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第35話 《ミラージュの塔》、第一階層探索


ギィィイ――


 少しイヤな音を立て、塔の入り口の門が開く。重い、金属製の扉。その音が不快だったのだろうか、ティナが少し顔をしかめている。


 塔の内部に3人が入ると、バタン! と大きな音を立て、背後の扉が閉まる。ラドがビクッと驚き、モフモフの毛を逆立てながら、背後を振り返る。ラドは昔から大きな音に敏感だ。まるで猫のようなしぐさに、アベルとティナがフッと笑みを浮かべる。


 塔の中は、思いのほか明るい。ランプが所々灯っている上、天井近くの壁に窓が沢山あり、陽の光が十分差し込んでいる。天井は高く、15メートルほどはあるだろうか。塔内は、20メートル四方ほどの部屋で区切られており、部屋の中には4本の大きな柱があるだけだ。とてもシンプルな構造。部屋と部屋は一つの入り口でつながっており、通路はない。


「思ったより、小綺麗ね」


 ティナがキョロキョロと周りを見回しながら、口を開く。アベルは早速、《索敵》を発動させる。


「フロア内に、敵影は10ほど。全部オーガだね。一番近いのだと、隣の部屋に1匹」


 オーガはBランクのモンスター。力でごり押しするタイプで、比較的御しやすい敵だ。少なくとも、Aランクパーティーが苦戦するような相手ではない。


「それは……妙ね。ここって、Aランクパーティーが悉く行方不明になっているダンジョンでしょ? オーガしかいないのに、Aランクパーティーが負けちゃうなんて、おかしいわよ」


 アベルもティナと同じ違和感を抱いている。


「……慎重に進もう。何か罠があるかもしれない」


「キュウ!」


 ラドの元気な返事が塔内に響く。アベル達はゆっくりと、隣の部屋の入り口へと進んでいく。部屋の入口から内部を窺うと、《索敵》の気配通り、1体のオーガが部屋の真ん中を歩いている。


「……普通のオーガだね。とても、苦戦する相手には思えない」


「どうする? 3人で一気に攻める?」


「いや、それだと罠があったら全滅だ。僕が一人で片づけてくるよ。剣の試し斬りもしたいしね」


 アベルは剣を抜刀しながら、そう言う。アベルが持っているのは、ミスリルソード。魔石加工前の剣を、バズに1万ゴールドで売ってもらったものだ。オリハルコン製の剣を手に入れるまでのつなぎではあるが、今まで使っていたブロンズソードより格段に攻撃力は高い。


「それじゃ、気を付けてね。《プロテクション》」


 アベルは黄色い光の層に包まれる。だが、その光の層は、今までと少し様子が異なっていた。いつもは3重の光の層だったはずだが、今回は5つの層が見える。


「ありがと。ってあれ? これ、5重掛け?」


「ええ。私も成長してるってこと。ここは慎重に、ね?」


 ティナがウィンクをしながらアベルに笑いかける。


「それじゃ、行ってくるよ」


 アベルが腰を深く落とし、戦闘態勢に入る。それと同時に、アベルの右肩の上に乗っていたラドがピョンっと飛び降りる。

 

 オーガがアベルに背を向ける。今がチャンスとばかりに、全速力で飛び出すアベル。オーガはアベルに気づき、右手に持ったこん棒を振りかざす。アベルは回避行動をとることなく、オーガに向かって突撃していく。


 オーガが渾身の力でアベルに向かって右手を振り下ろす。長さ2メートル、直径50センチはあろうかと言う巨大なこん棒が、すごい速さでアベルに向かってくる。アベルは右手で剣を構え、オーガのこん棒を斬り上げる。その刹那、こん棒が真っ二つになり、アベルの後方へと飛んで行く。その切断面は、まるで高熱で焼き切られたかの如くなめらかだ。


 そのまま、アベルは剣を切り返し、無防備となったオーガの胴体へ剣を振り下ろす。オーガの屈強な胴体が、アベルの斬撃により泣き別れとなる。ズルっとオーガの半身が崩れ落ちたかと思えば、そのまま青白く光り輝き、光の粒となり消えていった。


 まさに瞬殺。アベルの圧勝だ。だが、アベルはまだ警戒を解いていない。モンスターの討伐直後こそ、冒険者の気が最も緩む瞬間だ。罠を警戒し、周囲へ細心の注意を払うアベル。だが、一向に罠が発動する様子はない。


「……特に、罠はなさそうだね。やっぱり妙だ。敵がこの程度の強さじゃ、Aランクパーティーが負けるはずがない」


 アベルは思案顔だ。腕を組み、考えこんでいる。


「まあ、考えすぎてもしょうがないんじゃない? 注意しながら、進んでいこーよ」


 確かに、ティナの言う通りだ。慎重になるあまりダンジョンの攻略が進まないのであれば、本末転倒だ。


「それもそうだね。注意を怠らずに進もうか」


 アベル達は、塔の一階を奥へと進んでいく。ダンジョン内は、10メートル四方の部屋が続く単純な構造。一本道なので、迷うことはない。特に苦戦することなく11体のオーガを倒したところで、アベル達は一際大きな広間へとたどり着く。


「あれ? この部屋には出口がないわね。どうやって先に進むのかな?」


 ティナが辺りをキョロキョロ見渡している。


「ティナ、慎重に。罠があるかもしれない」


 アベルは、部屋の中を見渡す。部屋に4本ある柱のうち、2本が壊され、部屋の中に破片が散乱している。何か、巨大な力で叩き割られたようにも見える。……とてもイヤな予感がする。


ガタン!!


 不意に、後方で大きな音がする。振り返ると、広間に入ってきた入り口が厚い壁でふさがれている。扉の前に、赤い六芒星の紋様が浮かび上がる。どうやら、結界が張られたようだ。


「く! 閉じ込められた! まずい、これは……」


「どう見てもボス部屋……ね」


 ティナがクロスボウを構え、アベルがミスリルソードを抜く。ラドは膝を曲げ、周囲を警戒している。アベルは《索敵》を発動するも、周囲に敵の反応はない。


 不意に、部屋の四方から青白い光が現れ、部屋の中心へと集まっていく。集まった光の粒は、眩い光を発しながら、竜の形へと変わっていく。カッ! と強く光り輝いた後、部屋の中心には、白い巨大な竜がたたずんでいた。


「ガ、ガーディアン・ドラゴン……はは。まさか、こんな強敵が第一階層から現れるとはね。想像以上に骨が折れそうだよ、この塔は」


 そう言いながら、アベルは呆れたような笑みを浮かべていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回、第一階層ボス、ガーディアンドラゴン戦です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 小奇麗?小綺麗では?
[良い点] 残心を怠らない、いい心構えだ。 [気になる点] ラドは幻獣だけど普段の仕草はほぼ猫だな [一言] 初見殺し、のっけから逃走不可で強敵が出てくるのか。
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