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第52話 決戦・ベヒーモス~イチかバチかの作戦、開始~


「《アイテムボックス》から出る前に、2人とも防御態勢取るのを忘れずにね」


 アベルの言葉に、はっとした表情を浮かべるティナ。


「そうだったわね。ベヒーモスの攻撃の直前だったわ」


 ベヒーモスとの戦いで、《アイテムボックス》内に一時避難した3人。だが、これには大きな欠点がある。避難中はどれだけ長くアイテムボックス内にいても、外の時間は一切流れないという点だ。例えば、敵の攻撃を受ける直前にアイテムボックスの中に避難したとしても。アイテムボックスから出れば待っているのは敵の攻撃だ。アイテムボックス内で1時間、いや一日過ごしたとしても結果は変わらない。しかも、ラドがアイテムボックス内にいると、新たにアイテムボックスを開くことが出来ない。避難時に使ったアイテムボックス以外に出口を作ることは出来ないのだ。


 つまるところ、アベル達が《アイテムボックス》から出れば、その直後にベヒーモスの強烈な一撃が炸裂するはずなのだ。


 アベルとティナは支援魔法をありったけかける。《筋力強化》に《魔力強化》、《プロテクション》×5に《ヒールウィンド》。そして、それぞれが防御態勢をとる。アベルは剣を抜き、ティナはクロスボウについた盾を構える。ラドはドラゴンクローを前方に突き出し、ベヒーモスの攻撃を受けるつもりのようだ。


「よし、じゃあ行こうか! せーの!」


ギィン!!


 アベル達3人が《アイテムボックス》から飛び出した瞬間、鈍い音が部屋中に響く。迫りくるベヒーモスの爪を、アベルが剣で受け止めた音だ。力と力のぶつかり合い。アベルは足を踏ん張り、何とかこらえきる。


 アベルが剣を大きく振り、ベヒーモスを薙ぎ払う。アベル、ラド、ティナの3人も後方に飛びのき、ベヒーモスから距離を取る。


「よし、作戦開始!! ラド、《フロート》だ!」


「キュウ!!」


 ラドが《フロート》を詠唱した瞬間、ティナの体が浮き上がる。そのままフヨフヨと天井に向かって上昇していくティナ。ベヒーモスはアベル達の行動の意図を掴めない様子だ。判断に迷い、体が硬直している。やはり、ベヒーモスは狡猾で頭がいい。『迷う』というのは、高度な知的機能だからだ。


 不意に、ベヒーモスが目標をラドに向かって飛び掛かってくる。アベル達の意図がつかめない以上、最もベヒーモスにとって安全な敵に目標を切り替えたのだろう。ラドのドラゴンクローは、ベヒーモスに効かない。つまり、ラドに接近しても、ベヒーモスに特に危険はないという訳だ。


 とても理性的なベヒーモスの行動にアベルは感心する。本当にベヒーモスは賢い。だが、だからこそ、それがあだとなるのだ。理性的に行動するということは、逆に言えば()()()()()()()()ということだ。アベルの口元からニヤっと笑みがこぼれる。――作戦通り。アベルは、ベヒーモスの行動を読んでいた。


ズガァン!!


 ラドに向かって勢いよく飛び掛かったはずのベヒーモスに、強烈な電撃が襲い掛かる。のけぞり、倒れ込むベヒーモス。だが、すぐに後方に飛びのき、辺りを警戒する。どこから攻撃されたのか探っているようだ。


 ベヒーモスの視線が、上空7メートルの地点にいるティナを捉える。ベヒーモスを襲った強烈な電撃、それはティナの《ボルティック・アロー》だ。ティナは《フロート》で上空へ逃れた後、ベヒーモスがラドに攻撃を仕掛けると予測。ラド前方の空間に照準を合わせ、ベヒーモスが飛び込んでくるのを待っていたのだ。


 ティナはすかさず、《ボルティック・アロー》を連射する。だが、その攻撃は悉くベヒーモスによけられてしまう。ベヒーモスはティナのクロスボウの照準を注意深く見つめながら、矢の弾道を予測しているようだ。だが、ベヒーモスも避けるのに精一杯といった様子で、攻撃に転じることができない。


 ティナが10発ほど《ボルティック・アロー》を撃ったあと、ピタリと射撃が止まる。その瞬間、ベヒーモスの口元が怪しく歪む。赤く輝く目がティナを捉える。獲物を狩る獣の目だ。


 弾切れ――に見せかけたアベル達の罠だ。《ボルティック・アロー》は速度が速く、ベヒーモスにとって厄介な攻撃だ。つまり、弾切れに見せかければ、まずティナを潰しにかかるだろうという読み。アベルの狙いは、上空にいるティナを、ベヒーモスに攻撃させることにある。つまり、ティナは囮と言う訳だ。


 アベルの読みは、見事に当たる。罠にはまったベヒーモスは、部屋の中央上空7メートルにて浮いているティナに飛び掛かる。凄まじい跳躍。グングンとティナの距離を縮めていく。


 アベルはその様子を見ながら、ふぅっと息を吐く。ここまでは作戦通りだ。全て、アベルの思い描いた通りに事が進んでいる。


 だが、問題はここからだ。ここから先は、成功する保証は全くない。3人が力を合わせ、阿吽の呼吸で動く必要がある。しかも、一人がミスをすれば、パーティー全員が危機にさらされる。イチかバチか、綱渡りのような作戦が今、始まる。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回、ついにベヒーモス討伐完了です!


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