第28話 レベルアップ&新連携スキル
「赤い魔石、ね……」
ティナが魔石を拾い上げると、ラドがティナにササッと駆け寄っていく。
「キュウ!!」
ダダッとティナの右肩によじ登り、魔石をじーっと見つめるラド。それから、大きな丸い目でティナを見つめ、頭の裏をティナの首筋にスリスリしている。甘えて、おねだりしているようだ。
「くぅ!! か、かわいいわね! 分かってるわよ。これ、あなたのものよ」
ティナがそう言うと、赤い魔石がスウッと浮き上がり、ラドの額に吸い込まれていく。
――幻獣・ラドは魔石を吸収しました。連携スキル・《経験値10倍》が発動します。
――《経験値10倍》の効果により、ラドに貯蓄された経験値が10倍になってアベルとティナに還元されます。
――アベルのレベルが76に上がりました。
――ティナのレベルが72に上がりました。
――《経験値10倍》の効果により、幻獣・ラドのステータスが大幅に上昇しました。
――幻獣使いの能力により、幻獣・ラドのステータスがアベルに還元されます。アベルのステータスが大幅に上昇しました。
――魔石「アークワイバーン」を吸収した効果により、スキル・《ストーム》をラドが覚えました。
怒涛のレベルアップ&ステータスアップ。そして、予想通りの《ストーム》取得。
「だんだん、パターンが分かってきたわね。それにしても、レベル70オーバーか。これ、結構強いんじゃないの?」
「うん。レベルだけで言うなら、十分Sランク相当だと思うよ」
「アベルの強化スキルもあるわけだしね。だんだん、わたしたちバケモノじみてきたわね」
「でも、レベルやステータスだけじゃ強さは測れないよ。今回のアークワイバーンがいい例だよね。ティナの《パワーショット》がなければ今の僕たちでもきっと勝てない相手だから。冒険者にとって一番重要なのは、スキルと経験、そして戦略だからね」
実際、ゲイル達はレベル50をちょっと超えた程度。Sランクパーティーとしては、レベルはかなり低い方だ。それでも、《蒼の集い》として王国中に名をとどろかせていたのは、アベルという隠れたブレーンがいたからこそだ。
「それに、課題も見えたよ。もっと強い剣が必要だ。僕の剣が、アークワイバーンに通じなかった」
アークワイバーンへの初撃。アベルの剣は、アークワイバーンの皮膚に傷をつけることすらできなかった。筋力うんぬんの問題ではない。実際、アベルはアークワイバーンの攻撃を剣でいなし、弾くことができていた。単純な武器の攻撃力の問題だ。
「うん、確かにね。アベルの剣って、ブロンズソードでしょ? 駆け出しの冒険者が使う武器じゃない。私だけ良い武器買ってもらって、アベルはなしなんてそれは不公平よ!」
「キュウ!!」
そうだそうだと言わんばかりに、ラドが頷いている。
「ありがと、ティナ、ラド。じゃ、帰ってバズさんに相談してみよう。でもその前に、ギルダさんの馬車を探そう。まだ魔石が残ってるかもしれない」
辺りを歩き回ること20分。崖の中腹にアークワイバーンの巣と思われる洞窟を発見する。その中には、木造の荷台が10台ほど放置されていた。その中にはギルダの馬車のものもある。荷台には、大量の魔石が山積みにされている。
「ずいぶんたくさんあるわね」
「うーん、フロートでマンチェストルまで運べるかな? ラド、お願い。《魔力強化》」
「キュウ!」
任せてくれと言わんばかりのドヤ顔で、ラドは《フロート》を唱える。アベル達3人と洞窟内にある荷台が強く光り輝き、宙に浮く。――何か様子がおかしい。以前の《フロート》は、ここまで強い光ではなかったはずだ。気が付くと、ラドが白く光り輝いていた。
――《魔力強化》により、《フロート》に高速移動が付与されました。
――連携スキル《テレポート》を獲得しました。
「キャ!!」
バシュ!! と言う音とともに、アベル達は凄まじい勢いで洞窟外へと飛び出していく。その後、上空へと一気に上昇。谷を抜け、空高く浮き上がるアベルと荷台たち。
遥か上空に浮かび上がった後、城塞都市マンチェストルに向けて方向転換。まるで大砲のような速度で大空をかっ飛んでいく。わずか1分ほどでマンチェストル入口近くの平原に到着する。
「す、すごい速さね。馬車で2時間もかかる距離のはずなのに、あっという間に街に着いちゃった」
「キュウ!!」
目を丸くしているティナをしり目に、ラドはどや顔を決めている。まさに得意満面といった表情だ。
「それに、連携スキルが発動したのも驚きだよ。アークワイバーンと戦う前は発動しなかったのに。連携スキルにレベルが関わってるのは間違いなさそうだね」
「それにしても、《テレポート》って便利なスキルね。これで、遠距離移動があっという間。今後のダンジョン攻略がすっごい楽になるわね」
実際、ティナの言うとおりだ。街とダンジョンを行き来できる時間を短縮できるので、かなり効率が良くなる。
「まずは一旦、ギルドに討伐報告に行こうか」
そう言うと、《フロート》で魔石をたくさん載せた荷台を浮かべ、街へと歩いていくアベル達であった。