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第33話 ゲイル達への決別宣言。アベルが元パに戻るわけがない


「あ、アベル!!」


 バズの店から外に出た瞬間、遠くから聞いたことのある声が聞こえる。その瞬間、アベルの心臓が嫌な感じに動き回る。忘れもしない、不快な声。かつて親友であり、同じパーティーで戦った仲間。そして、アベルを追放し、殺そうとした張本人。ゲイルの声だ。


「アベルくん!」「アベルさん!」「アベル殿!」


 アマンダ、リサ、フォルカスの3人も一緒のようだ。だが、何か様子がおかしい。少し、いや、かなり違和感がある。3人が僕に話しかける時は、もっとこう、ギスギスと見下した言い方だったはずだ。


「あの人たち、誰? アベル」


 ティナがアベルの耳元に近寄り、小声で聞いてくる。


「僕を追放した、元メンバー達……なんで、こんなところに」


「え!? うそ! アベルを殺そうとしたヒドい奴ら!? なんでノコノコとアベルに会いにきてるの? ……でも、聞いてた話となんか雰囲気が違うね」


 ティナが怒りをあらわにしながらも、少し困惑している。無理もない。困惑しているのはアベルも同じだからだ。今目の前にいる彼らは、毎日のようにアベルを罵倒していた4人と同一人物とは思えない。何より、『くん』付けや『さん』付け、『殿』付けなんてされたこともない。彼らに、何があったんだろうか?


「ゲイル。僕とラドにしたこと、まさか忘れたわけじゃないよね? 僕は、君たちと話すことは何もない」


 目も合わせず、アベルがゲイル達に言い放つ。取り付く島もないほどに冷たい声。アベルは踵を返し、彼らと反対方向に歩き出す。


「ま、待ってくれ! 俺たちは、アベルに謝りに来たんだ!」


 ゲイルが大きな声を上げ、アベルを呼び止める。ピタッと止まるアベル。足だけでなく、思考も止まる。自分とラドを殺そうとしといて、今更アヤマリニキタ? 何を言っているのか、意味が頭に入ってこない。


「手違いで、殺そうとしてしまって、申し訳ない! この通りだ! 今までの態度も、本当にすまなかった! ちょっと調子に乗ってたんだ! オレのパーティーにもう一回戻ってきてくれよ! な? 今まで通り、一緒に楽しく冒険しようぜ!」


 アベルが呆然と立ち尽くす。ちょっと何を言っているのか分からない。今さら戻ってきてくれ? 殺そうとしといて、それはないだろう。正気の沙汰とは思えない。想定外の状況に、アベルの頭が全く回らない。隣を見ると、ティナが顔を真っ赤にして震えていた。


「ちょっと! あんたたち、何言ってんの? あんたたちの所になんか、アベルが戻るはずないでしょ!!」


 ティナが大きな声をあげ、ゲイルをにらみつける。はぁはぁと息を切らし、目には少し涙を溜めている。こんなに怒ったティナを、アベルは見たことが無い。


「ん? ああ! あんた、アベルの新しい仲間か! 親友のアベルが、世話になってるな。……すまないが、アベルは俺たちの仲間なんだ。悪いけど、そっちのパーティーは解散してくれないか?」


 どうやら、ゲイルは本気でアベルが《蒼の集い》に戻ってくると信じているようだ。ティナの怒声を気にも留めず、ゲイルが話を続ける。


「それで、な? この前の『ヘルハウンド』の件、水に流しちゃくれねぇか? 俺たち、仲間だろ? だから、次の裁判では一つ……」


 ゲイルが何か話しているが、アベルの耳には全く届いていない。どこまでも自分のことしか考えていないゲイルに対する、激しい怒り。ああ、そうだ。ゲイルは、こういう奴だった。


「今更『戻って来てくれ』なんて、もう遅い。僕はもう、絶対にゲイル達の所には戻らない。あと、殺人未遂事件の裁判では、ありのままを証言するつもりだよ。ゲイル達に同情する余地なんてない」


 アベル自身驚くほど静かな、そして冷たい声で、言葉を発する。隣を見ると、ラドも全身の毛を逆立たせて怒りの表情を浮かべている。ラドは「クルルルル」と小さく唸りながら、ゲイルを鋭い目で見つめている。


「え!?」


 ゲイルが一瞬、硬直する。まるで想定していなかった反応だったとでもいう様に、目を見開き、口は半開きだ。見かねて、アマンダが口を開く。


「アベルくん、今まで、本当にごめんなさい! もう一回、パーティー組も? アベルくんがいないと、私たち何もできないよぉ!」


 アマンダが目に涙を浮かべながら訴える。


「アベルさん! アベルさんがいなくなってから、あなたがどれほど私たちにとって重要な存在か、身に染みて分かりました! 私たちには、あなたが必要です! どうか傍においてください!」


 リサは跪き、胸の前で手を組みながらアベルに懇願する。まるで神に祈るかの如きポーズだ。


「アベル殿! もう一度一緒に冒険してくれ! 俺の筋肉には、アベル殿が必要なんだ! この通り、お願いだ!」


 フォルカスも頭を下げ、アベルにお願いしている。そんな3人を見て、おもむろにゲイルが口を開く。


「そ、そうだ! 《蒼の集い》に戻ってくるのがイヤだったら、俺らをアベルのパーティーに加えてくれないか? リーダーはもちろんアベルでいい! みんなも、それでいいだろ?」


 やはり、話がかみ合わない。あまりに能天気なゲイルの言動。怒りを通り越して、アベルはあきれ果てる。


「僕たちのパーティーに、君たちの居場所なんてないよ」


 アベルは、再度冷たく言い放つ。アベルの言葉に、ゲイルが必死で反論する。


「そ、そんなことねーよ! お前、俺の剣の腕、知ってるだろ? きっと役に立つさ!」


 ゲイルがそう宣う。


「純粋な剣の技術なら、昔から僕の方が圧倒的に上だったろ? しかも、今の僕はレベル76だ。技術もレベルもステータスも圧倒的に下のゲイルが、どうやって僕達の役に立つんだ?」


 アベルは冷たい目でゲイルを見ながらそう言う。ゲイルは唇を噛み、黙りこくってしまう。


「リサ達も同じだ。ティナは聖女で、《魔力強化》なしで《ヒール》を連発できるし、防御魔法も一級品だ。ラドは範囲攻撃スキルを使える上に、物理攻撃も強力だ。アマンダ、リサ、フォルカスの出番なんてないよ。僕はもう、君たちのお守りなんてしたくない」


 ゲイル、フォルカス、アマンダ、リサの4人の表情が、少しずつ青ざめていく。アベルともう一度冒険をしたいという彼らの望み。それがもはや手遅れだということに、ようやく気付き始めたようだ。


「ティナとラドとパーティーを組んで、僕は思ったんだ。『ああ、本当の仲間って、こういうことなんだ』って。そして、気付いたよ。ゲイル達とは、全然仲間なんかじゃなかったんだ、って」


 アベルはチラっとティナとラドに視線を送る。彼らを見るアベルの目は、ゲイル達へのそれと違い、とてもやさしい。


「ティナもラドも、僕に出来ないことができる。僕が2人を助けて、2人が僕を助けてくれる。僕1人じゃ出来ないことも、2人がいれば出来るんだ」


 アベルは、アークワイバーンとの闘いを思い出す。アベル1人ではキズ一つ付けられなかった相手。ティナとラド、そしてアベルの誰か1人でも欠けていれば勝つことはできなかった。これが、仲間。ゲイル達とパーティーを組んでいた時とは、全然違う。


「僕は今、とても幸せだ。2人と冒険することが、この上なく楽しい。僕はこれからも、2人と冒険したい。それが、僕のやりたいことなんだ。だから、今更《蒼の集い》には戻れない。あんなところに、戻るはずがない」


 静かに、そして優しく冷徹に、アベルはゲイル達との関係に終止符を打つ。アベルはゲイル達に背を向け、歩き出す。その背後では、ゲイル達が呆然と立ち尽くしていた。

 

◆◇◆◇


「ティナ……なんでちょっと、嬉しそうなの?」


 ゲイル達と別れ、宿に向かう途中でアベルが口を開く。その隣で、ニコニコとした笑みを浮かべるティナ。


「え? だって、わたしの心配事、ちょっと解決しちゃったから。アベルの『やりたいこと』、嬉しかったわよ。ね! ラ~ド!!」


「キュウウウ!!」


 ティナはニコニコ笑顔で、ラドはピョンピョン嬉しそうに飛び跳ねている。アベルは、2人が何を喜んでいるのか、今一つ良く分からない。だが、嬉しそうな2人を見ると、つられて自分も嬉しくなるアベルであった。


お読みいただき、ありがとうございます。

第二章はここで終わりです。

次章最後の裁判で、ゲイル達へ引導をわたします。


~武井からのお願いです~


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― 新着の感想 ―
[良い点] 元パーティと現パーティとの対比。 単に落ちぶれと成り上がりだけの話じゃないな。 最後の短い描写だけで現パーティの良さが伝わってくる。 [気になる点] 裁判になるんだったらダンジョン内だから…
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