第49話 ギルダに黒魔石をおねだりする
「ふむ。《ジャミング》か。それは珍しい罠だね」
マンチェストル支部のギルドマスター、ガイアスの言葉が部屋に響く。
《ミラージュの塔》第三階層でボスの居場所を見つけられなかったアベル達。翌日、ギルドマスターのガイアスのもとを訪れていた。第三層のボスを見つけるためには、アベルの《索敵》が不可欠。第三層では《ジャミング》によりアベルの《索敵》が封じられていたため、その解決方法をアベル達は探っている。
「ガイアスさん、《ジャミング》を無効化する方法について、知りませんか?」
アベルが単刀直入にガイアスに尋ねる。ちなみに、アベルは『ギルドマスター』としてのガイアスのことは『ガイアスさん』と呼ぶ。一方、『剣の師匠』としてのガイアスのことは『師匠』と呼ぶ。アベルのこだわりだ。
「もちろん、知ってるよ。《ジャミング》は《デスペル》で無効化できる。《デスペル》は、あらゆる罠を無効化できるからね」
ガイアスの返答に、ティナとアベルが驚きのあまり視線を合わせる。正直、いきなりドンピシャの情報が手に入るとは思っていなかった。
「《デスペル》って、スキルの一種ですか? もしかして、黒魔石?」
ティナの質問に、ガイアスがコクっとうなずく。
「ああ、その通り。黒魔石を加工した魔道具があれば、《ジャミング》を無効化できるはずだよ」
黒魔石。となれば、頼るべき人物は一人だ。
「それじゃあ、この後はギルダさん訪問で決定ね、アベル!」
「うん。思いっきり、頼らせてもらおう」
アベルの言葉に、ティナとラドが驚いた様子で、目を見開く。何か変なことを言っただろうか。ティナとラドは互いに目を合わせた後、ニコッと笑う。
なぜか上機嫌のティナとラドを連れ、アベル達はギルダの別荘へと向かう。
◇◆◇◆
「《デスペル》の黒魔石ですか。はい、明日の朝までには用意出来ますよ。珍しい魔石ではないですから」
ギルダがにこやかにそう即答する。
「さすがギルダさん! 本ッ当に助かります!」
ティナがペコっとお辞儀をしながらお礼を言う。
突然の訪問にも関わらず、ギルダは仕事を調整してアベル達の相談にのってくれた。しかも、黒魔石を融通して欲しいというアベル達のお願いを、快く引き受けてくれるという。ギルダの助けに、感謝しかない。
「ありがとうございます、ギルダさん。今後も色々とお世話になると思いますが、よろしくお願いします。何か困ったことがあったら、ギルダさんも遠慮なく僕達を頼って下さいね」
アベルの言葉に、驚いた表情を浮かべるギルダ。そして、フッと笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「ええ。そうさせて頂きます。アベルさんが私を頼ってくれて、私もとても嬉しいですねぇ。困った時、ピンチの時こそ助け合う。それが、信頼関係というものですから」
嬉しそうにそう言うギルダ。ティナとラドもウンウンと頷いている。
「ギルダさんのお陰で、《デスペル》に関しては何とかなりそうね。それじゃ、最後に戦力増強と行きましょうか!」
ティナに引っ張られながら、アベル達はバズの工房へと向かう。
◇◆◇◆
「クァールの魔石に、クァールの髭だと!? こりゃまた、レアな素材もってきやがったな!」
「ねえねえ! 今度はどんな改造ができそうですか!?」
バズの言葉に、ティナが食い気味に質問する。やはり、武器の改造が楽しみだったみたいだ。
「クァールの髭は、威力アップに使えるぜ。だいたい、5割増しくらいの攻撃力だな。魔石の方は、いくつか選択肢がある。『連射性能向上』、『範囲攻撃追加』、『射出速度向上』、『防御力向上』のうち、どれが良い?」
バズがニヤっと笑みを浮かべながら答える。ティナは腕を組んで考え込んだ後、口を開く。
「アベル、魔石の方はどうすればいいと思う? わたしは、『防御力向上』かなぁって思うんだけど」
「うん。僕も同意見だ。『防御力向上』がいいと思うよ」
範囲攻撃はラドの《ライトニング・バースト》があるし、速度は《ボルティック・アロー》で十分だ。となると、連射性能向上と防御力向上の二択になるが、現状連射性能に特段不満はない。ティナは回復の要なので、ティナの防御力を向上する方がメリットが大きい。
「よっしゃ! それじゃ、クァールの髭を使った威力向上と、魔石を使った防御力向上だな。防御力の方は、前にクロスボウにつけた盾を強化する形になるぜ」
「分かりました。それでお願いします」
「OK。それじゃ、明日の朝取りに来てくれ。お代は5万ゴールドだ」
鉄巨人を倒した報酬がまだ残ってるので、5万ゴールドなら問題ない。だが、武器や防具に使う金額がかなり増えてきた。今後、アベル用の剣を作るお金も必要だし、防具も強化していかなければならない。金策について、少し考え始めなければならないと思い始めたアベルであった。
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次回、第三階層のボスが明らかに!?