第27話 決戦・アークワイバーン
グゥワァァァ!!
全長12メートルほどはあるアークワイバーンがアベル達に向かって襲い掛かってくる。大地を揺るがす咆哮。目は赤く血走り、鋭く大きな牙が剝き出しにされている。胸筋、太もも、腕は通常のワイバーンとは比べ物にならないくらい太く、重量感がある。凄まじい迫力にアベル達は圧倒される。
「く!! 《筋力強化》!《魔力強化》!」
「《プロテクション》×3! 《ウォール》!」
アベルはとっさに強化スキルを詠唱。ティナもプロテクションの3重掛けに、ウォールを詠唱する。
迫りくるアークワイバーン。アベルは少しでも衝撃を減らすため、後ろに飛びのけながらアークワイバーンの攻撃を迎え撃つ。
キィン!!
アークワイバーンが右腕を大きく振り下ろす。それを剣で受けるアベル。アベルの眼前には、鎌のようなアークワイバーンの爪。かするだけで大ダメージを受けそうなほどの威圧感がある。レベル52、≪筋力強化≫をかけたアベルは、アークワイバーンの攻撃をなんとか受け止める。
だが、受けるのが精いっぱいで、ダメージを与えることはできない。アベルはアークワイバーンの爪と爪の間に刃を突き立てるも、固い皮膚は刃の侵入を許さない。アベルの剣では、アークワイバーンの皮膚に傷一つつけることができないようだ。
ガィン!!
アベルは剣を薙ぎ払い、アークワイバーンの攻撃を受け流す。アークワイバーンは再び上空へと逃れ、ホバリングをしている。次の攻撃の機を窺っている様子だ。
「よし、反撃開始だ!」
アベルがティナとラドに向かって大きな声で語り掛ける。
「作戦は!?」
「変更なし!!」
アベルとラドが前衛、ティナが後衛のいつもの戦闘隊形を整える。相手はアークワイバーン。想定していたワイバーンよりも1ランク強い相手だが、攻略法は変わらない。さっき確認した作戦のまま、敵を迎え撃つ。
「キュウ!!」
ラドが《フレイム》を連発する。すかさず、アークワイバーンが《ストーム》を詠唱する。ラドが放った火炎旋風は、あっけなくかき消されていく。だが、これでいい。作戦通りだ。
ティナがクロスボウを構え、空中に静止しているアークワイバーンに狙いを定める。――キィィン、と青白い光がクロスボウの弓部に集結し、青く輝く光の矢が形成される。
「それじゃ、いっくわよー! 《マジックアロー》」
ティナがクロスボウのトリガーを引くや否や、青い矢が放たれる。《ストーム》の影響を全く受け付けず、青く輝く矢はアークワイバーンに向かって直進する。そのままアークワイバーンに命中、右翼に小さな風穴が空く。
――作戦通り。前回の対戦で、ワイバーンは《ストーム》の発動中、空中に静止していた。翼を使って暴風を発生させるというスキルの性質上、《ストーム》の発動中はワイバーンは動けないとアベルは予想した。そこで、ラドの《フレイム》を囮に、アークワイバーンを空中にくぎ付けにする作戦を考え付いた。作戦は成功。空中に静止しているアークワイバーンは、ティナの《マジックアロー》に対してなすすべもなくハチの巣となっている。
「さあ、どんどん行くわよ!!」
ティナは《マジックアロー》を連射する。そのたびに、どんどんアークワイバーンの右翼に風穴が増えていく。これも作戦通り。アークワイバーンの機動力を奪うため、ティナは右翼を集中的に攻撃している。
不意にアークワイバーンは《ストーム》の発動を止め、大きく羽ばたき上空に逃れる。《マジックアロー》を《ストーム》で防ぐのは無理と判断し、高速移動で回避することにしたようだ。
「ラド!!《ホーミングフレイム》だ!」
「キュウ!!」
アベルが《魔力強化》を、ラドが《フレイム》を詠唱する。連携スキル《ホーミングフレイム》が発動。放たれた高速の火球は、回避行動を繰り返すアークワイバーンをどこまでも追いかける。
《ストーム》で火球を防げば、《マジックアロー》の恰好の的。《ストーム》を使わなければ、火球の餌食。避けようのない攻撃がアークワイバーンを襲う。
ゴォウ!!
火球が右翼に着弾。《マジックアロー》で開けられた小さな風穴が炎により広げられ、右翼に大きな風穴が空く。うまく揚力を作り出せなくなったアークワイバーンは、くるくると旋回しながら、地面へと堕ちていく。ズン!! と大きな音が鳴り、アークワイバーンは墜落する。作戦は順調だ。
「ティナ!《魔力強化》」
「任せて!! 《パワーショット》!!」
アベルの《魔力強化》とティナの《マジックアロー》の連携スキル、パワーショット。これが、今回の作戦の切り札だ。10メートルの岩をも消し飛ばす、一撃必殺のスキル。だが、発動までの5秒間、ティナの防御スキルが全て無効になる諸刃の剣でもある。
ティナが《パワーショット》を発動した瞬間、アベル達から《プロテクション》と《ウォール》の効果が消えうせる。アベル達は無防備、特にティナはスキルの発動中で回避行動をとることすらできない。非常にリスクの高い状態。だが、アベル達に慌てる様子は微塵も見られない。
膨大な魔力がティナのクロスボウに集約していく。その魔力の流れに気付いたのか、慌ててアークワイバーンは起き上がり、翼を大きく広げる。《ストーム》の構えだ。
アベル達は今、完全に無防備の状態だ。アークワイバーンが《ストーム》を放てば、ひとたまりもない。だが、翼を大きく羽ばたき、《ストーム》を発動しようとしたアークワイバーンは、なぜかその場でクルクルと旋回し、うまく風を起こせない。右翼に風穴が空いているためだ。
――《ストーム》の封殺。これが、アベル達の作戦の肝だった。翼を執拗に攻撃し、空を飛べなくなるほどに翼を損傷する。遠隔攻撃である《ストーム》を封じ込めることで、《パワーショット》発動までの時間を稼ぐ。それがアベル達の目的だった。
《パワーショット》発動まで3秒。《ストーム》の発動に失敗したアークワイバーンがティナに向かって突進してくる。クロスボウに集まる膨大な魔力に脅威を感じているのか、ものすごい速度だ。距離は約200メートル。
発動まであと2秒。アークワイバーンが左翼を羽ばたき、加速する。地面をものすごい速さでかけてくる。距離がグングンと縮まっていく。距離は約100メートル。
発動まであと1秒。もうすぐ、アークワイバーンの間合いに入る。口を大きく開き、突進してくる。このままだと、《パワーショット》発動まで間に合わない。アークワイバーンがまさに攻撃しようとしたその時、アベルの静かな声が響く。
「ラド。《威圧》だ」
「キュワアアァァァ!!!」
ラドが甲高い大きな声を出す。まるで、百獣の王がネズミに向かって吠えるかのような威圧感。アークワイバーンは急ブレーキをかけ、ピタッと動きを止める。ラドを見つめて怯えているのだ。アークワイバーンはカタカタと震え、動きを封じられている。
目の前で止まった、大きな的。そして、ついにその時間は訪れる。《パワーショット》の発動だ。
「いっけぇーー!!」
ティナが引き金を引く。その刹那、直径3メートルはあろうかと言うほどの大きな矢がティナのクロスボウから放たれる。
ゴゥ!!
あたりに響く、凄まじい轟音。そして、視界を覆いつくすほどのまばゆい光。あまりの光量に、アベルの視界が真っ白に染められていく。
しばらくして、光が徐々に消えていく。アベルが目を開くと、目の前には、どてっ腹に大きな風穴を開けたアークワイバーンが立ち尽くしていた。
一瞬の静寂。アークワイバーンはピクリとも動かない。そのまま、体がポゥッと青い光に包まれていく。10メートルを超す巨体が徐々に光の粒になっていき、やがては完全に空中へと消えてしまう。
カラン。
アベルの目の前で、大きな音がする。赤く光る石が地面に落ちる音だ。アークワイバーンの消え去った地面には、大きな魔石が転がっていた。
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次回、赤い魔石でレベルアップです!