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第56話 ミラージュの塔・最上階


「さあ、行こうか」


 アベルの掛け声に合わせて、ティナとラドが頷く。今、アベル達は第三階層の最奥、ベヒーモスを倒した部屋にいる。部屋の奥にある、上へと続く階段を上っていくアベル達。


「これが終わったら、ついにSランクね!」


「そうだね。気を引き締めて行こう」


 階段を上り終わり、第四階層へとたどり着くアベル達。だが、そこにはだだっ広い部屋があるだけであった。10メートルほどの高い天井に、窓一つない壁。通路も無ければ、柱もない。


 アベルが《索敵》を行う。辺りに魔物の気配はない。辺りを見回すと、中央に何か置物のようなものが置いてある。アベル達は、その置物に近づいていく。


「鏡、みたいだね……って、なんだこれ!?」


 鏡を覗き込んだアベルが驚きの声を上げる。ラドも同じように驚愕している。鏡の中には、あり得ないものが映っていたからだ。


 1つ目の驚きは、鏡に映ったラドの姿だ。鏡に映ったラドは、いつものようなかわいらしい姿ではない。大きさは3メートルほど。いつもの青み掛かった白色のモフモフの毛ではなく、金色に輝くさらさらの体毛。頭からは太く曲がった角が二つ、背中には大きな白色の翼が生えており、爪と牙は鋭く大きい。――ことわりの地下神殿でヘルハウンドと戦ったときのラドの姿。『幻獣の真の姿』だ。


 2つ目の驚きは、鏡に映ったアベルの姿だ。銀色の甲冑を着た、冒険者風の男。年齢は20代半ばくらいだろうか。背丈はアベルと同じ程度で、体つきはアベルよりやや筋肉質だ。アベルと同じ赤みがかった髪。顔は陰になっていて良く見えない。そして、その甲冑男が手に持つのは、アベルと同じ魔剣・デュランダルだ。


 3つ目の驚きは、ティナの姿が鏡に映っていないことだ。鏡の中には、金色の獣と甲冑風の男しか映っていない。


「これは……お母さまの『真実の鏡』! なんでこんなに大きいのよ!?」


 ティナが再度驚きの声を上げる。アベルはびっくりした様子でティナを振り返る。なぜ、この鏡が『真実の鏡』だと知っているんだ? そんな疑問がアベルの脳裏に浮かぶ。


 アベルが頭に浮かんだ疑問をティナへ問いかけようとした、まさにその時だった。目の前の鏡が赤く怪しく光る。驚いて鏡から一歩距離を取り、とっさに臨戦態勢をとるアベル達。


 だが、不意にアベルの視界がぐにゃりと曲がる。敵から何か攻撃を受けたのだろうか。とっさに再度《索敵》を発動するも、やはり敵の気配はない。どうやら、攻撃ではないようだ。


 視界が歪んだかと思うと、アベルの体が鏡へと吸い寄せられていく。とても強い力。抵抗も出来ず、体が前方へと引きずられていく。そのままアベルの手が鏡面に触れた瞬間、再び鏡が怪しく光り、アベルの視界が真っ赤になる。


 徐々に光が弱まっていき、視界が晴れていく。それと同時に、曲がった視界も元に戻る。気が付くと、目の前にあったはずの鏡は無くなっており、鏡の中に映っていたはずの金色の獣と甲冑男が目の前に立っている。


 アベルはすかさず後ろに飛び退き、甲冑男と金色の獣から距離を取る。剣を構え、警戒するアベル。辺りを見回すと、ラドもアベルの横で姿勢を低く構え、臨戦態勢を取っている。だが、ティナの姿が見えない。


 不意に、後ろからドンドン! と何かを叩く音が聞こえる。

 前方を警戒しつつ、後ろを振り返るアベル。そこに映っていたのは、透明な壁を叩くティナの姿であった。


「まさか、鏡の中に閉じ込められたのか!?」


 アベルはやっと状況を理解する。どうやら、アベルとラドは鏡の中へと吸い込まれてしまったようだ。ティナは、鏡の外で吸い込まれたアベル達を鏡越しに見ているのだろう。


 再び、《索敵》を行うアベル。今度は、1つだけ敵の反応がある。甲冑男と金色の獣の背後にいるようだ。だが、一つ気がかりな点がある。目の前の男と獣からは、《索敵》の反応はない。つまり、モンスターではないようだ。では、何者なんだろうか。


「クルルルルル」


 そんなことを考えていると、金色の獣が高い唸り声をあげる。ヘルハウンド戦で聞いたラドの声と全く同じだ。次の瞬間、目の前に突如として獣の爪が現れる。どうやら、金色の獣が凄まじい速さで間合いを詰めてきて、右前足で攻撃を仕掛けてきたようだ。


キィン!!


 アベルはとっさに、デュランダルを爪と自身の体の前に差し出し、獣の攻撃を受け止める。ベヒーモスの魔石で剣速を向上させているおかげだろう。完全に虚をつかれた攻撃であったが、何とか防御することができた。


「く! モンスターじゃないのに、なんでこいつは攻撃してくるんだ!?」


 突然鏡に吸い込まれ、モンスターではない何かに襲われる。正直、何が起こっているのか全く分からない。だが、戦わなければやられる。


「ラド! 様子を見ながら、慎重に戦うよ!」


「キュウ!」


 分からないことだらけの中、《ミラージュの塔》最上階での戦いの幕が切って落とされた。


お読みいただき、ありがとうございます。

次回、鏡の中の闘いです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵は自分自身?か、 ミラージュの塔らしいラスボスだな。 [一言] ティナの正体、これはほぼ確定かな
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