第29話 冒険者ランク昇格(C→A)
「あ! お久しぶりです! アベルくん、ティナちゃん、ラド!」
ギルドの受付、アンナが大きく手を振りながら3人に語り掛けてくる。マンチェストルに帰還したアベル達は、早速ギルドへ討伐報告に来ていた。
「こんにちは、アンナさん! 今回は色々報告がありまして……アークワイバーンを討伐しましたので、まずはその討伐報告を。あと、ワイバーンに奪われた魔石を回収しましたので、その届け出も」
アベルは受付カウンターに右手を置きながら、アンナに要件を伝える。一方のアンナは、想定外の情報が沢山出てきて、若干混乱気味だ。
「え……あ、アークワイバーン!? ワイバーンじゃなくて!? それに、奪われた魔石って、最近ワイバーンに襲われていた商人のものですか? あんな大量の魔石、たった3人でどうやってここまで?」
アンナの頭を疑問が駆け巡り、若干どころか大変混乱しているようだ。
「えーっと、カルディア平原の大峡谷に行ったんですけど、ワイバーンの変異種、アークワイバーンが居たので討伐してきました!」
ティナが助け船を出す。アベルも説明を加える。
「ワイバーンは最近、街道の商人を襲って大量の魔石を集めてましたよね。多分、魔石の影響で突然変異したんじゃないかと。とりあえず、冒険者プレートで討伐を確認してもらえますか?」
「え、ええ。そうですね。すみません、色々とびっくりしちゃって」
アベルとティナはアンナに黒い冒険者プレートを手渡す。アンナは未だに困惑した表情を浮かべつつも、手元の機械に挿入し、読み取りをかける。
「か、確認できました。本当に、アークワイバーンを討伐したんですね。まさか峡谷にアークワイバーンなんて上位種がいるとは思わなくて……よくご無事でしたね。討伐ランクはA。報酬は10万ゴールドになります」
10万ゴールド。棚から牡丹餅とはこのことだ。強敵ではあったが、かなり割のいい討伐対象だったようだ。これで、ランクBへの昇格条件は、余裕で達成だ。
「それと、さっき『魔石を回収してきた』って言ってましたよね。あれ、本当なんですか?」
「はい。ギルドの外に置いてあります。ラドが見張りをしてくれているので、確認してもらえますか?」
アベル、ティナとアンナの3人は、受付カウンターを出て、ギルドの外に出る。ギルド入口の扉から続く階段下には、壊れた荷台が10台。ポウッと淡い光に包まれながら、空中にフワフワと浮いている。そして荷台の上には、麻袋に包まれた大量の魔石が積まれていた。
「キュウ!」
階段下でじーっとギルドの方を見ていたラドが、嬉しそうな声を上げる。外でのお留守番は、ちょっと寂しかったみたいだ。
「な、な、な、なんですかこれー!! に、荷台が、く、空中に浮いてるー!?」
アンナが驚きの声を上げる。どうやら、アンナは《フロート》を知らないようだ。一般的には珍しいスキルなのかもしれない。
「ふ、《フロート》ってスキルですよ、アンナさん。こうやって浮かせて、ここまで運んできたんです」
アンナの驚きように、ちょっと笑顔が引きつっているティナ。
「ふ、フロートって、魔道具とかにある、アレですよね! 人ひとりを10cmくらい浮かすのがやっとのはずじゃないですか! 高いところからゆっくり降りるのが普通の使い方ですよ? あんな重い荷物を自在に浮かすなんて。き、規格外が過ぎる……」
アンナがさらに驚いてしまったようだ。どうやら、ラドの《フロート》は異常な性能らしい。《テレポート》のことは絶対黙っておこう。そう心に決めたアベルだった。
「すみません、アンナさん。魔石を確認していただけますか?」
申し訳なさそうにアンナに語り掛けるアベル。ハッと我に返るアンナ。
「そ、そそそうでしたよね。確認しますので、少々お待ちください」
アンナがギルドに戻り、5人ほど職員を連れて戻ってきた。手分けして魔石を確認していくアンナ達。10分程度作業した後、アンナがアベルの前に駆け寄ってくる。
「確認しました。9台分の荷台の馬車番号と魔石の種類が依頼書と一致しました」
「依頼書? 9台分?」
首をかしげるアンナ。アベルも同じ気持ちだ。依頼書とは、何のことだろう。
「あれ? ご存知なかったんですか? ワイバーンの被害者達が連名で魔石の回収依頼を出してるんです」
――――
魔石回収依頼書(ランクA)
依頼内容:ワイバーンに奪われた魔石の回収
場所:ダンジョン《カルディア平原・峡谷》
報酬:15万ゴールド
詳細:カルディア平原西の街道でワイバーンに奪われた魔石の回収依頼。
奪われた魔石は峡谷底のワイバーンの巣にあると思われる。
回収に当たってワイバーンの討伐が必要なことと、峡谷底から魔石を回収する
難易度の高さを鑑み、依頼ランクをAとする
依頼人:ランド、ネール、カイア、アリス、ジェイド、サイ、ムンク、ネド、ロン
――――
「じゅ、じゅうごまんゴールド!?」
アベルが驚きの声を上げる。いくら何でも、魔石の回収だけで15万ゴールドは破格だ。
「奪われた魔石が大量なので、この報酬になってるんです。被害総額は300万ゴールドほどでしたから、その5パーセントが報酬になっています」
本日二度目。棚から牡丹餅とはまさにこのことだ。
「あれ? ねえ、アベル。依頼人の名前にギルダさんがいないよ」
「ほんとだ! だから、9台分の荷台の魔石が確認できたのか。最後の一つは、ギルダさんの分だね。後で届けてあげよう。それじゃ、9台分の魔石を依頼者に返してあげてもらえますか?」
「はい。了解しました! それじゃ、もう一度ギルド受付へ。依頼達成の手続きを行います」
アベル達は、再度ギルドの受付へと戻っていく。受付に着くと、冒険者プレートをアンナに渡し、依頼達成の手続きを開始する。
「えーっと、アークワイバーンの討伐に、魔石の回収依頼達成っと。合計25万ゴールドの報酬なので…
…おめでとうございます! 二人とも、Aランクに昇格です!」
キョトンと見つめあうアベルとティナ。
「え? Bランクへの昇格じゃないんですか?」
ティナが疑問の声を上げる。
「アベルくんたちは、Cランクになってから昨日までの報酬総額は4万3000ゴールドでしたよね。アークワイバーン討伐の10万ゴールドと魔石回収の15万ゴールドを合わせて、29万3000ゴールド」
フムフム、とアベルとティナはアンナの解説に聞き入っている。
「CランクからBランクの昇格条件が、獲得報酬5万ゴールド。BランクからAランクの昇格条件が20万ゴールドなので、獲得報酬の条件が満たされます。あと、Aランク昇格には『Aランクモンスター討伐済み』という条件もあるんですが、アークワイバーンを討伐したので、こちらの条件も満たされます。なので、アベルくん達は飛び級で昇格になります」
確かに、計算上はそうなる。ソロ冒険者としてEランク登録をして2週間足らずでAランクまで上り詰めてしまった。アベルは元Sランクパーティーの一員とは言え、凄まじいペースだ。
「ついに、Aランクね~!! 目標のSランクまで、もうちょっと!!」
「うん、そうだね! 頑張って早くSランクになろう! それじゃ、早速ギルダさんのところに魔石を届けに行かないと」
アベル達は、アンナに別れを告げてギルドを後にする。ラドが馬車の荷台をフワフワと浮かせ、目指すはギルダの館だ。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、ギルダの秘密が明らかに!?