第42話 アベル達の新装備、完成する
ガイアスの稽古のあと、アベル達はバズの工房に向かう。バズが徹夜で作ってくれた3人の防具とラドの武器を取りに行くためだ。
バズの工房に入るや否や、テンション高めの声がアベル達に向けられる。
「よーう! 待ってたぜぇ」
寝不足ハイテンション、と言うのだろうか。目の下に隈をつくり、疲れた表情を浮かべつつも、嬉しそうなバズの声。アベルは少し戸惑いつつも、いつも通り挨拶を交わす。
「こんにちは、バズさん。頼んでおいたものを取りに来ました」
バズが右手を突き出し、親指を立てながらウィンクする。
「バッチリ、サイッコーの品物が出来てるぜ! バズの工房・ベストオブザイヤーは固いぜ!」
やはり寝不足ハイテンションのようだ。若干スベりながらも、バズは続ける。
「まずはアベル坊の防具だ。ドラゴンの鱗で作ったベストと小手だ。アベル坊の場合、防御力と機動力のバランスが重要だと思ってな。邪魔にならないベストにしといたぜ。左手の小手は腕全体を覆うようにしといたから、守勢の時に盾替わりに使えるぜ」
「ほんと、バズさんってすごいですよね。僕にピッタリの防具です!」
バズの観察眼には頭が下がる。攻撃力や機動力を下げず、守勢の時に致命傷を避けられるよう考え抜かれた防具だ。
「お次は、嬢ちゃんだ。パーティーの守りの要だからな。軽くて丈夫な防具を考えたぜ! まずはドラゴンローブ。アベル坊達から預かったドラゴンの鱗の2/3を使ったぜ! かなり防御力は高いはずだ」
見た目はティナのヒーラーローブとさほど変わらないが、生地をよく見ると、表面に小さく加工されたドラゴンの鱗がびっしりと丁寧に敷き詰められている。
「うわぁ! こんな細かい仕事、よく一日でできましたねぇ!」
「まあ、俺は天才だからな」
ティナの素朴な疑問に、『天才だから』の一言で答えてしまうバズ。いくら天才でも、物理的に1日で終わる作業量じゃない気がするが、まあそこは置いておこう。
「それと、嬢ちゃん用に盾も作っておいたぜ。軽いし、クロスボウにはめて使えるようにしといたから、邪魔にはならないはずだ。嬢ちゃんの場合、武器破壊が一番面倒だからな」
確かに、バズの言う通りだ。クロスボウは、アベルのパーティーで唯一の遠距離攻撃手段だ。クロスボウが破壊されると、間合いの外から攻めてくる敵に対処できなくなる。しかも、ティナ自身の身体能力はさほど高くないため、執拗にクロスボウの武器破壊を狙われたら厄介だ。ティナへの武器破壊攻撃を防ぐ手段の重要度は高い。
それに対して、バズの提案は満額回答だ。クロスボウ自体に盾を備え付けることで、ティナの防御力の向上とともに、武器破壊を防ぐことも出来る。さらに、ティナの攻撃は基本、《マジックショット》だ。物理的に矢を補充する必要が無いため、クロスボウに盾を付けても攻撃の際に邪魔にならない。
「やったぁ! 何より、ローブがおしゃれなのがサイコーね!」
ティナが女の子らしい反応をする。能天気な反応だなぁとアベルが思っていると、目の前のバズが腕を組み、うんうんと深く頷いている。どうやら、バズはオシャレさにもこだわってローブを作ったようだ。……心底、バズの腕にアベルは感心する。
「最後は、ラドだ。まずは武器。これが、お前のドラゴンクローだ」
バズが取り出したのは、ドラゴンの爪を加工した鉤爪だ。その爪は大きく、長さ30cmほどはある。
バズはラドを手招きする。アベルの右肩の上に乗っていたラドがピンと尻尾を立て、トタトタとバズに近寄っていく。カウンターテーブルの上によじ登ったラドに、バズはドラゴンクローを装着する。小さな体のラドには不釣り合いなほど大きい鉤爪。まともに歩くことすら困難に見える。だが、バズは腕を組み、満足げにウンウンと頷いている。
「それじゃ、ラド。『収納』してみてくれ」
「キュウ!!」
ラドが満面の笑みで返事をする。どうやら、自分の武器を作ってもらえて相当嬉しいようだ。ラドがグッと前足を伸ばすと、爪の部分がカシャッと音を立て肉球の内側へと消えていく。まるで猫の爪のようだ。ドラゴンクローの甲の部分はそのままに、爪の部分だけが収納される。
「「おお!!」」
アベルとティナが感嘆の声を上げる。ラドのドラゴンクローは、爪の部分が可動式になっており、収納可能なようだ。攻撃する瞬間以外は、爪をしまっておけば機動力を下げることなく攻撃力を上げることができる、というのがバズの思惑のようだ。
それにしても、長さ30cmもある爪はどこに消えたのだろうか? とてもじゃないが、ラドの小さな肉球に収納できる大きさではない。
「イイ感じじゃねえか! 《アイテムボックス》を応用したラド専用のドラゴンクロー。これでリーチ、攻撃力、機動力の良いとこどりができるぜ!」
ドラゴンクローの爪の部分だけをアイテムボックス内にしまっておき、攻撃の瞬間だけ取り出すという戦略だ。《アイテムボックス》は、モノの一部だけを収納すると言った芸当も可能で、かなり使い勝手の良いスキルであった。出現位置も、ラドの半径10メートル以内であれば自由に決定できるようだ。これらの性質を最大限利用したドラゴンクローは、ラドにピッタリの強力な武器である。
「最後に、ラド専用のドラゴンの鱗で作ったマントだ。可愛い見た目だが、軽くて防御力は高いぜ。……本当は、《アイテムボックス》を使った大盾を作りたかったんだが、素材が足りなくてな」
バズが少し不満げな表情を浮かべるも、ラドは至極満足そうだ。早速マントを羽織り、どや顔でポーズを決めている。
「バズさん、本当にありがとうございます! どれも完璧です」
「ああ。そうだろ。その分お代は張るぜ。全部で20万ゴールドだ!」
防具の出来を考えると、全く妥当な金額だ。昨日ギルドでもらった20万ゴールドを、そのままバズに手渡す。
「まいどあり! それじゃ、またよろしく頼むぜ!」
満足気に笑みを浮かべるバズに挨拶をし、アベル一行はそのまま《ミラージュの塔》に直行する。新装備を手に、アベル達は第二階層の攻略を始めるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、《ミラージュの塔》第二階層の攻略開始です!