第55話 ついに、魔剣・デュランダルが完成する
翌日、アベル達はギルドの受付に来ていた。ベヒーモスの討伐を報告するアベル達。
「べ、ベヒーモス!? Sランクでも上位のモンスターじゃないですか!」
アンナがいつも通り驚きの声を上げる。
「今回は、かなり危なかったんですよぉ!」
ティナがハァッとため息をつきながら口を開く。ラドもウンウンと頷き、ティナに同意している。
「そ、そうですよねぇ。ベヒーモスなんて、伝説級のモンスターですし。ベヒーモスの討伐報酬は30万ゴールドになります。第三階層の詳細マップと、ボスの情報の提供が2万ゴールド。合わせて32万ゴールドの報酬になります。それでは、冒険者プレートを出して頂けますか?」
アベルとティナが銀色のプレートをアンナに手渡す。アンナがプレートを機械に差し込み、討伐手続きを進める。
「はい、手続き完了です。二人とも、Sランクへの昇格が段々見えてきましたね。」
ティナが嬉しそうにニコッと笑う。Sランクへの昇格には、Aランクダンジョンでの報酬総額100万ゴールドとSランクモンスターの1体討伐実績が必要だ。ここまでの報酬総額は72万ゴールド。Sランクモンスターは2体討伐済みだ。順調にいけば、次の階層突破でSランクに昇格できる。
◇◆◇◆
4日後、アベル達はバズの工房を再び訪れる。
「バズさん、お久しぶりです! デュランダルを取りに来ましたよぉ!」
ティナが大きく手を振りながら、カウンター奥のバズに話しかける。
「おーう、嬢ちゃんにアベル坊、それにラド! 待ってたぜ!」
そう言いながら、カウンターの下から一振りの剣を取り出す。大きさは一般的なロングソードほど。鞘は黒色をベースとしているが、煌びやかな金色の装飾が施されている。柄はシンプルな黒色。鍔は金色で、鞘に合わせて少し派手目な装飾となっている。グリップと鍔の境目に大きな丸い穴が開いているのが目を引く。バズが鞘から剣を抜くと、白色に光り輝く剣身が現れる。あまりの美しさに、しばし見惚れるアベル達。
「これが、魔剣・デュランダルだ。どうやら、今までのアベル坊の武器とはちょっと違うみたいだぜ」
今までと違う? どういうことだろうか。アベルが首をかしげていると、バズがニヤっと口元に笑みを浮かべながら話を続ける。
「柄の上部に、丸い穴が見えるだろ? そこに魔石をはめ込めるようになっててな、魔石の魔力で剣を強化できるみたいだ。まさに魔剣士専用の剣だな」
魔剣士は、魔力で刃をコーティングして戦う。アベルは今まで、自分の魔力のみでそれを行っていた。だが、魔剣・デュランダルの使い手、先代勇者は自身の魔力だけでなく、魔石の魔力も使って剣を振っていたようだ。
「なるほど……それは盲点でした。魔石は何でもいいんですか?」
「ああ。だが、基本的には黄色の魔石がいいだろうな」
「アベル。ちょうど、ベヒーモスの魔石があったわよね。早速はめてみない?」
アベルが剣を持ち、ベヒーモスの魔石を剣にはめる。その瞬間、剣がスッと軽くなる。まるで重さを感じない。軽く素振りをする。
シュン! シュン!
乾いた音。いつもより、かなり剣速が速い。魔石を外し、もう一度軽く素振りをしてみる。
ブン! ブン!
剣速が遅くなる。剣も重い。やはり、ベヒーモスの魔石には、剣速が速くなる効果があるようだ。
「黄色の魔石は、種類によってさまざまな効果があるぜ。色々な魔石を試してみるんだな!」
バズの言葉に、アベルは腕を組んで考え込む。ベヒーモスは、スピードが凄まじい敵だった。恐らく、魔石にもその性質が現れているのではないか。そうであれば、パワー型のモンスターが落とす魔石を使えば、斬撃の威力が増すだろう。もしかしたら、回復力が高いモンスターの魔石を使えば、攻撃するたびに体力を回復する効果を得られるかもしれない。
しかも、魔石を交換するだけで効果を変えられるのはかなりの利点だ。敵に合わせて使用する魔石を変えれば、戦術の幅はかなり広がる。戦術を駆使して戦うスタンスのアベルにふさわしい武器と言える。
「バズさん、ありがとうございます! まさに僕にピッタリの武器です!」
バズが無言でニカっと笑い、右手親指を突き立てている。
「よかったわね、アベル! それじゃ、明日からはついに第四階層の攻略開始ね!」
ティナがウィンクをしながらアベルに笑いかける。ラドもアベルの足元をクルクルと周り、嬉しそうだ。5日ぶりのダンジョン攻略。二人とも、待ち遠しかったのだろう。
「そうだね。明日からは第四階層。恐らく、塔の最上階だ」
塔は目測60メートル。各階層は高さ15メートル程であったから、恐らく塔は4階建てだ。《ミラージュの塔》踏破目前。あとひと踏ん張りだ。
だが、一筋縄にはいかない《ミラージュの塔》だ。最終階層のボスは、どれほど手ごわい相手なのだろうか。少しだけ、胸騒ぎのするアベルであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、ミラージュの塔、最上階です!