変化はありません。昨日渡した封筒の中身通り、求刑します」


 アベルがそう言うと、ガイアスが一通の封筒を懐から取り出す。昨日、アベルがガイアスに渡したものだ。アベルが望む、ゲイル達への刑罰の詳細がそこには記されている。――彼らに死刑を望む、という内容。既に封は切られ、ガイアスは中身を確認済みのようだ。


 バタン! という音とともに、裁判場の入り口の扉が開く。ゲイル達4人だ。彼らはゆっくりとした足取りで、被告人席へと歩いていく。

 

 被告人席に座る直前、彼らと目が合う。アマンダ、リサ、フォルカスの3人が深々とアベルに向かってお辞儀する。彼らの唇は青白く、悲壮感に満ちている。


 一方のゲイルは、真っすぐにアベルを見つめるだけだ。お辞儀をすることもなく、ただじーっとアベルを見つめてくる。その目からは、迷いが感じ取れる。ここまで来てなお、自分のやったことに向き合えていないのだろうか。



◇◆◇◆


「それでは、アベル氏への殺人未遂容疑の裁判を始める。被告は、ゲイル、リサ、フォルカス、アマンダの4名。彼ら4人には、Sランクダンジョン《ことわりの地下神殿》にてアベル氏を殺害しようとした容疑がかかっている。まずは、被害者のアベル氏より、証言をお願いしたい」


 アベルは原告席を立ちあがり、証言台に立つ。ふうっと一息はいた後、大きな声で証言を始める。


「ゲイル達は、Sランクダンジョン《ことわりの地下神殿》の中層部で僕に追放を言い渡しました。当時レベル1の僕を殴りつけ、身動きが取れない状態にした後、広間にヘルハウンドが現れました。ゲイル達はヘルハウンドの姿を確認した後、『アベル、達者でな』と言い残し、彼らは広間から出ていきました」


 裁判場中央にある陪審員席がどよめく。ゲイルは引きつった表情を浮かべた後、反論する。


「ちょ、ちょっと待てよ! なんでこれで、オレ達が殺人未遂になるんだよ。オレ達は、アベルを追放しただけだ。ヘルハウンドが現れたなんて知らなかったんだ!」


 すかさず、進行役のガイアスが発言する。


「フム。被告は、アベル氏の証言に疑念があると反論していますな。この点に関しては、事件の調査を担当したギルド職員のアンナ氏より、証言を願いたい」


 アンナが証言台へと向かい、発言する。


「事件当日、ゲイル達よりアベル氏の死亡報告書が提出されています。死亡報告書の中身は、『ことわりの地下神殿中層にて、ヘルハウンドの襲撃に遭い、アベルの死亡を確認』と書かれています。ヘルハウンドの出現に気づかなかったというゲイルの発言には、信ぴょう性はありません」


 理路整然とした反論。ゲイルは歯を食いしばったような表情を浮かべる。


「ぐっ!! そ、そうだ! ヘルハウンドが現れて、オレ達は怖くなって逃げてしまったんだ! 確かに、アベルを見捨ててしまったことは謝る! だが、決して殺そうとなんてしていない!」


 ゲイルが苦し紛れの弁明を図る。


「さっきは、『ヘルハウンドに気づかなかった』って言いましたよね。嘘をついたんですか?」


「さ、さっきは、ヘルハウンドから逃げてしまったのが恥ずかしくてつい嘘をついてしまったんだ!」


 アンナの指摘に、ゲイルが取り繕う。アンナは呆れた表情を浮かべ、続ける。


「『殺意はなかった』という被告の反論ですが、それも信ぴょう性がありません。事件当日の夜、ゲイル達が酒場で『アベルの腹を殴り、ヘルハウンドの餌にしてやった』と言っていた、という証言が複数あります。証言者は17名、アベル氏との利害関係はありません。彼らの証言はアベル氏の証言とも一致しており、意図的にアベル氏を殺害しようとしたことは明らかです」


 一呼吸おき、アンナが続ける。


「その際、『王国からの準備金目当てに殺害しようとした』という証言も得られています。動機に関しても明白です」


 ゲイルが拳をにぎりしめ、ブルブルと震えながら黙りこくる。どうやら、反論の余地はないようだ。


「あの、よろしいですかな」


 5人の陪審員のうちの一人が手を挙げ、発言する。


「お金のために仲間を殺そうとしたとのことですが……何と言いますか。命を懸けて共に戦ってきた仲間に、そんなことをするものでしょうか? 少し信じられないと言いますか……」


 陪審員が、怪訝そうな顔でそう述べる。


「そ、そうだ!! オレとアベルは親友だ! 15の頃から一緒に冒険者をやってるんだ! 大切な仲間を殺すなんて、そんなことないあり得ないぜ!」


 ……ゲイルは、何を言ってるんだ? アベルは眉間にしわを寄せ、机の上を指でトントンと叩く。苛立ちを隠せない。


「ふむ。その点に関して、何か言うことはありますか? アンナさん」


 ガイアスが不敵な笑みを浮かべながら、アンナに問いかける。アンナは、待ってましたという表情で、口を開く。


「ギルドの調査員としてではなく、アベルくんの友人として、アンナが証言します。被告達の原告への扱いは、目に余るものがありました。有能なスキルを持つアベルくんを無能呼ばわりし、日常的に罵倒していました。拾った魔石は全て被告人達で山分けし、アベルくんには一切分け与えなかったそうです。討伐報酬も、アベルくんの取り分は不当に低いものでした。とても『大切な仲間』と呼べるような関係性ではなかったと言えるでしょう」


 ゲイルの顔が青ざめる。質問した陪審員は、驚きのあまり開いた口が塞がらない。


「私は何度も、アベルくんにパーティーから脱退するように促しました。友人として、見るに堪えない仕打ちだったからです。それなのに、アベルくんは『ゲイル達が心配だから』と、被告人と共に冒険を続けていました。――そんなアベルくんの優しさを無下にし、殺人未遂と言う仕打ちで返したゲイル達を、私は決して許すことが出来ません!」


 アンナが、力強く大きな声で証言する。目にはうっすらと涙がたまっていた。


カン!! カン!!


 ガイアスが木槌を鳴らす。


「審理は、これで十分でしょう。陪審員の方々は、判決をお願いします」


 ガイアスが封筒を陪審員達に手渡す。アベルがしたためたゲイル達への求刑内容を記した書類だ。陪審員たちが封を開け、書類を読む。その後10分程度の間、陪審員たちは判決に向けて相談・意思統一を行っていた。


「それでは、判決を下します」


 中央に座る陪審員が、大きな声で宣言する。


「求刑通り、被告人を死刑に処する!」

 

 判決内容にどよめく場内。その中で、ゲイルは顔を真っ青にして、プルプルと震えていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回、ゲイル達とついに決着します。



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