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第57話 鏡の中の闘い①~劣勢からの連携スキル~


 アベルとラドが敵の様子を窺いながら、互いに3メートルほど距離をとっている。お互いがフォローしあえる最適な距離。回復役のティナがいない今、戦闘は慎重に進める必要がある。敵にむやみに飛び掛かるのは愚策。まずは防御に徹し、敵の攻撃パターンを見極めていく作戦だ。


 甲冑男が大きく剣を振りかぶる。アベルが腰を落とし、斬撃に備える。すると、なぜか甲冑男がその場で剣を振る。アベル達との距離は、まだ5メートル以上離れている。


ヒュン!


 辺りを乾いた音が響く。その瞬間、甲冑男の剣から、斬撃がアベルに向かって飛んでいく。


「く!!」


 想定外の遠距離攻撃に戸惑いつつも、アベルは何とか身体をねじり、飛ぶ斬撃をかわす。斬撃はそのままアベルの背後の壁に向かって飛んでいき、大きな刀痕を残している。


 相手の持っている剣は、魔剣・デュランダル。甲冑男も魔剣士のようだ。今の攻撃は、剣を振った瞬間に、刃にまとった魔力を解放することで、斬撃を飛ばしているようだ。魔力を剣に沿って薄くまとわすことで、飛ばした魔力にも切れ味を持たせている。


 再び、剣を振りかぶる甲冑男。身構えるアベル。甲冑男は、今度は連続で刀を振るう。飛ぶ斬撃の乱れ撃ちだ。アベルは身をかわしつつ、避けきれない斬撃は剣で相殺する。何とか敵の猛攻をしのぎつつも、とても反撃どころではない。


 次の瞬間、飛ぶ斬撃を放った直後、甲冑男がすさまじい速度でアベルに向かってくる。飛ぶ斬撃と通常攻撃の連携攻撃だ。アベルは飛ぶ斬撃を何とか避けるも、体勢が崩される。そこにすかさず、甲冑男の渾身の一撃。なんとか剣を挟み込み、甲冑男の斬撃をいなすアベルだが、すさまじい力に弾き飛ばされる。10メートルほど後方にある壁に強く叩きつけられ、アベルは苦悶の表情を浮かべる。


 強い。明らかに、敵の方が一枚も二枚も上手だ。魔剣士としての闘い方を始めてから、アベルはまだ数日。魔力の扱いが明らかにつたない。一方の甲冑男は、魔剣士として戦い慣れている。力も速度も敵の方が上。苦戦は必至だ。


 アベルはふと、ラドに目をやる。ラドは金色の獣と戦っている。金色の獣は、ラドの周りをすさまじい速度で飛び回り、ラドに攻撃を仕掛けている。ラドは敵の速さに翻弄され、敵の猛攻にさらされている。何度か反撃に転じているものの、敵を捕らえきれない。


 パーティーで最も敏捷性のあるラドが手も足も出ない相手。アベルは、《ことわりの地下神殿》での一件を思い出す。凄まじい速度でフィールドを駆け巡り、ヘルハウンドを圧倒的な強さで蹂躙した金色のラド。目の前にいる敵は、姿かたちだけでなく、その強さまでもあの時のラドに瓜二つだ。


 金色の獣が大きな尻尾でラドを薙ぎ払う。凄まじい衝撃で、ラドが壁際まで飛ばされる。アベルのちょうど真横に転がってくるラド。敵の攻撃を上手くガードしていたようで、すぐさま起き上がり、臨戦態勢に戻るラド。アベルもまだまだ体力は十分だ。


 だが、彼我の戦力差は歴然。1体1で戦えば、確実にアベル達は敗北する。ここはチームワークで、敵を一体ずつ倒すのが吉。


「ラド。まずは金色の獣を先に倒すよ」


「キュウ!」


 金色の獣は素早さで敵を翻弄し、攻撃するタイプだ。足を集中攻撃し、機動力を削げば一気に無力化できる。一方の甲冑男には飛び道具がある。仮に足止めに成功しても、遠隔攻撃が厄介だ。まず倒すべきは、金色の獣の方だ。


 だが、どうやって金色の獣を倒せばいいのか。あの素早さでは、虚を突いた攻撃でない限り、捉えることは難しい。


 ふと、先ほどの甲冑男の攻撃がアベルの脳裏に浮かぶ。いかに金色の獣が素早いと言えど、間合いの外から突然攻撃されたら対処のしようもないはずだ。――スキル連携による遠距離攻撃。ふと、アベルの頭に妙案が浮かぶ。上手く連携するかは賭けだが、試す価値はある。というか、これしかない。


「ラド、《アイテムボックス》だ」


 アベルが小声でラドにささやく。


「キュ!?」


 ラドが当惑している。流石に、これだけでは意図が伝わらない。


「金色の獣を攻撃する。僕は《居合》だ」


「キュ!!」


 どうやら、意図が伝わったようだ。アベルは《居合》を、ラドは《アイテムボックス》を発動すると、ラドが白く光り輝く。どうやら、うまく連携スキルが発動したようだ。


「は!!」


 アベルが居合を放つ。明らかな空振り。金色の獣までの距離は、10メートルはある。とてもアベルの剣が届く距離ではない。


ザン!!


 不意に、剣が何かを斬る音が響く。遠くにいるはずの金色の獣が、急に血しぶきを上げる。狙い通り、右後ろ足にダメージを与えることに成功する。これで、金色の獣の機動力はかなり下がるはずだ。


 アベルの妙案。それは、《居合》の切っ先をアイテムボックスに入れ、さらに敵の目の前にボックスをもう一つ開き、中で繋げるというもの。これにより、斬撃を敵の目の前に瞬間移動させることが出来る。


――《アイテムボックス》の効果により、《居合》に遠隔攻撃効果が付与されました。

――連携スキル《縮地斬》を取得しました。


 作戦成功。アベルの口元が緩む。ここから、反撃開始だ。



お読みいただき、ありがとうございます。

次回、鏡の中の闘い、決着です!



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