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第61話 裁判前夜。アベルはゲイル達に死刑を望む


 《ミラージュの塔》を踏破したアベル達。最上階から階段を降りると、景色は一変していた。ティナ曰く、ダンジョンは元のミラージュの塔に戻っているようだ。第三階層は室内庭園になっており、禍々しい雰囲気は消え、モンスターの気配もなくなっていた。第二階層は居住区に様変わりしていたが、一階層の見た目はさほど変わってはいなかった。その日はマンチェストルに帰り、翌日は疲労回復のため休養日とした。


 ミラージュの塔踏破から2日後、アベルたちはギルドに来ていた。ミラージュの塔最上階のボスは、やはり新種であったらしい。これまでの功績とダンジョンの難易度を踏まえ、討伐報酬は35万ゴールドとなった。第四階層の詳細マップと、ボスの情報の提供と合わせて、計37万ゴールドの報酬だ。これで、Aランクになってからの総報酬額は107万ゴールド。Sランクへの昇格条件は満たした。


「え!? すぐにSランクになれるわけじゃないんですか!?」


 ティナの大きな声がギルド内に響く。そうだった。Sランク冒険者は、少しだけ昇格方法が特殊だった。別にたいしたことはないのだが。


「そう言えば、書類審査があるんでしたっけ。Sランク冒険者は国王からの任命になってるんでしたね。形式上」


 アベルが横から口をはさむ。


「そうなんです。Sランク冒険者は、ギルドが国王宛てに推薦状を送って、国王直下の組織が審査・任命するっていう手続きになってるんです。まあ、審査と言っても形式的なもので、1週間ほどで正式に任命されると思いますが」


 Sランク冒険者は、Sランクダンジョンに挑戦できる特別な権限を持つ。それだけでなく、国家間の移動の制限が緩くなるなど、色々とメリットも大きい。そのため、ギルドではなく王国が直に任命するという形式をとっているのだろう。


「わかったわ。あんまりのんびりできないですけど、1週間待つことにしますか」


 ティナがやれやれといった表情を浮かべている。ラドは相変わらずアベルの右肩の上にのり、のんきにあくびをしている。


「あの、アベルくん。ちょっと……」


 アンナがアベルを手招きする。カウンター越しに身を乗り出し、アンナに近づくアベル。すると、アンナはヒソヒソ声で話始める。


「私たちが幻獣使いを探していた件、ティナお嬢様から聞いたんですよね。騙すような形になってしまい、すみませんでした」


 そう言えば、昨日ティナがどこかに出かけていた。アンナに事情を話した旨を伝えたんだろう。


「気にしないでください。驚きはしましたけど、事情は理解しましたし、別に怒っているわけでもないので」


 アベルはニコっと微笑みながらそう言う。


「あの……幻獣使いを探し始めたのは、つい最近なんです。だから、今までずっと私がアベルくんと接してきたのは、別に何か意図があってのものじゃないんです。アベル君を昔から心配していたのは、私の本心です。それだけは、言っておきたくて」


 アンナが伏し目がちでそう言う。


「ありがとうございます。安心しました! これからも存分に頼りにさせてもらいますから!」


 アベルの言葉に、アンナが安堵したような表情を浮かべる。


「それじゃ、そろそろお暇します。僕はガイアスさんに用事がありますので」


「そうだったわね。私とラドは、先に宿に帰っておくわ」


 そう言うと、ティナがアベルの右肩に乗っていたラドをひょいと両手で持ち上げ、だっこする。アベルは二人にヒラヒラと手を振ったあと、ギルド中央にある階段を上っていった。


◇◆◇◆


コンコン


 アベルがギルドマスターの居室の前でドアをノックする。中から、「どうぞ」という声が聞こえる。アベルはドアノブに手をかけ、ガチャッとドアを開ける。


「よく来たね。――気持ちは、固まったかい?」


 ギルドマスターの部屋に入ると、ニコやかに笑いながらガイアスがソファに腰掛けていた。ガイアスは机を挟んで向かい側にあるソファに向かって手を差し出す。ここに座るように、との合図だ。それに従い、アベルがトスッとソファに座る。しばしの静寂のあと、アベルが口を開く。


「昨日、一日考えました。気持ちの整理をするのに、時間がかかってしまいましたが」


「で? 君はゲイル達に、どんな処罰を望むのかね?」


 アベルが目をつむり、ふうっと小さく息を吐く。今日、アベルがガイアスを尋ねた理由。それは、ゲイルにどんな刑を望むかを、裁判の進行を務めるガイアスに伝えるためだ。ギルドの裁判では、被害者が加害者にどんな量刑を望むかを述べることができる。ゲイル達の容疑は殺人未遂だ。かなり重い量刑までアベルは求刑できる。


 アベルは、懐から一通の封筒を取り出す。明日の裁判に提出する、求刑の詳細が書かれた書類だ。そして、アベルがゆっくりと口を開く。


「僕は、ゲイル達に死刑を望みます」


 はっきりと、力強いまなざしでガイアスを見つめるアベル。ガイアスは、こくっと頷きながら、アベルの差し出した封筒を受け取るのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

次回、ついに裁判が始まります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 平和ボケした現代人みたいな感じで「情状酌量を求めます」なんて言うものなら読まなくてもいいかなーとか思っていましたが、ちゃんと厳刑求めてて良かった。 生きるか死ぬかの世界に生きていて甘…
[一言] 腹は決まったか。 後はゲイル達が裁判でどういう言動を取るかだな。 みっともなくあがくのか潔く認めるのか。
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