第45話 決戦、鉄巨人~一発勝負の必殺技を3人同時にたたき込む~
鉄巨人との邂逅の翌日、アベルはギルドの鍛錬場にて魔剣の魔力制御の修行を行っていた。一日16時間にも及ぶ鍛錬。ひたすら剣を魔力で覆い、剣を振るった。
その日の修行は、ほぼ成果なく終わってしまった。剣に纏わせた魔力の操作は難しく、何千回と素振りを行っても、魔力の流れがぎこちないままだった。相変わらずインパクトの瞬間に刃に纏った魔力が邪魔をし、切れ味が鈍る。魔力を用いて剣速を加速するという《居合》の特徴も、頭では理解しているもののなかなか理論を実践できなかった。
そんな壁を打ち破ったのはガイアスのアドバイスであった。次の日の早朝、らちがあかなくなったアベルは、アドバイスをもらいにギルドマスター・ガイアスの居室へと向かう。アポなしの訪問であったが、ガイアスは快く修行に付き合ってくれた。
ガイアスが言うには、《居合》は鞘の中で剣を滑らせる感覚だという。アベルはこれまで、魔力で剣を押し出し、無理やり加速させる感覚で魔力を操作していた。このイメージだと、剣に無駄な力が伝わり、魔力の流れがぎこちなくなってしまう。そうではなく、例えば前方の磁石に剣が引っ張られていくように、鞘の中を刃が滑って加速していく感覚だという。
ガイアスのアドバイスの後、何かを掴んだかのようにアベルの《居合》の精度は格段に向上していった。剣に無駄な魔力が伝わることが無くなり、魔力の鞘の中でスムーズに剣を加速できるようになった。また、無駄な力が加わらなくなったため、魔力操作の精度も格段に向上した。
さらに翌日、ひたすらインパクト時の魔力量調整の練習をする。インパクトの瞬間、刃を覆う魔力量が多すぎると魔力が邪魔をして威力が半減する。しかし、魔力量が少なすぎると刃がもろくなり、剣が折れてしまう。絶妙な魔力量を見極める必要があった。
何百回の試行錯誤の末、アベルの《居合》にとって最適な魔力量を見出す。その後は、剣を振り込んでその魔力量の制御を体にたたき込んでいく。今回のミッションは、一撃必殺。失敗イコール死を意味する。失敗は許されない。少しでも技の成功率を上げるべく、何度も何度もアベルは《居合》を繰り返した。
鉄巨人との邂逅から3日後、アベル達は再び《ミラージュの塔》第二階層の最奥、鉄巨人のいる広間の入り口前まで来ていた。
血のにじむような3日間の努力を思い出すアベル。そして、広間の入り口から、3体の鉄巨人に目をやる。かなりの強敵。カウンターを一度でも喰らえば、恐らく即死だろう。先手必勝。初撃の失敗は許されない。だから、そのためにこの3日間、技の精度を上げてきたのだ。絶対に成功できる。いや、させなければならない。
「ティナ、ラド。準備はいい?」
「私はいつでもOKよ!」「キュウ!」
ティナが自信満々の笑みを浮かべ、返事をする。ラドもアベルの右肩からバッと飛び降り、身をかがめて戦闘態勢を取る。
「よし、作戦開始!」
「《パワーショット》」
アベルの掛け声とともに、ティナが《パワーショット》の発動準備に入る。膨大な魔力をクロスボウへと凝縮していくティナ。その様子を見てから、アベルが目をつむり精神統一を行い、《居合》の発動準備に入る。魔力を刃へとゆっくり集中させていく。魔力で鞘を作り、優しく刀身を覆いつくすイメージだ。
「準備、出来たわよ」
「……僕もだ」
きっかり5秒後、ティナのクロスボウに巨大な矢が出現する。アベルの方も、《居合》の準備完了だ。刃の周りに、よどみなく魔力が漂っている。
「よし、中央奥は、ティナ。右前方はラド、左前方は僕だ。作戦開始!」
アベルの合図とともに、ティナが部屋の外から矢を放ち、アベルとラドが部屋の中へと飛び出していく。アベルとラドが部屋へと入った途端、部屋の入り口に魔法陣が現れる。やはり、部屋の中に入ったが最後、ボスを倒すまでは外に出られない仕組みのようだ。
まずはティナの青白い矢が中央奥の鉄巨人を直撃する。三日前の戦闘の完全再現映像が目の前に繰り広げられる。鉄巨人の上半身が青い光に飲み込まれ、消失する。鉄巨人を1体仕留めることに成功した。残りは2体。
ラドがその素早さであっという間に右前方にいる鉄巨人との間合いを詰めていく。鉄巨人が盾に身を潜め、防御姿勢を取る。ラドはそのまま鉄巨人に高速で近づき、左前足を一閃。鉄巨人の持つ盾と前足のインパクトの直前、ラドは《アイテムボックス》を発動する。突如としてラドの前足に現れる巨大なドラゴンクロー。ラドはそのまま左前足を振りぬき、盾を切り裂く。
突如現れた爪に盾を破壊され、動揺する鉄巨人。ラドはその隙を見逃さない。右前足で地面をけり、再び鉄巨人へと襲い掛かる。盾を失って無防備の胴体を両前足で何度も切り裂いていく。十数回にも及ぶ乱撃を受けた鉄巨人の胴体は無残にもボロボロになり、鉄巨人の体がボウッと青白い光に消えていく。残りは1体。
アベルは右手に持つミスリルソードに意識を集中させる。剣を覆う魔力を丁寧に制御しながら、最後の一体の鉄巨人へと走っていく。鉄巨人は、右手にもつ大剣でアベルの斬撃を受けるつもりのようだ。
アベルは鉄巨人との距離を慎重に測る。自分の間合いに入った瞬間、右手に持つミスリルソードで右薙ぎの斬撃を放つ。魔力の鞘の中を滑らせるように、剣速を加速していく。アベルの目は大きく見開かれており、その視線はミスリルソードの切っ先へと集められている。ミスリルソードと鉄巨人の大剣とのインパクトの瞬間、アベルはミスリルソードを覆う魔力の量を減らしていく。流れるようにスムーズに魔力が切っ先から剥がれ落ちていく。
そのままアベルの剣は鉄巨人の大剣の刃の中へと潜り込んでいく。インパクトの瞬間に起こる、ほんの少しの魔力の乱れ。強い抵抗を感じつつ、歯を食いしばりながら力を籠めるアベル。技術的には完成しているはずのアベルの技。だが、ガイアスの言う精神面、それが未完成のようだ。
とはいえ、今ここで鉄巨人を仕留め損ねたらパーティーは全滅だ。アベルは渾身の力で剣を振るう。
ザン!!
なんとか剣を振り抜くアベル。目の前にいるのは、大剣とともに真っ二つになった鉄巨人だ。
ズルっと鉄巨人の胸から上の部分が横滑りし、ズズンと言う音とともに床へ落下する。その直後、鉄巨人の体が青白く光り輝き、粒となって消えていく。一発勝負はアベル達の勝ちのようだ。
背後を振り返ると、入り口をふさいでいたはずの魔法陣がブンッと言う音とともに消え失せる。第二階層のボス・鉄巨人の討伐に成功した証拠だ。
「やったわね! アベル!」
「キュウ!」
アベルのもとに、ティナとラドがタタっと駆け寄ってくる。3人の力を合わせた闘い。二人がいたからこそ、今回も勝つことができた。ティナとハイタッチを交わすアベル。ラドはアベルの胸に飛び込んできて、モフモフの毛をこすりつけてくる。なんだか、とても安心する。信頼できる仲間がいることがこんなに心強いなんて、今まで思いもしなかった。そんな自分に、少しだけ戸惑いを覚えるアベルであった。
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