第3話 追放したSランクパーティーにプチ仕返しする
ダンジョンを出て2時間ほど山道を歩き、無事街に帰ってきたアベルとラド。衰弱していたラドも大分回復しており、街中ではアベルの隣をスタスタと元気に歩いている。
今夜の宿を探して大通りを歩く二人。すると、通りがかった酒場から聞きなれた声が漏れ聞こえてくる。
「はっはーー!! ゲイルの腹パン一発でのされちまってよぉ! 腹抱えて、ハヒューハヒューだってよ!! 最後まで笑わせてくれたぜ!」
あの野太い声は、フォルカスだ。誰のことを嘲笑っているのか、考えるまでもない。アベルの頭に血が上っていく。
「3年間、ずーっと役立たずのクソだったが、最後の最後で役に立ってくれたな」
ゲイルの声だ。ゲラゲラと下卑た笑いを浮かべている。役に立った、ってとういうことだ? 嫌な予感がしなからも、アベルは聞き耳をたてる。
「10万ゴールドだっけ? 仲間が死んだら、準備金が王国から貰えるんでしょ? 何に使おっかなー♪」
アマンダがそう言い放つ。準備金? 10万ゴールド? まさか、ゲイル達は金のために僕を殺そうとしたのか? 信じられない事実に、愕然とするアベル。
「今頃は犬のエサ……ね。人の役には立たないけど、犬の役には立つってね。さすがクソ雑魚テイマーの鏡ね」
リサの言葉に、ドッと4人が笑い声を上げる。アベルは怒りに震え、拳をブルブルと握りしめる。隣で、ラドが心配そうな目でアベルを見ている。
彼ら4人の善意を信じ、一緒に旅した3年間は、全く無意味だったようだ。怒り、悲しみ、悔しさがアベルの心を駆け巡っていく。ふと気がつくと、酒場のドアに手をかけていた。
バンッ!! 大きな音をたてて、酒場の入り口を開ける。店内で飲んでいた20人ほどの客が一斉にアベルの方を見る。その中には、かつて仲間だった4人も含まれていた。
「ア、アベル!? お前、何でここに?」
ゲイルが動揺した様子でアベルに問いかける。お前は死んだはずじゃなかったのか? 言外にそう問いかけているのは明らかだ。
一方、ゲイルを見るアベルの目は、凍りつくように冷たい。
「ゲイル、久しぶりだね。つい、6時間ぶり。君たちにダンジョンで殺されかけて以来かな?」
アベルが、酒場中に聞こえるように大きな声で語りだす。ザワッとどよめく店内。
「い、いや、違うんだ。アベル。俺たちはお前を殺そうとしたんじゃなくて……」
「ああ! そういえば見事な腹パン、ありがとう。あと、お土産のヘルハウンドは、親友のラドが倒してくれたよ。君たちとは違って、信頼できる仲間の……ね」
ゲイルの言い訳を遮って、アベルは追い打ちをかける。ゲイル達4人の顔がみるみる青くなっていく。
「みんな、青い顔してるけど、体調でも悪いの? それとも、仲間を殺そうとしたことがバレて動揺してるのかな? さすが、《蒼の集い》。青い顔の4人が集まると、壮観だねえ」
「て、てんめぇー!!」
アベルの挑発に、《蒼の集い》で一番気が短いフォルカスが激高する。席を立ちあがり、アベルに殴りかかってくる。飛び掛かってくるフォルカスを迎撃しようとするラド。アベルは右手を突き出し、ラドを制する。そして、《筋力強化》を素早く詠唱し、アベルは自らフォルカスの一撃に立ち向かう。
バシッ!!
顔面めがけて勢いよく繰り出された拳を、アベルは難なく左手一本で受け止める。フォルカスの手はびくともしない。予想外の力にねじ伏せられたフォルカスは、あまりの驚きに目を見開く。アベルは、左手に少しだけ力を込めて、ゲイル達のテーブルに向けてフォルカスを軽く投げ飛ばす。
ビュンッ!! バキバキバキッ!! ガシャーン!!!
フォルカスが宙を舞い、ゲイル達の円卓テーブルに突っ込む。テーブルは粉砕され、床には割れた皿やジョッキが飛び散っている。
「な、なんだ! この力は!! 俺が、ビクともしねぇだと!?」
フォルカスが驚きの声を上げる。アベルの方を見るその目には、怯えの色が映っていた。
「前から言ってるよね? キミの自慢の怪力は、僕のスキル《筋力強化》のお陰だって。キミの素の筋力じゃ、『クソ雑魚テイマー』の僕の足元にも及ばないってことさ」
パーティーで最も筋力のあるフォルカスが、たかがテイマー(だとゲイル達は思っている)の力にビクともしない。その事実に、《蒼の集い》のメンバーは悲壮な表情を浮かべる。青い顔色がさらに緑がかり、深みを増していく。気が付けば、ゲイル達の顔色は正真正銘の蒼色だった。
「ア、アベルが今まで言ってたことって、本当だったの!? あいつの強化スキルがないと、もしかして私たち……」
「いや、そんなわけない!! 何かの間違いだ!! ちょっと調子が悪かっただけだ!」
「アイツを殺そうとしたの、やっぱまずかったんじゃない!? ゲイル、なんであんなことしたのよ!!」
「はぁ!? お前もノリノリだったじゃねーか!!」
ゲイル達がなにやら内輪モメを始める。そんな彼らを、アベルは冷めた目で見ていた。もはや、ゲイル達を見るアベルの目には、怒りも悲しみも悔しさもない。あるのは軽蔑。それだけだ。
「ケンカはよそでやってくれない? じゃあ、僕は今日でパーティーを抜けるから。あと、今回の件は、僕から直接ギルドに報告させてもらうからね」
「な!! ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ゲイルが何か言ってるが、アベルの耳には最早届かない。アベルとゲイル達は、既にもう他人なのだから。
ゲイル達に別れを告げたアベルは、ゆっくりと酒場を後にし、夜の街へと消えていった。唯一の仲間であるラドとともに。
お読みいただき、ありがとうございます。
真・ざまぁ回はもうちょっと先になります。
次回、ゲイル達の悪行をギルドに報告した後、ソロ冒険者デビューです!