第18話 『バズの武器屋』でクロスボウを改造
翌日早朝、日もまだ登りきらない時間。アベルとティナ、そしてラドはギルドの受付前に来ていた。ギルドの朝は早く、毎朝7時には開いている。
「おはようございます、アベルくん!」
「おはようございます、アンナさん。早速で申し訳ないんですが、討伐報告をお願いします」
受付はいつも通り、アンナだ。今日はこの後、『バズの武器屋』に行く予定がある。いつもならアンナと世間話を楽しむところだが、アベルは手早く要件のみを伝える。
「はい。ミミックウッド、ミミックロック、ミミックグラスの討伐ですね。えーっと、討伐は一匹あたり300ゴールド、上限が各種20体なので……はい! 1万8千ゴールドですね」
実際には186匹も討伐しているのだが、討伐依頼書には『上限各種20匹』と書いてある。20匹以上討伐しても報酬は支払われない仕組みだ。今後、ミミックウッドたちをいくら倒しても、もはや報酬はもらえない。
とはいえ、1万8千ゴールドは貴重だ。これからアベル達はティナのクロスボウの強化のため、武器屋に行く。そのための軍資金だ。
「ありがとう! アンナさん」
アベル達はそそくさと受付を離れ、依頼掲示板に向かう。カルディア平原付近の依頼は全部で2件あった。アベルは2枚の依頼書を手にすると、その場を後にする。
「じゃあ、行きましょっか! 『バズの武器屋』へ!!」
ティナが待ちきれないといった様子で、意気揚々と声を上げる。『バズの武器屋』は、城塞都市ウェストミンストの街はずれにある武器屋だ。店主のバズは王国内有数の腕を誇ると評判の鍛冶師兼魔石工だ。
「キュウ!」
ラドもアベルの右足の裾を咥え、早く早くと急かしてくる。先日、ティナのクロスボウを買いに行ったとき、店主のバズはラドをとても可愛がってくれた。ラドもとてもなついており、早くバズに会いたいようだ。
アベル達は、ウェストミンストの中央通りを東へ進んでいく。まだ朝の8時過ぎ。人通りはまばらだ。普段の大通りは露店であふれており活気があるが、今の時間帯は静かなものだ。
10分ほど歩くと、幅3メートルほどの小さな橋が見える。橋はレンガで作られており、素朴ながらも趣のある造りだ。ウェストミンストの東側は鍛冶屋や工房が並ぶ工業地帯であり、橋の下を流れる川によって中心部と分け隔てられている。
橋を渡り、100メートルほど進むと、『バズの武器屋』が見えてきた。レンガ造りの古びた工房。屋根には煙突があり、煙がモクモクと上がっている。入り口のドアをガチャッと開け、アベルは中に入っていく。
「こんにちは、バズさん」
アベルがそう言うと、店のカウンター内で腰かけていた男がスクッと立ち上がり、大きく手を振りながら答える。
「おーう、アベル坊、ラド、嬢ちゃん。いらっしゃい。クロスボウの調子はどうだい?」
ニカッと笑みを浮かべながら男は答える。金色の短髪に無精ひげ、太い眉毛に青い瞳。肩には白いタオルがかけられており、いかにも職人風な見た目だ。
ラドがバッと飛び出し、カウンターに乗り上げゴロゴロと鳴いている。バズに甘えているようだ。バズもラドに近寄り、顎の裏側を優しくなでている。
「お久しぶり、バズさん! クロスボウ、いーい感じですよぉ!! 早速、改造したくなって来ちゃいました!」
「お! 気に入ってもらえて嬉しいぜ! そのクロスボウはオレの自信作だからな。改造できるクロスボウを売ってる武器屋なんて、世界中探したって見つからねーよ!」
バズはそう言いながら、腕を組んでうんうんと頷いている。クロスボウの金額は6000ゴールド。他の武器よりもかなり割高だ。弓矢が1000ゴールド程度で買えることを考えると、その値段にはバズの自信が表れていた。
「で? どう改造したいんだ?」
「威力を上げるのと、連射数を増やしたいんです」
アベルが答える。すると、ピタッとバズが止まり、顎に手を当てて考え込む。
「威力を上げるのはすぐできるんだが……連射数か。ちょっと困ったな」
「どうかしたんですか?」
ティナがバズの顔を覗き込みながら、カウンターに手をついて問いかける。
「連射数を上げる改造には魔石が必要なんだが……ちょっと今、魔石が手に入らなくてな。《カルディア平原》にはワイバーンがいるだろ? どうやら奴ら、最近、平原横の通商ルートで馬車を襲ってるらしいんだ。で、魔石の輸入が滞っちまって、魔石工の方は休業中ってわけさ」
バズはお手上げといった様子で両手を上げ、目をつむりながら首を左右に振っている。アベルは少し考え込んだ後、口を開く。
「魔石って何でもいいんですか? 僕たちこれから《カルディア平原》に行くんですけど、魔石を見つけたら持って帰ってきましょうか?」
「アベル坊、いいのか!? いや、そうしてくれると助かる!」
「はい。《カルディア平原》にはキマイラがいますから。ちょうど狩ろうと思ってたところです。キマイラなら魔石を持ってるかもしれないし」
「ああ! キマイラの魔石なら一級品だ! メチャメチャ助かるぜ!」
バズは右手を前に突き出し、親指をグッと立てながらそう言う。
「ねえ、アベル。ワイバーンを倒すのが一番手っ取り早いんじゃないの!?」
ティナが疑問を口にする。
「うん。そうなんだけど、ワイバーンはちょっと特殊なんだ。今のままだと、倒すのは厳しいかな」
「ああ。俺もそう思うぜ。ワイバーンと戦うのは、クロスボウに連射機能を付けた後の方が良い」
アベルの意見に、バズも同意する。ティナも、二人が言うならと納得した様子だ。
「それで、クロスボウの威力アップの改造をはしていくか? 値段は5000ゴールドだ」
「はい。お願いします。あと、矢も15本貰います」
「はいよ。合計8000ゴールドだ」
バズは金を受け取ると、テキパキとクロスボウを改造していく。
「まずはリムの交換だ。軽量で強度の高いミスリル製のものに替えるぜ」
バズは、リムと呼ばれる弓の部分を交換する。弓の強度をあげ、弓力を高くすることで威力をアップさせるようだ。
「弦も強度の高いスチール製のものにするぜ。これで、威力は大分上がるはずだ。そうだ、坊主たちはキマイラを倒しに行くんだろ? キマイラのひげを持ってきてくれれば、もっと強い弓が作れるぜ。キマイラのひげは丈夫で、弦の素材として最適なんだ」
バズの話を聞いたティナとアベルは、ニンマリと笑う。今日の午後の予定はキマイラ狩りで決定だ。
お読みいただき、ありがとうございます。
次話は、キマイラ瞬殺の回です!