第46話 アベルに足りないもの
「アベル、すごかったじゃない!! 新技、ついに完成したのね!?」
ティナが驚きと喜びを足し合わせたような表情を浮かべている。ラドも嬉しそうにアベルの右肩によじ登り、アベルの頬に頭の裏をこすりつけている。ラドも嬉しさを表現しているようだ。
だが、一方のアベルは苦笑いを浮かべている。
「うーん、技術的には問題ないんだけど……まだ技は未完成みたいなんだ。多分、師匠の言ってた『心の部分』。それがまだみたいだ」
ティナが一瞬驚いた表情を浮かべた後、優しく微笑んで言葉を続ける。
「そう。でも、きっとすぐに完成するわ。ガイアスさんの言っていた『壁』、もうほとんど答えは出てるんじゃないかな。アベル、出会った頃と比べて、大分変わったわよ。もちろん、良い方向にね」
ラドもフカフカの毛でアベルに頬ずりをしてくる。ラドもティナと同意見のようだ。
「うーん、個人的には特に変わった気はしないんだけどな。ティナの言う『答え』ってのもイマイチピンとこないし……」
優しく笑いながら、首を横に振るティナ。
「そんなことないわ。多分、あなた自身が気付いていないだけよ。ね、ラド?」
「キュウ!」
アベルの肩の上で、ラドは満面の笑みを浮かべている。またもやティナに同意のようだ。
不意に、部屋の真ん中でキラッと地面が光る。ダダっとラドがアベルの右肩から飛び降りて、そこへ駆け寄っていく。どうやら、鉄巨人が魔石を落としたようだ。アベルの元に戻ってくるラド。その口元には、赤い魔石がくわえられていた。
「久しぶりの魔石だね。それじゃ、早速始めようか」
アベルがラドから魔石を受け取り、手のひらの上にのせる。宙に浮いた魔石は、ラドの額へと吸い込まれていった。
――幻獣・ラドは魔石を吸収しました。連携スキル・《経験値10倍》が発動します。
――《経験値10倍》の効果により、ラドに貯蓄された経験値が10倍になってアベルとティナに還元されます。
――アベルのレベルが106に上がりました。
――ティナのレベルが102に上がりました。
――《経験値10倍》の効果により、幻獣・ラドのステータスが大幅に上昇しました。
――幻獣使いの能力により、幻獣・ラドのステータスがアベルに還元されます。アベルのステータスが大幅に上昇しました。
「うわ! レベル100超えちゃったわね……これってかなりすごいんじゃない?」
ティナが驚きの声を上げる。
「ガーディアン・ドラゴンとか鉄巨人とか、強敵をたくさん倒したからね。それにしても、レベル100超えなんて、先代勇者パーティー以来じゃないかな? 少なくともウチのギルドだとレベル70代までしかいないはずだよ」
「いよいよ、本当にバケモノじみてきたわね。わたしたち」
「それでも、この《ミラージュの塔》を攻略するには十分なレベルかどうかは分からない。今後も慎重に進もう」
「ええ、それがいいわね」
アベルの言葉に、ティナが気を引き締める。ふとラドに目をやると、まだ《経験値10倍》の発動中のようで、白く光り輝いている。今回入手したのは赤い魔石。ということは、もう一つイベントがあるはずだ。
――魔石「鉄巨人」を吸収した効果により、スキル・《ライトニング・バースト》をラドが覚えました。
「キュウ!」
ラドが喜びのあまり、飛び跳ねている。取得したスキルは、ライトニング・バースト。恐らく、鉄巨人がカウンターに使っていた、雷属性の範囲攻撃スキルだ。そう言えば、《蒼の集い》のリサが得意にしていた雷系のスキルは《ライトニング》だった。どうやら、その上位スキルのようだ。
「範囲攻撃のスキルはありがたいわね。敵に囲まれたときに便利そう」
「あと、雷属性の攻撃手段が手に入ったのも大きいよ。雷は攻撃スピードが速いから、回避が困難なんだ。あと、水に向かって放てば水中を電気が伝搬するのもメリットだね。水中にいる敵を一網打尽にできたりするから」
これで、ラドが使えるスキルは炎、風、雷の3属性になった。これからは、敵の弱点に合わせてスキルを切り替えるなど、戦術面の幅も大きく増えそうだ。
「それじゃ、今日は一旦帰ろうか。アンナさんに討伐報告もしないといけないしね」
◇◆◇◆
アベル達は一旦マンチェストルに帰り、アンナに第二階層ボスの討伐を報告する。どうやら、『鉄巨人』は新種らしく、ギルドでも全く情報を持っていないとのことだ。報酬については、新種のSランクモンスターとして扱われ、ガーディアン・ドラゴンと同格の20万ゴールドが支払われることとなった。
明日からは、《ミラージュの塔》第三階層だ。《ミラージュの塔》は想定していたよりかなりの難関だ。第一階層、第二階層共に、命の危険を感じるほどだった。階を上がるにつれ、ダンジョンの危険度はどんどん増していく。
未だアベルの新技は完成しない。ガーディアン・ドラゴンも鉄巨人も、アベル一人の力では到底敵わない相手だった。
(今後は、もっとラドやティナを頼ることになるな)
アベルは心の中でそう呟いていた。
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次回、第三階層探索です!
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