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第4話 ゲイル達の悪行をギルドに報告する


 ふと、アベルの目が覚める。目の前にあるのは、白い天井。あたりは暗く、深夜のようだ。アベルを包むのは、暖かい毛布に柔らかいベッド。寝心地は悪くない。そして、右腕と体の間にあるのは、モフモフとした柔らかい感触。ラドがアベルに添い寝しているようだ。フカフカのベッドに、モフモフのラド。天国のような柔らかさに包まれながらも、アベルは上手く寝付けなかった。


 酒場で一悶着あった後、アベル達は市内に宿をとり、食事もせずにそのまま眠りについた。ゲイル達が自分を殺そうとした事実は、やはりショックが大きかった。いろいろな感情がアベルの頭の中を駆け巡り、アベルは眠れぬ夜を過ごしていた。


 ベッドから上半身を起こすアベル。時計を見ると、深夜1時。眠りについてから、3時間も経っていない。


 ふと、ラドに目をやる。穏やかな表情でスース―と寝息を立てるラド。ラドとアベルは毎日一緒に寝てはいるが、今日はいつもより距離が近い。どうやら、ショックを受けているアベルが心配で、体をすり寄せてきているようだ。ラドの優しさを嬉しく思いながら、そっとアベルはラドをなでる。


「キュウ……?」


 ふと、ラドが目を覚ます。大きな丸い目で、アベルを見つめてくるラド。とても、心配そうな目だ。


「ごめん、起こしちゃったね。……あと、ありがとね、ラド。僕は大丈夫だから」


 小さく、そして頼りになる親友(ラド)を見ながら、アベルは優しく微笑む。『僕は大丈夫』。ラドを安心させようと、今はちょっとだけ強がっている。でも、すぐにきっと、本当に大丈夫になる。だって、ラドが傍にいてくれるから。ラドの青い目を見ながら、アベルはそんなことを考えていた。


「キュウ……」


 ラドは、少しだけ安心したような、それでいてアベルを慰めるような表情を浮かべ、アベルに頭の裏をスリスリしてくる。とても気持ちのいい感触が、アベルの眠気を誘う。少しずつ、アベルは深い眠りへと落ちていった。


◇◆◇◆


 翌朝、ラドと一緒にギルドに向かう。町の外れにある宿を出発し、舗装された道路を進んでいく。歩いて十分ほどで、大通りが見えてくる。早朝であるにも関わらず、人通りは多い。仕事に向かう人に、露店の準備をする人。大きな街道の真ん中を、いくつもの馬車が駆けていく。昨日までと、まるで同じ風景。だが、ラドと二人きりで見る景色に、昨日までとは違う新鮮さを感じるアベルであった。


 大通りに面したひと際大きな建物の前で、アベルは足を止める。ギルドのマンチェストル支部だ。石造りの荘厳な建物。入り口の扉は高さ3メートルほど。とても威圧感がある。建物の装飾はきらびやかで、ステンドグラスや歴代勇者の石像などで建物が彩られている。


 アベルは扉を開け、ギルドの建物内に入る。その瞬間、なぜかギルド内がざわつく。不思議に思いつつ、アベルはギルドの受付に向かう。すると、ギルドの受付カウンターの女性がびっくりした様子で声をかけてくる。


「あ!! アベルくん!? よ、良かったー!! 心配したんですよ! 昨日、ゲイルさんから、アベルくんの死亡報告書が届いて……職員みんなで泣きながら、嘘じゃないかと情報を集めていたところだったんですー!」


 アベルの目の前にいるのは、受付のアンナだ。小柄で一見幼く見えるが、お姉さん肌でアベルに接してくる。とてもやさしい女性で、いつもアベルのことを気にかけてくれる。

 アンナは、目を赤くはらしながら、涙を溜めてアベルの手を握ってくる。どうやら、本気で心配してくれていたようだ。


「心配かけてごめんなさい。でも、僕はこの通り、元気ですから!」


「よ、よかったー!! じゃあ、ゲイルさんの報告は嘘っぱちだったってことですね! もう! 嘘の死亡報告書なんて、ゲイルさんってばいくら何でもやりすぎです! こっちがどれだけ心配したと……」


 アベルにはとても優しいアンナだが、ゲイル達のことはあまりよく思っていないようだ。今までも、「アベルくんに対するゲイルさん達の扱いはひどすぎます! パーティーから脱退した方がいいですよ!」なんてアドバイスをくれていた。今回の件は特に頭にきた様子で、アンナのゲイルへの怒りは収まらない。


「そ、そのことなんですが……ちょっと言いにくいんですけど、実は……」


 アベルは、事の顛末をアンナに報告する。ゲイルにパーティー追放を言い渡されたこと。それがダンジョン中層の奥地であったこと。殴られて動けなくされた後、タイミングよく中層ボスのヘルハウンドが現れた事。ヘルハウンドを確認後、ゲイル達がそのままアベルを置き去りにして、その場を離れた事。さらに、昨夜酒場で、ゲイル達が「金のためにアベルを殺した」と言っていた事。アベルは、すべてをありのままアンナに伝えた。


「え、えぇー!! それ、殺人未遂じゃないですか!! ひどすぎます!! ほんと、よくご無事で……」


「ラドが守ってくれましたから! 僕の頼れる相棒ですからね!」


「ラドォ~~! よくご主人様を守ってくれたねぇ! ありがとう!!」


 アンナに感謝されるラドを見て、とても誇らしい気持ちになるアベル。


「この件は、私が徹底的に調査して、報告書を上に提出します。とても許されることじゃないですから。あんなやつら、絶対にギルドの裁判にかけて、有罪にしてやります! アベルくん、裁判を楽しみにしといてくださいね」


 頼もしくそう言うアンナに、アベルは安心する。アンナに任せておけば、後は大丈夫だろう。


「それで、今後はどうするんですか? パーティーからはもちろん脱退するんですよね?」


「はい。当分はラドと一緒に、ソロで活動しようと思ってます」


「ソロ、ですか。うーん、アベルくんは実力者ですけど、支援がメインですからね。ソロだとちょっと心配です……」


「それなら大丈夫です! 僕、ついにレベルが上がったんですよ!! レベル30になりました!!」


「本っ当ですか!? やっと……お姉さん、すっごい嬉しいです!! レベルが30もあれば何も問題ないです! ラドくんの剣技と支援スキルがあれば、ソロ冒険者でも楽勝です!」


 アンナは、以前からアベルの力量を高く買っている。アンナだけじゃなく、ギルド職員の多くがアベルが有能だと言うことを知っていた。

 アベルは以前、ゲイル以外のパーティーと臨時で組んだことがある。その際に補助スキルの効果の高さが評判になった。そのパーティー曰く、『あんな補助スキルはチートだ。ゲイル達はズルすぎる』とのことだった。


「ただ、できれば治癒魔法を使える後衛職もメンバーに加えた方がいいですよ。アベルくんもラドも、治癒魔法が使えませんし。うーん、最近登録した、ティナさんなんか、アベルくんにピッタリだと思うんですけど……」


 アンナがアドバイスを付け加える。


「ありがとう、アンナさん。ティナさんと言う方を見かけたら、声をかけてみます」


 ニコッと人懐こい笑みを浮かべながら、アンナのアドバイスを素直に受け入れるアベル。アンナのアドバイスはいつも的確なので、アベルはできるだけ従うように心がけている。


「それじゃあ、《蒼の集い》からの脱退手続きをお願いできますか」


「はい、早速、あんなパーティーからは脱退しましょう! ただ、アベルくんの場合、Eランクからのやり直しになっちゃうんです。すみません、ギルドの規定で……それでもいいですか?」


 アベルはSランクパーティーのメンバーだったが、脱退したらソロ冒険者としてのランクで登録される。アベルはソロ冒険者としての実績がないため、Eランクからのやり直しになる。


「もちろん、問題ないです! ……最初からやり直したい気分ですし」


 アベルが即答する。ただ、その言葉尻からは、少し落ち込んでいる様子が感じられる。


「そう、ですか……」


 アンナは少し悲し気な表情を浮かべながら、アベルに黄色いプレートを渡す。冒険者の身分証明書、プレートだ。冒険者ランクはプレートの色で区別されており、Eランクは黄色のプレートになっている。

 プレートを受け取るアベル。すると、アンナが言葉を続ける。


「アベルくん……元気出してくださいね。私は、何があってもアベルくんの味方ですから!」


「キュウ!!」


 ラドがピョンっと飛び上がり、アベルに向かって力強い鳴き声を上げる。


「ほら! ラドも味方ですよ! ……今回の件は、本当に残念でした。でも! アベルくんを大切に思っている人が沢山いること、絶対に忘れないでくださいね!」


 アンナの力強い言葉に、アベルは元気づけられる。今まで、色々なことがあったが、心機一転、生まれ変わったつもりで冒険を楽しもう。アンナとラドのおかげで、アベルはそんな気持ちになることができた。


「ありがとうございます! ラドとアンナさんのおかげで、元気が出てきました! それじゃあ、ソロ冒険者としての初仕事、がんばってきます!」


 少しだけ軽くなった足取りで、アベルとラドはギルド受付を後にした。



お読みいただき、ありがとうございます。

次回、ティナ登場です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] パーティという狭い所から視点を広げれば主人公にもちゃんと理解者や味方がいる点。 [一言] これでギルマスが悪徳で元パと結託、 とかでもない限りは断罪か。
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