第6話 幻獣使い・アベルはチートらしい
「え!? キミ、幻獣について知ってるの!? なんで!? いや、色々聞きたいことがあるんだ! 教えてくれない!?」
「ちょ、ちょちょっと待ちなさいよ! 一旦落ち着きなさい!!」
アベルは興奮し、前のめりで質問攻めをしてしまう。それをいなす女の子。
「ご、ごめん。びっくりしちゃって……」
アベルは落ち着きを取り戻し、ゆっくりと話を続ける。
「この子は、ラド。『幻獣』みたいなんだ。僕は、『幻獣使い』らしい。でも、色々分からないことが多くて……」
「幻獣、みたい? 幻獣使い、らしい!? それって、どういうこと?」
女の子が解せないといった表情でアベルに問いかける。当然の疑問だ。アベルは、事の顛末を丁寧にティナに説明する。
「……ふーん、仲間から追放されて、この子が金色の獣に変身。魔石をあげると、突如レベルアップ。そして、頭の中に響く『幻獣』と『幻獣使い』の声。興味深いわね」
女の子が腕組みをしながら、考え込む。
「幻獣についてなら、少し知ってるわ。幻獣使いについても」
「ほんと!? でも、なんで? テイマーの僕でさえ『幻獣使い』なんて知らないのに」
アベルが喜びの声を上げる。それと同時に湧き上がる疑問。
「へ!? い、いやー、家庭の事情ってやつね。ハハ」
女の子が動揺したように、そして少し取り繕ったように答える。『家庭の事情』とやらがとても気になるが、幻獣についての情報が先だ。そこは置いておいて、話を進める。
「お願い! 幻獣について教えてくれない?」
アベルが顔の前で両手を合わせ、目をつむりながら懇願する。女の子はフーっと息をついた後、語り始める。
「私も詳しくは知らないけど、あなたの話を聞いた限り、この子は幻獣で間違いないわね」
女の子が続ける。
「この子、金色の獣に変身して敵と闘ったことがあるのよね。それが、幻獣である何よりの証拠。幻獣は、まれに真の姿で戦うことがあるの。その時の強さは、普段とは比較にならない程と言われているわ」
ヘルハウンドと戦った時のことをアベルは思い出す。金色に輝く獣の姿のラドは、想像を絶するほど強かった。主人であるアベルですら、少なからず恐怖を抱くほどに。
「それと、幻獣使いは、幻獣に魔石を与えることで初めてレベルアップできるの。あなた、この子に魔石をあげたとたん、レベルが30まで上がったんでしょ? それも、この子が幻獣である証拠」
ラドに魔石をあげれば自分のレベルが上がるのではないか、というアベルの予想は正しかったようだ。
「魔石を与えれば、幻獣も強くなる。その上、強化された幻獣のステータスは、幻獣使いに還元されるの。つまり、この子に魔石を与えればこの子が強くなり、その分あなたもドンドン強くなるの。この意味が分かる?」
「……僕は、とんでもなく強くなれる可能性がある、ってこと?」
「ええ。世界をひっくり返せるほどに、ね。実際、あなたまだレベル30なんでしょ? それなのに、まるで豆腐みたいにワイルドウルフをスパスパ斬るその筋力。正直異常よ」
どうやら、幻獣使いと言うのは、とてもぶっ飛んだ存在のようだ。それでは、幻獣使いのパートナー、幻獣とは何なのだろうか。新たな疑問が、アベルの頭に浮かぶ。
「……幻獣って、そもそもどういった存在なの? 生き物が光り輝いて姿形を変えるなんて、聞いたことがなくて」
アベルの質問に、女の子が答える。
「詳しいことは分かってないわ。天使や精霊の一種であると言う者もいれば、魔族や悪魔、モンスターの一種とする者もいる。いずれにせよ、普通の動物とは違うことは確かね。幻獣の実体はこの世界には存在しない、と言われているわ。精神生命体に近い存在、と言えばいいかしら。『幻獣』と言われる所以ね」
実体が存在しない。その言葉に、アベルはとても不安になる。ヘルハウンドとの闘いの後、憔悴しきった様子のラドの姿がアベルの脳裏に浮かぶ。いつか、ラドと言う存在が、僕の目の前から消えてしまうのではないか。アベルは漠然と、そんなことを考える。
「……一つだけ、忠告があるの。幻獣が真の姿で戦うと、莫大なエネルギーを消費すると言われているわ。何度もそんなことを繰り返すと、この子の存在が消えてしまうかもしれない」
女の子の言葉に、アベルが凍り付く。ラドの存在が消える。小さな頃から一緒にいる、ラドが。不安で不安でたまらない。ラドの存在が消えてしまうなんて、アベルに耐えられるはずもない。
絞り出すように、アベルは声を上げる。
「――そんなの絶対にイヤだ。ラドの代わりに、僕が強くなる。ラドが無理しなくていいように。僕が、ラドを守るんだ……」
「ええ。それがいいわね」
女の子が優しく頷きながら、そう言う。そして、アベルに微笑みかけながら言葉を続ける。
「で? あなたは何者なのかしら? ラドのご主人さん」
アベルははっと気づく。そう言えば、自己紹介をしていなかった。
「ごめん。ラドのことに夢中で、自己紹介を忘れてた。僕はアベル。ソロ冒険者だ」
「アベル……あなたが?」
「え? 僕を知ってるの?」
「アンナさんからちょっと、ね。私はソロ冒険者のティナ……って言えば、事情は分かるかしら?」
「ティナ……? あ!!」
アンナの言葉を思い出すアベル。アベルと相性の良さそうなソロ冒険者、ティナ。それが、目の前の彼女だ。
「「ねえ、一緒にパーティー組んでみない?」」
二人同時に、同じことを言う。一瞬の沈黙のあと、笑いだす二人。この偶然の出会いに、何かしら運命めいたものを感じるアベルだった。
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次回、黒曜の洞窟、攻略開始です。