第39話 討伐報告&バズの店でオーダーメイド
マンチェストルへと帰還したアベル一行は、そのままギルドへ向かう。依頼達成の報告を行うためだ。ギルドの受付カウンターへ向かうと、いつも通りアンナがにこやかに対応してくれる。
「こんにちは、アベルくん、ティナちゃん、ラド! 今日はどうしましたか?」
「《ミラージュの塔》の一階を攻略したので、依頼達成の報告に来ました」
「え!?」
アンナがいつも通り、困惑した様子の声をあげる。一瞬の静寂の後、再びアンナが口を開く。
「えっと……第一階層を『攻略』したんですか? 調査完了じゃなくて!?」
アベルは、《ミラージュの塔》に入る前にティナと確認した依頼書を再度見る。
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ミラージュの塔調査依頼書(ランクA~)
依頼内容:第一階層調査
場所:ダンジョン《ミラージュの塔》
報酬:第一階層の詳細地図(1万ゴールド)
階層ボスの判明(1万ゴールド)
階層ボスの討伐(ボス判明後、決定)
詳細:ミラージュの塔・第一階層の攻略及び調査依頼。
不確定情報が多いため、依頼ランクは暫定A。
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依頼内容は、ボスの討伐ではなく、調査だ。ボス自体の情報が全く不明だった中で、アベルから討伐報告を受けたのだから、アンナが驚くのも無理はない。
「はい。第一階層のボス、ガーディアン・ドラゴンを討伐しました。冒険者プレートで確認してもらえますか?」
「が、ガーディアン・ドラゴン!? え、Sランクモンスターじゃないですか!! なんでAランクダンジョンに、そんな強い敵が……」
アンナが驚きながら、アベルとティナの冒険者プレートを機械に通す。その様子を見ながら、アベルは腕組みをして考え込む。アンナの言う通り、やはり妙だ。ガーディアン・ドラゴンはとてつもない強さだった。アベル達が敗北を覚悟するほどの強敵。それほどのモンスターが第一階層にいるのだ。とてもAランクダンジョンとは思えない。
「正直なところ、《ミラージュの塔》がAランクというのは解せません。Aランクパーティーが複数壊滅してしまっていることを考えても、Sランクが妥当な気がします」
アベルが率直な感想をアンナに伝える。
「……実は、ギルド内でも《ミラージュの塔》をSランク認定すべきって声は多いんです。ただ――」
アンナが声をひそめ、続ける。
「どうも、ギルドの権限では、Aランクダンジョンまでしか認定できないみたいなんです。Sランク認定には国王の承認が必要らしいんですが、何度申請しても悉く却下されてるらしいんです」
アベルは目を丸くし、驚きの表情を浮かべる。Sランクダンジョンの認定に、国王の承認が必要なんていうのは初耳だ。――どうやら、Sランクダンジョンは何か特別な存在のようだ。《ミラージュの塔》があれほど危険なのにSランク認定されないのには、なにか理由があるのかもしれない。
コホン、と咳払いをして、アンナが話を続ける。
「話がそれちゃいましたね。それでは、報酬をお渡しします。第一階層の詳細マップと、ボスの情報で合わせて2万ゴールド。ガーディアン・ドラゴンの討伐ランクはS。報酬は18万ゴールドです。総額、20万ゴールドをお渡しします。」
Aランクのアークワイバーンが10万ゴールドの報酬だったことを考えると、かなり高額な報酬だ。だが、あの強さを考えるとそれも納得。
「やったわね! これで念願のSランクまで、一歩近づいたわ!」
ティナがガッツポーズをとりつつ、興奮した声を上げる。隣でラドもピョンピョンと飛び跳ねている。Sランクへの昇格条件は、Aランクダンジョンでの総獲得報酬100万ゴールドだ。20万ゴールドを手に入れたので、残り80万ゴールド。《ミラージュの塔》を攻略する頃には、Sランクに昇格できるかもしれない。
「あ、そうだ! アベルくん、明日の朝って空いてます? ギルドマスターがお話したいらしいんですが」
「ギルマスが? ダンジョンに行く前に立ち寄れますけど……珍しいですね、何の話ですか?」
「それが……ゲイル達に関して、だそうです」
そろそろ、ゲイル達の裁判が開かれる頃あいだ。先日、ゲイル達から接触があったが、その件を含めて事情聴取と言うことだろう。ただ、アベルにとっても好都合だ。ちょうど、ギルマスに相談したいことがあったからだ。
「分かりました。明日の朝、また来ます」
アベル達はアンナに別れを告げ、ギルドを後にする。次の目的地は、バズの工房だ。
◇◆◇◆
「ほーう! こりゃまた、上等な素材だな! 腕がなるぜ!」
バズがじーっとテーブルの上を見つめながら、嬉しそうな声を上げる。バズの目の前にあるのは、ミラージュの塔1Fの戦闘で回収した素材。ガーディアン・ドラゴンの鱗と両前足の爪だ。
「ほんっと、強敵だったんですよ!」
「ああ、そうだろうな。ここまで見事な素材は、久しぶりに見たぜ。で? アベル坊、こいつらをどう料理して欲しいんだ? ……まあ、大体予想はつくがな」
「鱗は3人の防具に。爪はラドの武器に出来ますか?」
「はは、予想通りだぜ。相当、強敵だったんだな」
バズは右手で頬をかきながら、苦笑いで答える。アベルは腕を組み、真剣な表情で考え込んでいる。
アベル達は今まで、防御に関してはティナの《プロテクション》と《ウォール》に頼りっぱなしだった。その慢心が、今回のガーディアン・ドラゴン戦で危機を招いたと言っても過言ではない。ティナの防御魔法を貫通する攻撃をされた結果、もろくも全滅寸前まで追い込まれてしまった。偶然が発動しなければ、今この場にアベル達はいなかったであろう。純粋な防御力の強化、それがアベル達の喫緊の課題だ。
もう一つ、ラドの攻撃力向上も測っておきたい。ラドは力が強いが、圧倒的にリーチが足りない。手足もそうだが、爪がとても短いためだ。ガーディアン・ドラゴン戦ではその弱点がもろに露呈した。ドラゴンの鱗と皮膚が分厚すぎてラドの鋭い爪が届かず、ダメージを与えることが出来なかった。そこで、ドラゴンの長い爪をもとにラド用の武器を作り、この弱点の改善を図ろうとアベルは考えている。
「意図は良く分かったぜ。防具に関しては問題ない。特に嬢ちゃんを手厚く守る防具を作ってやるぜ」
流石バズだ。パーティーの守りの要はティナ。彼女が倒れてしまっては、パーティーは全滅だ。最優先で防御力を強化しなければならないのはティナだ。
「だが、問題はラドの武器の方だ。ドラゴンクローを作っちまうのが一番手っ取り早いんだが」
――ドラゴンクロー。ドラゴンの爪を手甲鉤として加工したシンプルな武器だ。クローはテイムされた動物がよく使われる武器だが、欠点が一つある。
「ラドがドラゴンクローを装備しちまうと、機動力が失われちまう。こいつ、すばしっこさが一番のセールスポイントだろ? それを殺しちまうのはマズい」
ドラゴンの爪はとても大きく、長さ30センチはある。ドラゴンクローをラドが装備してしまうと、爪が地面にあたり、ラドが上手く走れないだろう。その点を、バズが指摘している。
だが、この欠点に関しては、アベルに妙案がある。ラド以外には絶対にできない、ウルトラCだ。
「ラド、《アイテムボックス》」
「キュウ!」
アベルの指示を受け、ラドが《アイテムボックス》を唱える。不意に現れる黒い空間。そこに、ドラゴンの爪をしまうアベル。
「な! アイテムボックスじゃねぇか! こんなレアな魔道具、お前ら持ってんのか? しかも、こんなでかいボックス、見たことねぇ」
バズが驚愕しているが、アベルは話を続ける。
「これ、ラドのスキルなんです。しかも、どうやら自分の体の近くであれば、好きな位置にボックスを出すことができるみたいなんです。これを使えば、バズさんの懸念は解決しません?」
「ほーう? こいつはメチャメチャおもしれーな。ラド、ちょっと来い! 色々調べさせてもらうぜ」
「キュウ!!」
バズがラドを奥の工房に連れていく。『うお、こんなことも出来るのか』、『マジか! 便利すぎるだろ!』といったバズの歓喜の声が漏れ聞こえる。数分後、ラドと一緒にバズが戻ってくる。
「よっしゃ! こいつ向けの、サイッコーの武器を作ってやるぜ! 明日の昼、《ミラージュの塔》に行く前に取りに来な!」
「明日の昼!? そんなに早く出来るんですか?」
ティナが驚きの声をあげる。
「ああ! こんっな面白い仕事、徹夜に決まってんだろ! てーか完成するまで寝られねーよ! 今から店じまいだ、店じまい!」
すごく嬉しそうな笑みを浮かべながら、嬉々として店じまいの作業を始めるバズであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ラドの新武器がどんな感じになるか、お楽しみに!
次回、ギルドマスターからのゲイルの件に関する聞き取りです。