第54話 謎の部屋の奥にあったもの
カラン。
ベヒーモスが光の粒となって消えた後、何かが地面に落ちたようだ。ラドがタタっと音がした方に駆け寄っていく。アベルの元へと戻ってきたラドが口にくわえていたのは、黄色い魔石だった。
「ベヒーモスの魔石……武器の改造に使えるかもね」
「うん! 帰ってバズさんに聞いてみましょうか!」
「でも、その前に、第一階層に行こう。今なら、アレを倒せるかも」
アベルの言葉に、コクっとうなずくティナとラド。3人は第一階層の最奥、ガーディアン・ドラゴンがいた部屋へと向かう。
◆◇◆◇
アベルは第二階層への階段の隣、閉ざされた扉の前に立つ。モンスターの気配が漂う扉。以前、未完成の《居合》で切りつけるも、ビクともしなかった扉だ。
「どう? アベル、いけそう?」
ティナがアベルの顔を覗き込み、問いかける。アベルはコクっとうなずく。
「多分、今度は行けると思う。それじゃ、始めるよ」
アベルは剣を抜き、両手持ちで上段に構える。目を瞑り、全身の魔力を切っ先に集中させる。
「――《居合》」
サン!
アベルが剣を振り下ろす。剣の軌道をなぞるかのように、扉の右上から左下にかけて、白く光る太刀筋が現れる。次の瞬間、扉はあっけなくガラガラと崩れ落ち、青く光り輝く。そして白い光の粒となり、扉は消えていった。
「やっぱり、この扉はモンスターだったみたいね」
ティナが消えた扉を見ながら、口を開く。実際、アベルが《索敵》を行うと、敵の反応が消えている。扉の奥を覗き込むと、通路になっているようだ。
「それじゃ、進んでみようか」
「キュウ!」
ラドがスルスルとアベルによじ登り、定位置の右肩にのってくる。この先、敵の反応はなく、警戒する必要がないためだろう。そのまま、アベル達は奥へと進んでいく。
20メートル程進んだところで、下へと続く階段が現れる。
「地下、みたいだね」
「確か、地下は保管庫だったような記憶があるのよねぇ……もしかしたら、そこに聖剣・デュランダルがあったかも!」
ティナの一言に、アベルとラドが驚いた様子で振り返る。
「ティナ、この塔に来たことあるの!?」
「え”」
ティナがしまったという表情を浮かべる。
「い、いや~! ま、まあいいじゃない、そんなこと」
ティナが冷や汗をかきながら、誤魔化そうとしている。そう言えば、塔に入る直前、ティナの様子が妙だった。それも、何か関係があるのかもしれない。ティナをジト目で見ながら、沈黙するアベル。
ティナは、バツの悪そうな表情を浮かべた後、観念したようにため息をつく。
「ごめんなさい。今はまだ言えないの。隠し事っていう訳じゃないんだけど……時期が来たら、ちゃんとお話しするわ!」
「分かった、余計な詮索はしないよ」
ティナが『今は話せない』と言うのであれば、今聞くべきではないのだろう。
そんなことを話していると、通路の奥、行き止まりにたどり着く。目の前の壁にあるのは、木製の扉。何かの部屋の入り口だろうか。アベルは扉に手をかけ、ノブをひねる。すると、ガチャッと音がして、扉が開く。カギはかかっていないようだ。
ギィッと扉を開ける。目に入ってくるのは、部屋の真ん中にある大きな台座。その上に剣が突き刺さっている。それ以外、部屋には何もない。
「あれが……聖剣・デュランダル?」
アベルが言葉を発する。
「そう……なのかな? 見たことないもの。分からないわ」
アベルは台座に近づき、剣に手をかける。吸い付くような感覚。グッと力を籠めると、抵抗なく剣が抜ける。
「うわ……ボッロボロねぇ」
ティナが顔をしかめる。とても、剣とは呼べないほどの状態。刃こぼれどころか、刀身全体にヒビが入っており、殺傷力はゼロだろう。
「まあ、ボロボロでも良いんだけどさ。これがオリハルコン製であれば」
別に、アベル達は聖剣・デュランダルを探しに来たわけでも、切れ味のいい剣を探しに来たわけでもない。どうせアベル専用に作り直すのだから、オリハルコン製の剣であれば、正直なんだっていい。
「うーん、とは言っても。シロートには分からないわね」
ティナが剣に近づき、ジーっと刃を見つめながらそう言う。となれば、やるべきことはただ一つ。
「結局、バズさんに見せるしかないね」
アベル達はダンジョンを離れ、バズの工房へと向かうのだった。
◆◇◆◇
「ああ、この剣は間違いなくオリハルコン製だぜ。それに、恐らく聖剣・デュランダルだ。書籍で見たことがある」
「本っ当ですか!? やったわね! アベル!」
バズの言葉に、カウンターをバンっと叩いて喜ぶティナ。大きな音を立てたティナに、ラドがモフモフの毛を逆立て、びっくりしている。ごめんごめん、と両手を顔の前で合わせ、ティナがラドに謝る。
「剣を作り直すのに、その剣とギルダさんからもらったオリハルコン鉱石で足りますか?」
いくらオリハルコンとは言え、あれだけボロボロなのだ。刃こぼれもひどい。アベルはオリハルコンの量が足りるか、少し気がかりだった。
「ああ。オリハルコンの量は十分だ。だが、こりゃあ作り直しじゃねーな。修復だ」
「どういうことですか?」
アベルは魔剣士だ。魔石でコーティングされた剣は使えない。なので、聖剣・デュランダルを一から打ち直す必要があるはずだ。それなのに、『修復』とはどういうことなのか。アベルはバズの意図がつかめない。
「聖剣・デュランダルとはよく言ったもんだ。こりゃ、『魔剣』だぜ」
「え?」
聖剣・デュランダルは先代勇者の剣のはず。と、言うことは。
「ああ。先代勇者は魔剣士で間違いねーな」
あっけにとられるアベル。その隣で、ティナが腕を組み、難しい顔をして考え込んでいる。
「ま、修復といっても、打ち直しと大してやることは変わらねーがな。これだけボロボロになると、一旦刀身を溶かして刀身を作り直す必要があるからな。違うのは、魔力コーティングのはがし工程があるか無いかくらいだ」
「それじゃ、バズさん。剣の修復、よろしくお願いします」
アベルの言葉に、バズがニカっと笑う。
「よしきた。代金は10万ゴールドだ。一週間後に取りに来な」
10万ゴールド。よし、何とか払えそうだ!
最高の剣が出来上がる喜びをかみしめながら、アベルはほんの少しだけ財布の中身を心配するのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、魔剣・デュランダル修復完了です!