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第53話 決戦・ベヒーモス~新スキル《居合》、炸裂~

「1……」


 《フロート》で上空7メートルに浮いているティナとの距離をグングン縮めていくベヒーモス。相変わらず、巨体に似合わない軽やかな身のこなし。跳躍しながら、右前足を大きく振りかぶる。ベヒーモスの強烈な一撃がティナに迫る。


「ラド! 《テレポート》!」


「キュウ!」


 ベヒーモスの鋭い爪がティナの体に触れる、まさに直前。ティナの体が強く光り輝く。バシュッという音とともに、凄まじい速度でアベルの隣にティナが移動してくる。どうやら、成功したようだ。アベルが安堵の表情を浮かべる。


「2……」


 これが、作戦一つ目のギャンブル。戦闘中の《テレポート》だ。普段、《テレポート》は街とダンジョンの移動に使っており、戦闘中に使ったことはない。しかも、離れたティナを単独で移動させるのも初めてだ。うまく《テレポート》が発動しなければ、ティナはベヒーモスの爪の餌食になるところだ。この作戦を話したとき、『できるか?』とのアベルの問いにラドはしっかりと頷いていた。アベルは、ラドならきっとやってくれると信じていた。


 ラドがドヤ顔でモフモフの胸を張っている。ニコッと笑みを浮かべるアベル。次はアベルの番だ。


 目の前の獲物が突如消え、狼狽している様子のベヒーモス。だが、そこは空中。身をよじり、はるか下にいるアベル達に追い打ちをかけようとするが、思うように体が動くはずもない。


 ベヒーモスの着地まで、約0.5秒。アベルがミスリルソードに全魔力を集中させていく。未完成の技、《居合》だ。


 アベルが目を瞑る。上空から聞こえるベヒーモスの咆哮が徐々に遠くなっていく。目の前は真っ暗。耳は何も聞こえない。自分の全身をめぐる魔力以外、何も感じない。アベルは今、戦闘中だということを忘れ、全神経を魔力制御に集中させている。


 今まで、アベルの《居合》が未完成だった理由。それは、『ティナとラドを守らなければ』という気負いだった。『自分がやられたら、二人が危ない。だから、技の発動中も周囲を警戒しなければ』。アベルはずっと、こう思いながら《居合》を発動していた。それが雑念となり、魔力制御に微妙なよどみが生まれていた。


 だが、今は違う。アベルは今、二人を完全に信頼し、頼っている。もし今、ベヒーモスに攻撃されても、ラドが守ってくれるはず。ケガをしても、ティナが回復してくれるはず。自分は自分の役割に集中すればいい。ただ、《居合》の発動に集中すればいい。


 アベルは今、全神経を攻撃のみに集中するも、死への恐怖は微塵も感じていない。ある意味、背水の陣とは真逆の心理。ピンチに陥っても、仲間が何とかしてくれるはず。仲間がいるからこそたどり着ける境地。これこそが、《居合》に必要だったのだ。アベルは誰に言われるでもなく、理解した。



 アベルはゆっくりと目を開く。右手に持つミスリルソードには、今までとは比較にならない程の量の魔力が、よどみなく伝わっている。ベヒーモスは……ちょうど着地する直前だ。アベルは穏やかな心で、一足飛びでベヒーモスに斬りかかる。《居合》は成功する。アベルは技を放つ前に、そう確信していた。


 アベルが右薙ぎの斬撃を放つ。剣に纏う魔力をアベルの後方に残し、鞘の中を滑らせるように刃を加速する。アベルの右手が前方に引っ張られていく感覚。己の筋力では到底出せない剣速で、刃がベヒーモスに迫る。刃を纏うのは、まるで精錬されたかのように薄く、強靭な魔力。一点の淀み、曇りなく刃全体を優しく包み込んでいる。


サン!!


 まるで剣が清水を斬るかのような軽い音。アベルのミスリルソードが、ベヒーモスの右後ろ脚を真っ二つにした音だ。刃がベヒーモスに触れたことすら感じられないほど、抵抗なくベヒーモスの体を切断する。


グォアアアアア!!!

「3……」


 ベヒーモスが大きな咆哮を上げ、倒れ込む。突如右後ろ脚を失い、バランスを崩したのだろう。一瞬遅れて、吹き上がる血潮。


 苦悶の表情を浮かべるベヒーモスが、辺りを伺う。怪訝な表情。それもそのはず。アベルがいないのだ。


「キュワー!!」


 ベヒーモスが右足を失った隙をつき、ラドが《威圧》を発動する。ベヒーモスが怯えた表情を浮かべ、動きが止まる。完璧なタイミングだ。


「4……」


 静寂の中、ティナの小さな声が響く。

 作戦は、ティナが《フロート》で上空7メートルに浮かんだ時から始まっていた。《ボルティックアロー》を打ち止めた瞬間、既にティナは《パワーショット》の準備に入っていた。

その後から今まで、アベル達は《プロテクション》も《ヒールウィンド》も無い状態。リスクの高い作戦だ。だがティナには、一切の躊躇などなかった。


 発動からちょうど5秒経過。ギャンブルは、アベル達の勝ちだ。


「5! 準備完了! いっっけー!!!」


 ティナの掛け声とともに、3メートル程の巨大な矢がベヒーモスに向かって飛んでいく。ティナの切り札、《パワーショット》だ。《威圧》で硬直しているベヒーモスには、回避など出来るはずもない。


 視界が真っ白に光り輝く。跡に残されたのは、上半身が消し飛んだベヒーモスの姿だった。


「終わった……」


 そう呟くアベル。ティナも安堵の表情を浮かべている。ラドはタタっとアベルの横に駆け寄ってきた。


――アベルはスキル・《居合》を獲得しました。


 アベルの頭の中には、待ち望んだその声が響いていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回、ついに聖剣・デュランダル発見です!


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― 新着の感想 ―
[一言] 保険の効かない状態での一発勝負だったが上手い事言ったな。 連携も新技も。
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