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第17話 ティナの新武器


「ねえ、アベル。そろそろ、わたしの新武器、試してみない?」


 ティナがアベルに語り掛ける。ずっと、ウズウズしていたのだろうか、彼女の声は弾んでいる。ティナは、背中に背負った武器を手に取る。その表情は、まるで玩具を与えられた子供のようにウキウキしていた。


「まさか、聖女の私が『クロスボウ』を使うことになるなんて、思いもしなかったわ。ヒーラーの武器は杖が一般的だもの」


 彼女の手にあるのは、木製のクロスボウ。ボウガンなんて呼称する者もいる、小型の弓だ。弦の長さは30センチ、矢は40センチほどしかない。重量も2キロほど。腕力のないティナでも軽々と扱える武器だ。


「うちのパーティーには、遠隔の物理攻撃役が必要だったからね」


 アベルの獲物は剣。空を飛ぶ敵とは相性が悪い。ラドの《フレイム》は遠隔攻撃が可能だが、火属性という欠点がある。火を無効化する敵には効果がない。火吹き鳥などの火属性の飛翔モンスターに襲われたら、アベル達には反撃手段がなかった。


「あと、ティナのヒールは効果がすごく高いから、杖はあまり必要ないんじゃないかなって思って」


 ヒーラーは通常、杖を使う。その理由は、杖を使うと《ヒール》の効果が高まるからだ。しかし、ティナは魔力が高く、杖に頼らずとも《ヒール》の効果は十分だ。


「うん、まあ、そうね。聖女のわたしには、ヒールの効果を底上げするメリットは少ないわね。前使ってた杖は、どちらかと言えば攻撃手段として持ってたし」


 杖は、魔力を込めて敵を殴ることで、攻撃手段にもなる。非力なヒーラーでも敵にダメージを与えられるのが特徴だ。ティナはこの点に着目し、ソロ冒険者の時は杖を武器として持っていたようだ。

 だが、アベルとラドが仲間になった今、接近戦の火力は十分だ。ティナが杖を武器として使うメリットはもはやほとんどない。そうであれば、ティナに遠隔攻撃用の武器を用意して戦闘に参加してもらおう、というのがアベルの判断だ。


「『遠隔攻撃役』って言うから、弓を使うものだとばかり思ってたわ」


「弓だと大きすぎて、ティナの機動力が削がれちゃうからね。ティナは大事な守りの要だから、いざと言う時はすぐに回避行動を取れるようにしとかないと」


 弓は威力が高いが、その分重く大きい。守りの要のティナが、武器が重くて敵の攻撃を回避できない状況は愚の骨頂だ。ティナの機動力を殺さず、物理攻撃手段を得るという点を考えると、クロスボウという選択肢が最適だったわけだ。


「キュウ!!!」


 ラドが突然、声を上げる。ピョンピョンと飛び跳ね、上空を見るようにアベルとティナを促す。アベルが上空に目をやると、空には2羽の鳥らしき影が見える。だが、鳥と言うには明らかに大きすぎる。全長2メートルはあろうかと言う怪鳥だ。


「あれは……ガルーダだね」


「ラド、教えてくれてありがとう!!」


「キュウ!!」


 ラドが嬉しそうにティナに駆け寄り、体をこすりつける。褒められて嬉しかったようだ。


「ちょうど良い獲物ね。クロスボウの威力を試すいい機会だわ。ガルーダさん、お気の毒に」


 ティナが物騒なことを言いながら、ガルーダに向けて矢の照準を合わせる。


ボシュボシュボシュ!!


 ティナが一匹のガルーダに向けて、クロスボウを3連射する。クロスボウは弓と違って、連射性能に優れるのが特徴だ。

 2発命中。ガルーダはヨロヨロとバランスを失って、墜落していく。どうやら、仕留めたようだ。


ギャア!!


 もう一匹のガルーダが、ティナに向けて急降下してくる。仲間を仕留められたことに怒っているようだ。すさまじいスピードでティナに近づいてくる。


「え!? ちょ、ちょっと待って! まだ、矢が……」


 ティナは慌てながら、次の矢を装填している。ティナのクロスボウは一度に3つまでしか矢を連射できない。矢を打ち尽くしたら、大きなスキができるという欠点があった。迫りくるガルーダ。ティナはもたもたしながらも、矢の装填をなんとか完了する。


ボシュボシュ!!


「間に合った! って、え!? きゃ!!」


 ティナは向かってくるガルーダに向かって、矢を2発放つ。一発は外れ、もう一発はガルーダの左足に命中。だが、致命傷にはなっておらず、そのままティナに襲い掛かってくる。ティナは軽い身のこなしで横っ飛び。ギリギリでガルーダの攻撃をかわす。


「く!! これで終わり!!」


ボシュ!


 ティナが振り向きざまに、最後の一発を放つ。見事胴体に直撃し、ガルーダはそのまま地面へと堕ちていった。


「ふう! あっぶなかったわねー!」


「いやいや、初めてにしてはお見事だよ! すごいよ、ティナ!」


 アベルが拍手をしながら、ティナの健闘を称える。横を見ると、ラドも見様見真似で手を叩いている。


「うん! なかなか使えそうな武器ね! でも、いくつか課題も見えたわね」


 ティナは嬉しそうな顔を浮かべた後、腕を組み言葉を続ける。


「最大連射数が3発ってのは少ないわね。矢の装填時はかなり大きなスキになるから、これは何とかしないと厳しいわ」


「そうだね。あと、威力の低さも課題だね。ガルーダ相手に一発で仕留められなかったから。大群で攻められたら対処できない」


 アベルもクロスボウの課題を上げる。


「そこで、『改造』の出番ってわけね」


 ティナはワクワクした様子で笑みを浮かべている。


――改造。クロスボウは、使用者の好みに応じて性能をアップグレードしたりカスタマイズできるという特徴がある。例えば、弦の上部にマガジンを設置することで連射数を増やしたり、照準スコープをつけて命中を上げたりできる。

 さらに、魔石を組み入れることで独自の機能を追加することも可能だ。例えば、追尾機能を付けるたりできる。


「そうだね。今日はこれで切り上げよっか。お金稼ぎも出来たし、ティナの武器の課題も分かった。明日は、ギルドで討伐報酬をもらった後、改造の相談に行こう」


「賛成!!」「キュウ!」


 アベル達3人は軽い足取りで帰路につく。カルディア平原の攻略一日目は、多くの収穫を得て終わったのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

次は、早速クロスボウの武器強化です!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖女の武器って杖とか拳とかなイメージだったから クロスボウは結構盲点。この面子だからこそか。 [気になる点] 消耗品であり結構嵩張るでアロウ矢をどれだけ持てるかだな。 [一言] すっかりテ…
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