第43話 ラドの新武器でリビング・アーマーを八つ裂きにする
新調した武器防具をもってミラージュの塔に入ったアベル達。第一階層のオーガを軽く蹂躙しつつ、ガーディアン・ドラゴンがいた広間にたどり着く。モンスターの気配がする扉を捨て置き、アベル達はそのまま第二階層に駆け上がる。
階段を上り終わると、塔内の雰囲気が一変する。まるで廃墟となった城のような光景。薄暗く細い通路が続き、壁にはいたるところに蜘蛛の巣が張っている。まるで幽霊でも出てきそうな雰囲気だ。
「うわ……えらい雰囲気が変わったわねー」
ティナが目を丸くしている。だが、その顔に恐怖の色は全く見えない。高いところが苦手なティナだが、こういう怖さは大丈夫らしい。
「この感じだと、モンスターもアンデッド系かもね……っと、早速お出ましだ」
アベルが《索敵》を使うや否や、いきなり敵の反応を確認する。
「前方T字路の右50メートルに敵影が1体。こっちに向かって走って来てる」
こちらの気配がバレているのだろうか、敵はグングン距離を縮めてくる。
――ガシャン、ガシャン
右前方から、不気味な音が聞こえてくる。明らかに金属音だ。
「これ、敵の足音よね。これって――」
ティナが口を開いた瞬間、前方のT字路より銀色の古びた甲冑が現れる。左手に大きな盾を、右手にはロングソードを持っている。一見、騎士のようにも見えるが、明らかに不自然な点が一つある。兜をかぶっていないのだ。いや、と言うより首より上が無い。
「首無しの甲冑、リビングアーマーだね。弱点の首がないから、鎧ごと叩き切らないといけない厄介な敵だね。――ラドの新武器の試し斬りにピッタリなんじゃないかな」
アベルがニヤっと笑みを浮かべる。リビングアーマーの甲冑は分厚く、今までのラドの爪では通らないはずだ。
「キュウ!」
モフモフの胸を張りながら、自信満々の笑み浮かべるラド。その前足には、ドラゴンクローがしっかりと装着されている。だが、そこにあるのは籠手の部分だけで、肝心の爪が見当たらない。ラドの機動力を損なわないよう、爪の部分は《アイテムボックス》に収納されているためだ。
ガシャンガシャンと耳障りな音を鳴らしながら、リビングアーマーが近づいてくる。ラドがダダっとリビングアーマーに駆け寄っていく。リビングアーマーは向かってくるラドを視認すると、行進を止め、ラドを迎え受ける。盾を構え、ラドの攻撃に備えるリビングアーマー。右手はしっかりとロングソードを握りしめている。恐らく、盾でラドの攻撃をはじいた後、ロングソードでのカウンターを狙っているのだろう。
ラドが大きく右前足を振りかぶる。盾に身を寄せ、衝撃に備えるリビングアーマー。ラドが足を振り下ろす瞬間、《アイテムボックス》を発動する。突如として、ラドの右前足に長さ30cmの鋭利な爪が現れる。ラドのドラゴンクローがリビングアーマーの盾にサクッと突き刺さる。そのまま、まるで紙切れを破るかのように、リビングアーマーの大きな盾が斜めに切り裂かれる。ドラゴンクローは、盾もろともリビングアーマーの左ひじを切断する。ガシャンと音を立てて、盾と左腕が地面に落ちる。
リビングアーマーの動きが一瞬止まる。予想外の強力な攻撃に、動揺しているのだろうか。ワタワタと右手のロングソードを振り上げ、ラドへ攻撃を仕掛けようとするリビングアーマー。だが、重い甲冑を着ているだけあり、その動作は遅い。
ラドは流れるような動きで一旦ドラゴンクローを《アイテムボックス》にしまい、軽快にリビングアーマーの懐に飛び込む。そのまま左前足で右薙ぎの斬撃を放つ。攻撃の瞬間、再び《アイテムボックス》が発動。突如現れたドラゴンクローに、リビングアーマーは為す術もなく八つ裂きにされる。ぼろ雑巾のようにズタズタにされたリビングアーマーは床へと崩れ落ち、青白い光となって消えていった。
「はぇ~、すっごい切れ味ね!」
ティナが驚きの声を上げる。ラドは得意気に尻尾をぴんとたて、上機嫌だ。
「《アイテムボックス》の出し入れもスムーズだね。敵からしたら、急にリーチが伸びたように感じるだろうし、思った以上に強力だね」
実際、ラドの攻撃を初見でいなすのは至難の業だ。先手をとれば何も知らないモンスターにいきなり大ダメージを与えることもできる。ドラゴンクローによる攻撃は、敵にとってかなりの脅威だろう。リビングアーマーの動揺した様子が、その証拠だ。
その後も、何度もリビングアーマーの襲撃を受けるアベル達であったが、そのたびにラドが敵を八つ裂きにしていく。どうやら、リビングアーマーは何らかの方法でアベル達の位置を常に把握しているようだ。リビングアーマーは、出現するたびにアベル達に向かって一直線に突進してくる。《索敵》のようなスキルを敵も持っているのかもしれない。
30分ほど狭い通路を歩き続けるアベル達。その間、15体のリビングアーマーに襲われたものの、難なく突破していく。第二階層に入ってから部屋は一つも見当たらなかったが、30分歩いた後、初めて大きな広間にたどり着く。
「どうやら、第二階層のボスに辿り着いたみたいだ」
入口から部屋の中を伺うアベル。そこから見えるのは、身長3メートルはあろうかと言うほどの、巨大な3対の甲冑であった。
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次回、第二階層ボス戦です!