第21話 一方その頃、ゲイル達は~③
今回は、アベルを追放したゲイル達のその後のお話です。
~ゲイル編前回のあらすじ~
アベル殺人未遂の罪で裁判にかけられることになってしまったゲイル達。
アベルがいなくなってからダンジョン攻略も不調続き。
そこで、アベルに謝罪してパーティーに戻ってきてもおうと、カルディア平原に来たゲイル達であったが……?
「ぐわあぁああー!! 痛ってーーー!!!」
ゲイルの右足に刺すような痛みが走る。いや、実際に右足が刺されている。ナイフのようなミミックグラスの右手が、ゲイルの右足の甲に突き立てられているからだ。ミミックグラスは、草原の草に擬態して冒険者を襲うモンスターだ。ゲイルはミミックグラスに気付かず、不意打ちを食らってしまったのだ。
ゲイルは剣でミミックグラスを薙ぎ払う。右足からは、真っ赤な血が噴き出し、靴に赤いシミを作っている。
「ゲ、ゲイル、大丈夫!? 《ヒール》」
ヒーラーのアマンダが、回復魔法を詠唱する。ゲイルの右足に白い光が集まり、傷を少しずつ癒していく。だが、ゲイルは激痛に顔を歪め、うずくまっている。
「ぐぅぅぅぅ!! まだ、治らねーのか! 早くしろ! アマンダ!」
「せ、精一杯やってるよぉ! やっぱり、アベルくんの《魔力強化》がないと、調子出ないよぉ!」
「う、うるせぇ! これがお前の実力じゃねーか! くそ、お前がこんなポンコツだと知っていれば、アベルを追放なんてしなかったのに!」
「な! ひ、ひっどーい! そっちこそ、アベルくんがいないと、必殺技も撃てないヘナチョコ魔法剣士のくせに! ほら! 得意の《蒼の稲妻》、撃ってみなさいよぉ!」
二人が言い争いをする声が、カルディア平原にこだまする。戦闘中だというのに、ぎゃあぎゃあと罵りあう二人を差し置いて、魔導士のリサが敵に攻撃を仕掛ける。
「ファイアーボール!」
ボン! という音を立てて、直径30cmほどの火の玉がミミックグラスに襲い掛かる。火だるまになったミミックグラスは、10数秒間ゴロゴロとのたうち回ったあと、青白い光となって消滅した。
「な、なんとか倒せたけど……やっぱりアベルさんがいないと、ファイアーボールの威力がかなり弱くなるわね。Bランクのカルディア平原ですら、突破するのは難しいかも……」
リサが冷静に現況を分析する。そして、自らのパーティーの行く末を案じ、はあっと大きなため息をつくのだった。
ギルド長からの尋問を終え、アベルの殺人未遂容疑をかけられているゲイル達。彼らは今、アベルに謝罪し、パーティーに再び迎え入れようと、カルディア平原に来ている。先着している冒険者に尋ねたところ、アベル達は平原奥の高台に向かったとの情報を得た。アベル達を追いかけ、かつて難なく攻略したカルディア平原に意気揚々と入っていったのだが……
「お、俺たち、1年前にこの平原を踏破したはずだよな? 全然前に進める気がしない……」
パーティーの壁役、戦士フォルカスが弱音を吐く。実際、ゲイル達はカルディア平原の入り口から、500mも進めていない。にもかかわらず、敵と3回遭遇し、ファイアボール3発、ヒールを4回使っている。このペースだと、平原を半分も進む前にMPが尽きかねない。
「だ、だってぇ。モンスターの遭遇率が異常だよ? 前に踏破したときは、ほとんどモンスターなんて現れなかったじゃん!」
アマンダが目に涙を溜めながら愚痴をこぼす。
「恐らく、アベルさんの《索敵》とラドさんの《牽制》のおかげだったのね。当時は、誰かさんが『俺の英雄としての力を恐れて、モンスターが寄ってきもしねーぜ!』なんて宣ってたけど。本当に私たち、浅はかだったわ」
はぁっと再び大きなため息をしながら、冷めた目でゲイルをちらっと見るリサ。
「ぐっ!! ちょ、ちょっと調子乗ってただけだよ! 早くアベルに謝って、戻ってきてもらわねーと! オレら有罪どころか、モンスターの餌になっちまうぜ!」
ゲイルが昔を思い出し、少し赤面しながらそう言う。
「そ、そうは言うが、ゲイル。アベル殿に謝るどころか、会うのも一苦労だぞ。どうやってこの平原を抜けるつもりだ?」
「何言ってやがる。お前、盾役だろ?」
「ま、まさか……ひ!!」
ニヤリと悪魔のように笑うゲイル。その笑みを見て、フォルカスに戦慄が走る。《筋力強化》なき今、モンスターの攻撃を受けるのは、何の強化もされていない生身の体だ。モンスターが現れるたびに、足は刺され、腕は斬られる。その痛みは、アベルがいたときの何倍に及ぶだろうか。度重なる苦痛が、壁役のフォルカスの心をポッキリと折っていた。
「おら! フォルカス、先頭行けよ。一気に高台まで駆け抜けるぞ。なあに、せいぜい4kmくらいだ。30分も我慢すれば着く」
「フォルくん、回復はまかせてねぇ! 2回までなら、《ヒール》の連発はできるから! 敵さんもそんなに強くないから、死にはしないよぉ! 多分ねぇ」
「さあ行くわよ、フォルカス! あなたに攻撃を仕掛けた敵は、私がしっかりファイアーボールで火だるまにするわ。だから安心して、攻撃されなさい」
他の3人がフォルカスを掻き立てる。逃げ道は無い。意を決して、いやむしろヤケクソで、平原を突進していくフォルカス。
「く、う、うぉおおおお!! い、痛ってぇーー!! 痛ぇよぉー!!」
約30分間、草原には野太い男の叫び声が響き渡るのだった。
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次もゲイル回です!