第37話 ティナ、運よく新連携スキルを発動させてしまう
「まずい!!」
アベルはティナとラドに向かって、傷ついた体を投げ出す。二人をかばうように覆いかぶさるアベル。その刹那、再びガーディアン・ドラゴンがストームを発動する。
「グゥッ!!」「きゃ!!」
強烈な石つぶてが辺りを飛び交い、再びアベル達に襲い掛かる。アベルの頭や背中には多数の石がたたきつけられていく。その衝撃で、再び5メートルほどアベル達は吹き飛ばされる。
アベルが体を投げ出したおかげで、ティナとラドがダメージを免れる。だが、3人とも満足に動ける怪我ではない。
「くっ、アベル、ありがと」
ティナの声が弱弱しい。かなり体力が減っているようだ。アベルは苦痛に耐えながら立ち上がる。ガーディアン・ドラゴンは再び《ストーム》の発動準備に入っている。――戦況はかなり悪い。回復の切り札である《ヒール》は、一人ずつしか回復できないからだ。いくらティナが連続で《ヒール》を詠唱出来ると言っても、3人全員が負傷する《ストーム》に対しては、回復が間に合わない。
最早、なすすべがない。それが、アベルの判断だ。
「さ、作戦変更だ……ティナとラドは部屋の隅で《パワーショット》を発動。壁を壊したら、逃げてくれ」
「アベルはどうするの!?」
「僕は……ガーディアン・ドラゴンを食い止める。……命に代えても!」
「な!! バカなこと言わないでよ!!」
アベルの提案に、ティナは強い口調で抗議する。
「あんた、やっぱり何も分かってない!! 一人で全部背負い込まないでよ! 仲間を、私たちを頼ってよ!!」
「キュウ!!」
ラドも傷ついた体を起こし、アベルを真っすぐ見つめ、抗議の声を上げる。ティナがよろよろと立ち上がり、大きな声を上げる。
「こんな傷! 私がいくらでも治してあげるわ! 《ヒール》!!」
「無理だ! 《ヒール》じゃ間に合わな……」
「キュウ!!」
ティナの《ヒール》に合わせて、ラドが《ストーム》を発動する。ボウッと白く光り輝くラド。アベル達の周りを、ピンク色の優しい風が包んでいく。3人の傷が、一気に癒えていく。
――《ストーム》の効果で、《ヒール》に全体化及び持続効果が付与されました。
――連携スキル《ヒールウインド》が発動します。
「へ!?」
ティナが、間の抜けた声を上げる。ボス戦での、まさかの連携スキル発動。
「すごい、全員回復してる……」
アベルが驚きの声を上げた瞬間、ガーディアン・ドラゴンの《ストーム》が発動する。ゴオッという轟音とともに、石の弾丸がアベル達に襲い掛かる。
「いたたたたた!! って、あれ!?」
ティナが痛みにたまらず声を上げる。だが、その声はさっきまでと違い、余裕がある。
「これ……《ヒール》がかかりっぱなしになってない?」
アベルが苦痛に顔を歪めつつ、驚きの声を上げる。石つぶてでダメージを受けるや否や、ピンク色の光がたちまちアベル達の傷を回復していく。連携スキル・《ヒールウィンド》には、治癒の持続効果まであるようだ。これなら、ガーディアン・ドラゴンのストームにも耐えられる。
「はは……なんかすごいスキルができちゃったわね。……それで、作戦は何でしたっけ!? アベルさん?」
ティナがふふんと得意気な表情を浮かべる。回復したラドも、モフモフの毛を膨らませながら胸を張っている。
「ごめん、二人とも……作戦変更。持久戦で行く! ストームに耐えつつ、発動後のスキをついて僕が攻撃する! ティナとラドは回復をお願い!」
「よろしい!」「キュウ!」
ティナとラドがうんうんと頷きながら納得の表情を浮かべる。ストームの発動が終わるまでひたすら石つぶてに耐える3人。風が収まった瞬間、一足飛びにドラゴンに飛び込み、アベルが流れるような斬撃を加える。ドラゴンの皮膚からウロコが剥がれ落ち、鮮血が噴き出す。再び敵が《ストーム》の発動を始めるとアベルは距離をとり、再び敵の攻撃に耐える。『ヒット&アウェイ』戦法だ。
その後、10分ほど『ヒット&アウェイ』を繰り返すアベル達。アベルの斬撃は確実にダメージを与えるものの、なかなか致命傷とはならない。
「ティナ、ラド! 大丈夫?」
「ええ! まだまだいけるわ! でも、ちょっと分が悪くなってきたわね」
「キュウ……」
少しずつ、ティナとラドに疲れが見え始める。一方のガーディアン・ドラゴンは《ストーム》の発動が少しも鈍らない。持久力と言う点で、アベル達が不利なようだ。
ヒット&アウェイを繰り返しながら、ドラゴンに致命傷を与える方法をアベルは考える。ふと、鍛冶屋のバズの言葉がアベルの脳裏に浮かび上がる。『魔剣士は多くの魔力を刃に宿すことができ、その分剣は強力になる』、確かバズはこう言っていた。つまり、刃に込める魔力を増やせば、威力は増すということだ。それなら――
「《魔力強化》」
アベルを蒼い光が包み込む。アベルは、剣の切れ味を向上させるために、自らの魔力を向上させる。
「さあ、勝負だ」
アベルは口元に笑みを浮かべながら、ガーディアン・ドラゴンに向かって静かに語り掛けるのだった。
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次回、ガーディアン・ドラゴン戦、決着です。