第24話 バズ、魔石について語る
「おう、戻ってきたな、嬢ちゃん! クロスボウの改造は終わってるぜ!」
アベル達が工房に入ると、バズが大きな声で話しかける。既に改造を終え、アベル達を待っていたようだ。『待ってました』と言わんばかりの笑みを浮かべながら、バズは続ける。
「まずは、威力強化の方だ。弦を『キマイラの髭』に変え、弦のテンションを2倍に上げておいたぜ。ま、攻撃力が単純に2倍になったって考えていいぜ」
「2倍!? それはまた、すごいですねぇ! 楽しみです!!」
「キュウ!!」
ティナとラドが感嘆の声を上げる。だが一方のアベルは、腕を組んで思案顔だ。
攻撃力2倍。確かに、かなりの戦力向上だ。だが、それでも不十分ではないか、とアベルは感じていた。前回の戦闘では、《ストーム》のせいで、そもそもクロスボウの矢がワイバーンに届いていなかった。威力がたとえ2倍になっても、あの風の壁を貫くことは難しいのではないかというのが、アベルの見立てだ。
「へへ、アベル坊! 安心しな! ここからが本番だぜ!」
アベルをチラっと見ながら、バズはニヤっと不敵な笑みを浮かべる。
「単刀直入に言おう。《マジックアロー》をクロスボウにつけた」
シン、とその場が静まり返る。アベルもティナも、そしてラドも、みんなきょとんとしている。マジックアローって、何? みんな、そんな顔だ。
「なんだよ。お前ら、魔石についてはトーシロか!? さては、『黄の魔石』が何者かも知れねーんだろ?」
ジロッとアベルをにらむように見つめるバズ。アベルはバツが悪そうな笑みを浮かべている。
「ハハ、おっしゃる通りです。この機会に、魔石の色について教えてもらえませんか?」
「へ、しょうがねーな」
一回咳払いをした後、バズが説明を始める。
「魔石には、赤、黄、黒、白の4つの種類があるんだ。そして、それぞれに役割がある。『赤』は生き物に関与する魔石で、スキル持ちの魔物が良く落とす。『黄』は物質に関与する魔石だ。これが一番良く見かけるかな。『黒』と『白』はレアものでな。『黒』は空間に関与し、『白』は精神に関与すると言われている。特に『白』は超レアで、歴史上ほとんど現れたことがない」
アベル、ティナ、ラドはフンフンとバズの言葉に耳を傾けている。
「で、魔石工の仕事ってのは、各色の魔石の特徴を踏まえ、武器や防具にその性質を憑依させることなんだ。で、キマイラの魔石は黄色、物質に関与する魔石だ。そこで、マジックアローって選択をしたわけだ」
「えっと、その、マジックアローってなんですか?」
ティナが少し聞きづらそうに質問をする。
「《マジックアロー》ってのは、スキルの名称だ。効果は、魔力を物質化して、矢を生成する。つまり、魔力が続く限り、矢を連射できるぜ。嬢ちゃんにおあつらえ向きのスキルだろ?」
「わ!! それ、すっごいですねー!」
「キュウ!」
ティナとラドがピョンピョン飛び跳ね、嬉しそうにしている。一方のアベルは、またも思案顔だ。魔力の矢。スキル・《マジックアロー》。もしかしたら、今アベル達に一番必要なモノがコレなのかもしれない。
「あの、バズさん。《マジックアロー》って、もしかして、《ストーム》を突き破れたりします?」
アベルの言葉に、バズは指をパチンッ! と強く鳴らす。
「さすが、アベル坊だぜ! その通りだ! 《マジックアロー》は魔力の矢。《ストーム》みたいな風の妨害は受けないぜ。な? 対ワイバーンに最適なスキルだろ?」
「はい! さすがバズさんです! あと、魔力が上がれば威力も上がったりしますか?」
「ああ。もちろんだ」
バズの返答に、ティナとアベルはニヤッと笑う。《マジックアロー》はスキルで、魔力が上がれば威力も上がる。対ワイバーンの切り札となる情報だ。
「ありがとうございます! これで、ワイバーンの方は何とかなりそうです! あとは、どうやって峡谷を降りるかなんですが……」
ワイバーンと戦うには、実はもう一つ課題がある。ワイバーンの巣はカルディア平原・大峡谷にあるが、そこに辿り着く手段がないのだ。谷の深さは2000メートルにも及び、ほぼ垂直の断崖絶壁だ。パーティーにはティナとラドがいるので、崖をロープなどで降りるのは出来れば避けたいところだ。
「そこで、コレって役に立ったりしませんか?」
アベルは、懐から黒い魔石を取り出し、バズに見せる。
「お!! 黒魔石じゃねーか! 珍しーな! どうやって手に入れた?」
「ギルダさんがお礼にくれたんです。黒魔石は『空間に関与する』ってさっきバズさんが言ってたので、もしかしたらって思って……」
バズは、黒魔石を手に取り、ジーっと細部まで入念に見渡す。
「ふむ。こりゃー、フロートの黒魔石だな。これをもとに魔道具を作れば、装備した奴を宙に浮かせることが出来るぜ。だが、一人分しか作れないぜ。残念だが、これで峡谷を3人で降りるのはきついぜ」
バズは申し訳なさそうな表情を浮かべている。が、一方のアベルは何かを思いついたように、不敵な笑みを浮かべていた。
「アベル、これって……ラドがいれば何とかなるんじゃない!?」
ティナも同じように不敵な笑みを浮かべている。どうやら、アベルとティナは同じことを考えているようだ。その横で、ラドがモフモフの胸を張り、自信満々な表情を浮かべていた。
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