第47話 第三階層、2つの戸惑い
《ミラージュの塔》・第三階層。そこは、アベル達にとって2つの意味で予想外な場所であった。一つ目は、その見た目だ。
「な、なにここ。まるでジャングルの中みたい。ここ、塔の中なのよね?」
ティナが戸惑いの声を上げる。足元には膝下ほどの高さの草に、延々と続く木々。木にはツタが巻き付いており、いかにもジャングルといった風貌だ。天井は15メートル程あり、強く光り輝いている。そのため、ダンジョン内はまるで屋外にいるかのように明るい。ティナが驚くのも無理はない。
アベルも、驚きで開いた口が塞がらない。だが、驚きの理由はティナのそれとは少し違っていた。アベルは周りの景色に驚いているわけではない。
「さ、《索敵》が効かない……」
「え!?」「キュ!?」
アベルの言葉に、ティナ、そしてラドまでもが驚きの声を上げる。アベルの《索敵》は、ダンジョンの探索でなくてはならないスキルだ。敵の居場所を常に把握できるため、不意打ちされることがなくなるからだ。《ミラージュの塔》という危険なダンジョンをアベルの《索敵》なしで歩き回るのはリスクが大きい。
もちろん、《索敵》ができなければ、ラドの《牽制》もできない。《牽制》は敵をにらんで襲われないようにするスキルのため、敵の位置が分からなければ発動しないからだ。つまり、現状では敵の奇襲を防ぐ手立てがない。
いきなり想定外の状況。アベル達は、第二階層に戻って一旦作戦会議を練ることにした。
「《索敵》、なんで効かないのかな?」
ティナが首を傾げながら口を開く。
「分からない。ただ、《索敵》が発動しないわけじゃなくて、何かに邪魔されている感じなんだ」
「うーん、もしかして、《ジャミング》かな?」
ティナは何か心当たりがあるようだ。だが、《ジャミング》なんて聞いたことも無い。
「《ジャミング》ってスキルか何か? 初めて聞く名前だ」
アベルの質問に、ティナが答える。
「わたしもお母さまから聞いたことがあるだけだから、詳しくは知らないんだけど。《ジャミング》は冒険者のスキルを妨害する罠の一種なの。とても珍しいみたいなんだけど」
確かに、《ジャミング》が原因で《索敵》が使えなくなったと考えるのは妥当かもしれない。アベルの『邪魔されている感覚』とも整合する。さらに、第二階層に戻った途端に《索敵》が再び出来るようになった。第三階層で《ジャミング》の罠が仕掛けられている可能性は高そうだ。
「なるほど。一理ありそうだね。ただ、情報が足りない。一旦第三階層に戻って、色々と実験をしてみよう」
アベル達は第三階層に戻り、階段付近で周囲を警戒しながら実験をすることにした。
「まず、《ジャミング》の影響範囲を知る必要がある。回復魔法まで封じられるとかなりヤバいからね」
アベル達は、一通りスキルを詠唱してみる。《プロテクション》に、《ヒール》に、《筋力強化》、その他全てのスキルを試してみた。その結果、封じられているのは《索敵》、《牽制》、《フロート》の3つだけということが分かった。
「《フロート》まで封じられているのは痛いわね。天井近くを飛んで探索すれば、敵に遭遇することも無かったのに」
「そうだね。でも、《ヒール》が封じられていないのは助かったよ。これなら、なんとか探索を進められそうだ」
アベルが安堵の表情を浮かべる。もし、《ヒール》まで封じられていたら、《ジャミング》を何とか解除するまで探索を見送る必要があったためだ。
「基本は、《ヒールウィンド》をかけっぱなしで進もう。そうすれば、最悪奇襲を受けてダメージを負っても致命傷にならずに済む」
アベルの作戦指示に、ティナとラドがコクっとうなずく。
「攻撃と防御のパターンは2つに限定しよう。不測の事態に対処しやすくなるからね。敵を発見して、先手を打てそうなら《ボルティックアロー》で攻撃。逆に敵に襲われたら、ラドの《ライトニング・バースト》で迎撃。基本はこれでいく」
「やった! 早速新しい連携スキル・《ボルティックアロー》が活躍するのね! 楽しみ!」
――ボルティックアロー。ティナのマジックアローと、ラドのライトニング・バーストの連携スキルだ。マジックアローを雷属性に変換するスキルで、雷の如くとてつもなく速い矢を放つことが出来る。基本的に回避が不可能で、遠距離の高速攻撃が出来るため、どんな敵が出てくるか分からない第三階層では攻撃手段として最適という訳だ。
「ラド、ごめんね。ライトニング・バーストの連発になるから、ちょっとしんどいと思うけど、頑張ってくれる?」
「キュウ!!」
ラドは、心配いらないと言わんばかりにモフモフの胸を大きく張り、ドヤ顔をしている。ラドの方も問題なさそうだ。
「よし。じゃあ、《ミラージュの塔》第三階層、攻略開始だ」
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