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第30話 商人ギルダ、実は結構なお金持ちだった


「な、なにこれ。確か、『別荘』って言ってたわよね。ギルダさんって、こんなにお金持ちだったんだ……」


 ティナが驚愕の声を上げる。アベルも驚きのあまり声もでない。チラリと足元を見やると、ラドまでもが開いた口がふさがらないといった様子で呆然としている。


 アベル達の目の前に広がるのは、煌びやかで巨大な門。高さは5メートルほどはあるだろうか。その脇には武装した男が二人。どうやら、門番のようだ。

 アベルは、門の鉄格子の間から遠目で敷地内を窺う。広大で整理された庭。一面に芝生が生えわたり、花壇や木々は整然と手入れがされている。その奥には、まるで城かと見間違うほどの豪邸。


 アベル達は今、マンチェストル西町のはずれ、ギルダの別荘前に来ている。ワイバーンに奪われた魔石を届けに来たのだ。


「こんにちは。何か御用ですか? 失礼ですが、面会の予約はしておられますでしょうか」


 門番の一人が、アベルの目の前にやってきて話しかける。物腰を見る限り、腕っぷしは一流のようだ。だが、見た目に反してとても丁寧な口調。礼儀に関してもよく教育されているようだ。優秀な門番を雇っていることが伺える。


「僕はアベルと言います。ギルダさんの知り合いでして、ワイバーンに奪われた魔石を回収できましたので、届けに伺いました。面会の予約はしていないのですが、ギルダ様はご在宅でしょうか?」


 門番に合わせ、アベルも丁重な口調で要件を伝える。門番はアベルの隣にある馬車の荷台に目をやり、驚いた表情を浮かべる。


「!! あなたがアベル様でしたか。これは失礼いたしました。ワイバーンの襲撃から旦那様を助けていただいた英雄と伺っております。それに、これは間違いなく旦那様の馬車! すぐに、旦那様にご連絡いたします」


 足早に詰め所へと駆け込み、機械に向かって何かを話している。ギルダと連絡を取っているのだろうか。


「ねえ、アベル」


 ティナがアベルの左手の裾を引っ張り、顔を耳に近づけてくる。ヒソヒソ声でティナがアベルの耳元で話し始める。


「あの門番の人、機械に向かって話しているけど、あれ、何してるの?」


「あれは、《テレフォン》という魔道具だよ。離れた場所にいる人物と話しができる便利な道具なんだ。すごく高価で貴重だから、上位貴族や大商人くらいしか持ってないんだ」


「ってことは、ギルダさんってかなりの人物ってことよね」


 そんな話をしていると、門番がアベルのもとに駆け寄ってきた。


「アベル様がお見えになった旨を旦那様にお伝えしたところ、ぜひお会いしたいとのことです。屋敷の来客室まで執事のエドがご案内いたします」


 魔石が積まれた荷台を門番に預け、アベル達は屋敷の中へと入っていく。エドに連れられ、広大な庭を歩いていくアベル達。整然と整備された綺麗な庭にアベルは息をのむ。芝生は青々と茂り、全て同じ高さに刈り取られている。木々はその枝葉が丁寧にそろえられており、地面には落ち葉一つない。


「旦那様を助けて頂き、本当に感謝のしようもございません」


 エドがアベルとティナに頭を下げながら、口を開く。


「いえ。気になさらないでください。当然のことをしただけです」


 アベルの言葉に、エドがニコッと笑う。そして、ハァッと大きなため息をつく。


「旦那様にも困ったものです。あの街道を通るのは危険だからお止めくださいとあれほど言ったのに……」


「そう言えば、なんでギルダさんは一人で魔石を運んでいたんですか? 使用人さんもたくさんいそうですし、ギルダさん自ら魔石を運ぶ必要、無いと思うんですけど?」


 ティナがもっともな疑問を口にする。屋敷の規模や使用人の質を見る限り、ギルダはかなり有力な大商人に見える。魔石を届けるという仕事を、自らやる理由は思い当たらない。

 ティナの言葉を聞いたエドは、さらに大きくハァッとため息をつく。


「『私用で友人のバズに魔石を届けるんだから、自分で行くのが当然』の一点張りでしたよ、旦那様は。部下に届けさせればいいと何度説得しても、『自分のわがままで部下を危険にさらすわけにはいかない』とのことでした。本当に旦那様は頑固で」


 エドは困ったような表情を浮かべ、首を左右に振っている。


「でも、それが旦那様の素晴らしいところでもあるんですが。本当に困ったものです」


 そう言いながら、少し誇らしそうな笑みを浮かべるエド。ギルダはかなりの人格者のようだ。エドの口ぶりは、ギルダへの親愛に満ち溢れている。そんなギルダとの偶然の出会いに、改めて感謝するアベルであった。

 

 エドとの会話を挟みながら3分ほど歩くと、アベル達は屋敷に到着する。真っ白い石造りの豪邸。まるで城のような佇まいだ。外壁はレンガ造りで、屋根はエメラルドグリーン。全体的にアンティーク感が漂う雰囲気だが、壁は真っ白でむしろ真新しさを感じさせる。定期的に塗り直されているのだろう。


「どうぞ、中へ」


 エドがそう言い、扉を開ける。アベル達は豪邸の中に入っていく。入口前の広間を抜け、赤い絨毯が敷かれた階段を上っていく。そのまま、応接室へと案内される。

 扉を開けると、ギルダがソファに座っている。アベル達を待っていたようだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと頑固なところもあるけど部下に慕われてるみたいね。 [一言] ギルダにはアベル達とは縁が出来た訳だ。 重要人物になるのかな。
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