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第31話 ギルダのお礼


「アベルさん、お久しぶりです!」


「ギルダさん、こんにちは!」

「お久しぶりです!」

「キュウ!!」


 ギルダが立ち上がり、アベル達に挨拶をする。それに応える3人。


「まさか魔石を取り返してきていただけるとは……本当にありがとうございます! 命を助けて頂いた上に、大事な商品まで……感謝のしようもございません」


「いえいえ。魔物を倒すのが冒険者の仕事ですから」


「魔石がなくて困っている友人に届ける大切な品物だったのです。早速、彼に届けなくては!」


「あ! その友人って、バズさんのことですよね。ギルダさんがワイバーンに襲われたって伝えると、バズさんとても心配してましたよ」


 ティナが右手を挙げながら、会話に参加してくる。


「バズともお知り合いで! 彼は王国随一の腕をもつ鍛冶師だ。良い縁に恵まれましたね。そうだ! それなら……」


 ギルダは不意に立ち上がり、背後の棚をあさりだす。取り出したのは、光り輝く金属の塊だ。何かの鉱石のようだ。


「魔石を取り返して頂いたお礼に、『オリハルコン鉱石』を差し上げましょう。バズと知り合いであれば、きっとアベルさん達の役に立つ」


「お礼なんて受け取れま……」


「お受け下さい、アベルさん。友人への大切な贈り物を取り返して頂いておきながら、何もお礼を出来ないなんて、商人のプライドが許しません」


 遠慮の言葉を遮り、ギルダが畳みかけてくる。かなりの『圧』を感じる。どうやら、御礼を受け取らないという選択肢は無いようだ。


「あ、有難く受け取ります」


「それで結構。そう言えば、黒魔石はお気に召されましたかな?」


「あ! すみません、お礼を言うのを忘れてました。とっても助かりました! ギルダさんの黒魔石のお陰で魔石を回収できたと言っても過言じゃありません!」


 ティナの言葉に、ニッコリとギルダが笑う。どうやら、ティナの言葉に気をよくしたようだ。


「そうですか! ちょうど最近、黒魔石が手に入りましてな! 確か引き出しに……」


「キュウ!!」


 引き出しを開けるギルダの手元に、ラドがすり寄っていく。左手で引き出しを開けながら、右手でラドをなでるギルダ。ラドは引き出しの中の黒魔石をジーっと見つめている。


「はは、どうした、ラドくん? この魔石が欲しいのかい? それじゃ、どうぞ」


 そう言うや否や、魔石が宙に浮き、光り輝く。


「!! ギルダさん! 待っ」


 アベルがギルダを制止しようとするも、時すでに遅し。魔石がラドの額へと吸い込まれていく。


――幻獣・ラドは魔石を吸収しました。

――幻獣・ラドはスキル・《アイテムボックス》を覚えました。


「え? 幻獣? 《アイテムボックス》?」


 ギルダが呆然としている。はあっとアベルはため息をつき、額を手のひらで抑えている。見られてしまっては仕方ない。アベルはギルダに事情を説明することにした。


「アベルさんが幻獣使いで、ラドくんが幻獣。そして、魔石を吸収してスキルを覚える……」


 ギルダが腕組みをし、目を瞑りながら考え込んでいる。


「いやはや、只者ではないと思ってはおりましたが、アベルさん達はとんでもない方々ですな。恩人にこう言うのは失礼かもしれませんが、とても興味深い。商人としての血が騒ぎますぞ」


 ギルダさんニコッと笑いながら、興奮気味にそう言う。


「良いご縁に感謝しないといけませんな」


 そう言いながら、深く頷くギルダ。


「ねえ、《アイテムボックス》って、どんなスキルかな? 気になるなー!!」


 ティナがワクワクした目でラドを見つめている。


「キュウ!」


 ラドが《アイテムボックス》を発動する。目の前に真っ黒な空間の裂け目が現れる。名前の通り、アイテムを収納するスキルのようだ。早速、ギルダからもらった『オリハルコンの原石』を真っ黒な空間の中に入れる。手を離すと、シュン! と言う音とともに真っ黒な空間は消滅する。あっという間に、オリハルコンの原石がアイデムボックスに収納されてしまった。


「わ! これは便利ねぇ! これで、素材や戦利品を運ぶのも楽になるわね!」


「これは素晴らしい! アイテムボックスという魔道具もありますが、高価な上に収納できるのはこぶし大のものが限界。こんなに大きいものを収納できるアイテムボックスなど、聞いたこともありません!」


 ティナとギルダが感嘆の声を上げる。オリハルコンの原石はラドと同じくらいの大きさはあり、こぶし大どころではない。しかも、アイテムボックスの容量はまだまだ余裕がある感じだ。


「それにしても、実に便利ですなぁ。よし! 黒魔石に関してはお任せください! 私の方で、色々と手配させて頂きます」


 ギルダの言葉に、アベルが反応する。さすがに、これ以上何かをしてもらうのは申し訳ない。


「ギルダさん、お気持ちはとても嬉しいのですが。黒魔石をすでに2個も頂いていますし、さすがにこれ以上は……」


 アベルの言葉を再び遮り、ギルダは真剣な目でアベルを見つめ、語り掛ける。


「アベルさん。私はあなたに命を助けて頂きました。今度は、私があなたを助ける番です」


 真剣な目でアベルを見つめるギルダ。


「ですが……」


「ふむ。私ではあなたの助けにならない、ということですかな?」


「いえ、決してそんなことは……」


 ギルダの言葉に、アベルは少し困惑している。実際のところ、ギルダの助力はとてもありがたい。だが、『人から助けてもらう』という感覚がアベルにはどこかむず痒い。アベルは人助けの経験は無数にあるが、人から助けてもらったことはあまりないからだ。助けてもらうということに、どうも遠慮というか、申し訳ない感情を持ってしまう。


「そうであれば、私の助けを遠慮なく受け取ってください。あなたはどうも、自己犠牲的と言うか、他人を優先しすぎているように見える。人助けはするも、人から助けられるのには抵抗がある、そう思ってはいませんか?」

 

 アベルは黙りこくってしまう。確かに、思い当たるフシが無いわけではない。隣を見ると、ティナとラドがうんうんと頷いている。二人とも、ギルダに同意のようだ。


「人から助けられる。それは、とても重要なことですよ。少なくとも、私はあなたの力になりたい。私の助力を断るということは、私の心を無下にするのと同じことです。持ちつ持たれつ。私はあなたとそういう関係でありたい。その気持ちを、どうか汲んではいただけませんか?」


「……すみませんでした。そして、ありがとうございます。それでは、黒魔石の件、どうかよろしくお願いします、ギルダさん」


 アベルがそういうと、ギルダがにっこりと笑う。さすが商人。反論の余地が全くない論理に、アベルは完全に丸め込まれてしまった。アベルの完敗だ。


「それじゃ、そろそろお暇して、バズさんのところに行きましょうか」


「それでは、魔石が手に入りましたらご連絡いたします。バズにもよろしくお伝えください」


 アベル達一行は、大きな手土産を持ってバズの鍛冶屋へと向かうのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

次回から、アベルの剣探しが始まります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] アベルが「助けられ慣れてない」ってのは成程。 [一言] アベルに合う剣、ただ強いだけじゃなさそうだな。
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