第36話 第1階層の守護者、ガーディアン・ドラゴン
――ガーディアン・ドラゴン。高位ダンジョンの守護者として現れる、竜のモンスター。長い首に、大きな翼。特徴的なのは、全身を覆う白い鱗だ。その固い鱗は高い防御力を誇る。一方で、長い首を活かした、鋭い牙と爪による攻撃は、冒険者にとって脅威の一言である。高い守備力と攻撃力で冒険者を葬る無慈悲な竜。まさに『ガーディアン』と呼ぶにふさわしいモンスターだ。
「アベル! 作戦は!?」
ティナがアベルの方を振り返りながら尋ねる。
「まずは慎重に! 敵の行動パターンを見極めながら、攻略法を練る。《筋力強化》! 《魔力強化》!」
アベルがティナに作戦を告げながら、支援魔法を詠唱する。
「了解! 《プロテクション》×5! 《ウォール》×2!」
ティナがアベルの指示に従い、ありったけの防御魔法を唱える。ラドも「キュ!」と小さく鳴き、敵から距離を取り、回避姿勢を取っている。
グォワァァァアア!!
ガーディアン・ドラゴンが大きな咆哮をあげる。部屋中にビリビリと響く、すさまじい音。ティナが顔をしかめながら、耳を押さえている。アベル達は圧倒され、一瞬のスキができる。
ゴォォオオオ!!
そのスキを見逃さず、ドラゴンが口から大きな青白い炎を放つ。アベル達を襲う、灼熱の炎。ウォールのおかげで熱風は遮られてはいるが、床が黒く焦げ、溶け始めている。すさまじい温度だ。
ピシッ!!
「え!? ウソ! 《ウォール》が……」
イヤな音を立て、アベル達の周りを覆う円錐形の緑の防御壁にひびが入る。ティナのウォールが、ドラゴンの放つ炎に耐えられないようだ。
「く!! 離脱!」
アベルの掛け声とともに、3人が横っ飛びでドラゴンの炎から逃れる。その瞬間、ティナの2層のウォールのうち、1層が砕け散る。
「と、とんでもない熱風ね! ウォールが破られるなんて……今までの敵とは、全然違う」
Aランク冒険者が行方不明になるのも納得だ。おそらく、みんなこのガーディアン・ドラゴンに全滅させられたのだろう。おそらく、アベルがいたころの《蒼の集い》でも勝てないであろう強敵。とても、Aランクダンジョンの1階層で出てきていいモンスターではない。
ドラゴンが炎を吐きつくしたのを見届けた後、アベルとラドはドラゴンに向かって一足飛びに向かっていく。レッサードラゴンの時と同様、炎を吐いた後のドラゴンは、一瞬動作が静止している。ここがチャンスとばかりに、ドラゴンに一斉攻撃を仕掛ける。
銀色に輝くアベルの剣が、ドラゴンに向かって振り下ろされていく。固い鱗を切り裂き、ドラゴンの鱗が宙を舞う。白い刃は腹部に深く食い込み、傷口からは青い鮮血が噴き出す。
一方、ラドはドラゴンの右側腕部に攻撃を仕掛ける。両手の爪を鋭く振り下ろすや否や、ドラゴンの鱗が吹き飛んでいく。だが、攻撃は浅く、固い鱗を吹き飛ばすのが精いっぱい。ドラゴンの皮膚を軽く傷つけるのがやっとであった。
さらに、ティナのマジックアローが追い打ちをかける。青白く輝く3本の矢がドラゴンの顔めがけて飛んでいく。静止しているドラゴンは、回避も間に合わずに矢の直撃を受ける。しかし、矢は固い鱗に阻まれてドラゴンは無傷であった。ワイバーンの翼を貫いたティナのマジックアローであったが、強固な防御力を誇るガーディアン・ドラゴンには通じないようだ。
「攻撃役は僕。ラドとティナは援護に専念。距離をとって、攻撃後のスキをついていこう!」
「了解!」「キュウ!」
アベルの指示に、ティナとラドが短く返事をする。ガーディアン・ドラゴンのスキをついた3人の総攻撃も、ダメージを与えられたのはアベルだけであった。ラドはリーチが足りず、ティナのマジックアローは威力が足りない。攻撃役はアベルに絞るのが得策だ。
グルルルル……
ガーディアン・ドラゴンが不気味な唸り声をあげる。固い鱗を破られ、ダメージを受けたことを警戒しているのだろうか? アベルはそんなことを考えながら、敵の様子を窺っている。だが、少し妙だ。ガーディアン・ドラゴンには怯えの色は一切見られない。それどころか、攻撃の溜めを作っているようにすら見える。
グワァァアアア!!
突如鳴り響く咆哮。そして、ドラゴンが翼を大きく広げる。この構えは、一度見たことがある。ワイバーンのストームと同じ動作だ。
ゴオォォォ!!
広間の中を、竜巻のような風切り音が鳴り響く。ワイバーンのストームよりも、数倍すさまじい突風。そしてそれは、アベル達にとって致命的な攻撃であった。
「グッ!」「きゃ!」「キュウ」
3人がうめき声をあげ、後方へと飛ばされていく。《ウォール》はガーディアン・ドラゴンの風を完全に防いでいる。だが、風が巻き起こす石つぶてを防ぐことはできない。床に散乱した柱の欠片が、猛烈な風により飛ばされ、アベル達に襲い掛かってきたのだ。大きいものでは直径30cmもある石が、高速でアベル達にたたきつけられる。ティナの《プロテクション》も打ち破られ、3人は大きなダメージを受けてしまった。
「みんな、大丈夫?」
アベルが、右腕から血を流しながら立ち上がる。運悪く、利き手をやられてしまったようだ。腕に力が入らず、剣を振ることもままならない。
「いったぁ……」「きゅうう……」
ティナも左肩を抑え、苦悶の表情を浮かべている。ラドは床にべったりとうつ伏せになり、起き上がれないようだ。
「く、やばいわね。この攻撃、防ぎようがないじゃない」
ティナがそう言うや否や、再び不気味な鳴き声が広間に響き渡る。
グルルルル……
ガーディアン・ドラゴンが唸り声を上げる。ストームの発動準備に入ったようだ。
「はは、勘弁してよ。ストームの連発って、それは反則でしょ……」
ガーディアン・ドラゴン――無慈悲な守護者とはよく言ったものだ。敵の理不尽な攻撃に、アベルが苦笑いを浮かべていた。
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次回、反撃開始です!