第25話 連携スキル《パワーショット》
バズの武器屋を後にして、アベル達はマンチェストル郊外の平原に来ていた。明日のワイバーンとの決戦に備え、午後は実験の時間だ。アベル達には2つ、決戦前に試しておかなければならないことがある。
「それじゃ、早速始めましょうか。上手くいくかなー?」
ティナがワクワクした面持ちでギルダからもらった黒魔石を取り出す。一つ目の実験の開始だ。
ティナは魔石を手のひらの上にのせる。黒い魔石は、強く光り輝いて宙に浮いた後、ラドの額へと吸い込まれていった。
――幻獣・ラドは魔石を吸収しました。
――魔石「フロート」を吸収した効果により、スキル・《フロート》を獲得しました。
「上手くいった……けど、レベルは上がらないのね」
ティナが嬉しそうな、残念なような、微妙な表情を浮かべている。
「もしかしたら、レベルとステータスが上がるのは、赤い魔石固有の現象なのかもね。赤い魔石は、『生物に影響を与える』って言ってたでしょ? だから、赤い魔石をラドが吸収すると、その効果でラドのステータスとパーティーみんなのレベルが上がるって考えられない?」
「筋は通るわね。レベルとステータスが上がるのは、赤い魔石のみの効果。ラドがスキルを覚えるのは、すべての魔石の効果ってことね。黒い魔石は空間に関与する《フロート》の魔力が結晶化したものだから、そのスキルだけがラドに吸収されたってわけね」
ティナが腕組みをし、うんうんと頷いている。
「キュウ!!」
アベルとティナが魔石談義をしていると、ラドが会話に割って入ってきた。アベルの右肩の上に登り、服を引っ張ってくる。まるで『早く新しいスキルを試してみよう!』と言っているみたいだ。
「よし! 《魔力強化》」
「キュ!」
ラドがフロートを唱える。すると、3人の体がフワフワと浮き上がり、宙を漂う。
「わ! 空を飛んでる……これなら、大峡谷の下へも行けそうだね」
アベルが感嘆の声を上げる。フヨフヨと宙を浮く感覚は、何とも言えず心地いい。
「でも、あれ? 連携スキル、発動しなかったわね」
ティナが疑問を口にする。今までは、アベルの強化魔法とスキルを組み合わせると、何らかの連携スキルが発動していた。だが、今回はそれがない。
「レベルが足りないのか、《魔力強化》と《フロート》の連携スキル自体が存在しないのか……それとも、もしかしたら単に『運』の問題かもしれない。今は連携しなくても、戦闘中で突如連携する可能性だってある。いずれにせよ、連携スキルの発動は博打な面があるみたいだ」
「そうね。連携スキルは便利だけど、リスクもあるってことね」
フヨフヨと宙を浮きながら、腕組をしてうなずくティナとアベルであった。
◇◆◇◆
5分ほど空中遊泳を楽しんだ後、アベル達はもう一つの実験に移る。《マジックアロー》の確認だ。
「じゃ、早速試してみるわよ。《マジックアロー》!」
――キィィィン、と甲高い音が鳴り響き、青い光がクロスボウの中心へと集まっていく。ティナの魔力が集結していき、青白く光り輝く矢が形成される。
「えーっと、手ごろな的は……っと」
ティナが辺りをキョロキョロと見まわし、近くにあった1メートルほどの岩に狙いを定める。
パシュッ!!
ティナが引き金を引くと、小気味よい音とともに、青い矢が高速で打ち出される。重力を無視するかのように、岩に向かって真っすぐ矢は飛んでいく。
パンッ!!
矢が岩に当たった瞬間、青白い閃光とともに破裂音が響く。1メートルの岩は見事にはじけ飛び、小さな石つぶてが周りに飛散する。
「わ! すごい威力だね。とてもクロスボウとは思えない……」
アベルが驚きの声を上げる。まさか、一撃で岩が粉々になるほどの威力になっているとは、夢にも思わなかった。これなら、攻撃手段として、かなりの戦力になる。
「へぇ~! すっごい、イイ感じ! ワイバーンとの決戦が楽しみね!」
ティナもご満悦の模様だ。だが、2つ目の実験は、ここからが本番だ。
「それじゃ、ティナ。次は連携を試してみよう。《魔力強化》」
「さあ、うまくいくかな~? 《マジックアロー》!」
ティナがスキルを発動すると、ラドが白く輝く。連携スキルはバッチリ発動したようだ。ものすごい勢いで青白い光がクロスボウへと集まっていく。
――《魔力強化》により、《マジックアロー》の威力が強化されました
――連携スキル《パワーショット》が発動します
「く!! な、なにこれ!? 魔力が全部取られる……」
ティナは立っているのが精いっぱいの様子だ。全身の魔力がクロスボウに集中していく。クロスボウに集まった青白い光は、バチバチとスパークを立てながら丸い球体となり、弦の上に集結する。きっかり5秒間魔力を吸い取られた後、ティナの表情が和らぐ。スキルの発動準備が完了したようだ。
「ふう、やっと収まった。これ、ヤバいわね。発動中は何も出来ないわ」
ティナが大粒の汗を右手で拭いながら、そう言う。再びキョロキョロとあたりを見回す。今度は、直径10メートルはあろうかという大岩に照準を合わせる。
「さーて、どんな威力になるのかなぁ? ってーーい!!」
ゴオゥ!!
ティナがトリガーを引くや否や、青白い球体が極大の矢へと変形し、轟音とともにはじき出される。視界が真っ白になるほどのまばゆい光が辺りを包む。数秒後、徐々に光が収まっていき、視界が明らかになっていく。
「……」
目の前の光景に、絶句するアベルとティナ。それもそのはず、直径10メートルの大岩が跡形もなく吹き飛んでしまっている。
「……流石に、やりすぎじゃない!?」
「うん。ヤバいね」
想像以上の威力に、驚きを隠せない二人。確かに、威力はとてつもない。まさに一撃必殺と言っていい。だが、その分リスクも大きい。
「でも、発動に5秒かかるのは致命的だね。発動中は魔力を吸い取られて、身動きできなかったでしょ? その間、無防備だ」
「……魔力、全部取られちゃった。多分、発動中は《プロテクション》とか《ウォール》とかの防御スキルも全部消えちゃうわ」
まさにもろ刃の剣。とんでもない威力の反面、発動までの5秒間をティナの防御スキルなしで耐えなければならない。使いどころがとても難しいスキルだ。だが、アベルの表情は心なしか楽しそうだ。
「ふーん……ハイリスクハイリターン。作戦の立て甲斐があるスキルだね。面白いんじゃない?」
アベルがニヤッと不敵に笑う。その後、3時間座り込み、明日の決戦に向けて戦略を練るアベルだった。
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次回、カルディア平原・大峡谷です!