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第16話 新連携スキル《ホーミングフレイム》

第二章・カルディア平原編の始まりです。第二章は全部で18話の予定です。


 アベル達の目の前には、のどかな風景が広がっている。見渡す限りの田畑。人影は少なく、家はまばら。行商ルートだからだろう、周りにモンスターの気配はない。

 畑に目をこらすと、主に小麦を作っているようだ。確か、マンチェストルの東側は小麦の一大産地と聞いたことがある。


 アベル達は今、乗り合い馬車に揺られている。東の《カルディア平原》はマンチェストルからやや離れていて、徒歩だと片道約5時間かかる。馬車を使えば約2時間まで短縮できるので、馬車移動が一般的だ。馬車は往復で500ゴールド。安くはないが、レッサードラゴンの討伐でお金を手に入れた2人にとっては、問題なく払える金額だ。


「あ! 見えてきたわね! あれが《カルディア平原》ね!」


「キュウ!!」


 ティナが馬車から身を乗り出し、右手を目の上にかざしながら大きな声を上げる。ラドも待ちくたびれたと言わんばかりにティナの左肩に飛び乗り、じーっと平原を見つめている。空は快晴。まぶしい光が馬車に差し込んでいる。


 ほどなくして、馬車が止まる。どうやら、終点のカルディア平原入り口に着いたようだ。馬車から降りる3人。


「へぇー、だだっ広い平原かと思ってたけど、ポツポツと大きな岩があるのね。木もまばらで、なかなかきれいな平原じゃない」


 カルディア平原は、ひざ下くらいまでの短い草原と、まばらに置かれた岩と立木で彩られている。岩は高さ1~2メートルほど。木には葉っぱは少なく、さながら枯れ木のような佇まいだ。


「うん、まあ、それが厄介なところなんだけどね」


 アベルの言葉の意味が分からず、首をかしげるティナ。


「気を付けてね。近くに()()かもしれないから」


「いるって、何が?」


 要領を得ないという様子で、ティナがキョトンとした表情を浮かべる。周囲を探索しようと思ったのだろうか、ティナは近くの岩へと近寄っていく。ティナが右手を岩にのせた瞬間、違和感に気付く。


「あれ!? なんか柔らかい……って、きゃ!!」


 急に岩が動き出し、地面から手足が突如として現れる。そして、鋭く研ぎ澄まされたナイフのような右手をティナに向けて振り下ろす。

 

「ティナ! 危ない!」


 とっさに、アベルがティナと動く岩との間に入り込み、岩の攻撃を剣で防ぐ。間一髪、ナイフのように鋭い岩の右手は、ティナに届くことはなかった。


キィン!!


 アベルは岩のモンスターを剣で押し退ける。


「キュウ!!」


 すかさずラドがモンスターに襲いかかる。鋭い爪でモンスターをなぎ払った後、《フレイム》で追い討ちをかける。無惨にも火だるまになった岩型のモンスターは1秒程悶え苦しんだ後、動かなくなる。絶命した岩型のモンスターは、細かい光の粒子となって消えていった。



「アベル!! 大丈夫!?」


 アベルが苦悶の表情を浮かべている。ティナを助ける際、左上腕部を負傷してしまった。アベルの左腕には30センチほどの切り傷があり、鮮血が流れ出ていた。


「《ヒール》」


 ティナがすかさず回復魔法を唱える。アベルの傷はみるみる塞がる。3秒ほどで元の無傷の状態に戻り、痛みもすべて消え去ってしまった。


「ごめん、油断してた。すぐに《索敵》を使うべきだった。回復、ありがとうね」


「こちらこそごめんなさい!! わたしの不注意だったわ! ……で、あの岩はなんなの!?」


「あれは、ミミックロックっていうモンスターなんだ。岩に擬態して、冒険者に襲いかかるんだ。ここには、そんな擬態モンスターが沢山いる」


「うわ。大変そー!」


 ティナが心底嫌そうな表情で、顔をしかめる。


「実際、きついよ。彼らを見てごらん」


 アベルは、100メートルほど先にいる4人パーティーの冒険者を指差す。周囲をかなり警戒しているようで一歩も動かず、立ち往生してしまっている。


「あの人たち、何で動かないの?」


「周りに擬態モンスターが沢山いるから、先に進めないんだ。厄介なことに、足元の草むらには、草に擬態したミミックグラスがうようよいるんだ。他にも、ミミックウッドは木に擬態しているし、さっき襲われたミミックロックもいる」


「うっ! それはキツいわね……でも、《カルディア平原》ってBランクダンジョンでしょ? 上位ランクのパーティーは、どうやって先に進んだの?」


 ティナが素朴な疑問を口にする。腕組をして頷きながら、アベルは答える。


「そのまんま、無理やり進むんだ。モンスターに襲われるの覚悟でね。襲われては回復し、襲われては回復し、その繰り返し。《ヒーラー泣かせの平原》って別名もあるくらい」


「た、確かにそれは大変ね」


「例外的な方法だと、《索敵》で敵を避けて進むっていうのもあるかな。《蒼の集い》はそうやってここを踏破したよ。ま、ゲイルは『英雄のオレを恐れてモンスターも襲ってこねぇ!!』って言ってたけど」


 ティナがタハハ、と呆れたような表情を浮かべる。


「それで、わたしたちパーティーはどうするんでしたっけ? リーダーさん」


 ティナが茶化したような口調で、アベルに問いかける。アベルが試したいと言っていた連携スキル。それをティナは期待しているようだ。よく見ると、ニヤッといたずらっぽい笑みを浮かべているティナ。


「それじゃ、試そうか。《索敵》」


 アベルがスキル《索敵》を発動する。目をつむり、辺りのモンスターの気配に神経を研ぎ澄ます。


「1、2、3…8。結構いるね。半径50メートル以内に、8匹もモンスターがいるよ」


「ふんふん。で? どーするんでしたっけ?」


 質問の体裁をとってはいるが、アベルが何をやるか楽しみで仕方がない様子のティナ。早く早く、と言外にアベルを急かしている。


「じゃあ、ラド。《フレイム》をお願い」


「キュウ!!」


 ラドが気合十分な様子で答えた瞬間、ラドの身体が白く輝く。これは、《連携スキル》が発動したときの合図だ。


ゴオォォォ!!!


 少し体を震わせた後、ラドが自身の上方に大きな火炎を放つ。ラドの口から勢いよく放出された火の玉は、ラドの上空5メートル程度の高さで四方に分散する。その数、8。ちょうど、《索敵》で確認したモンスターの数と同じだ。


ドドドドドドドド!!!!


 分裂した火の玉は、勢いよく加速し、地面に叩きつけられていく。火の玉の先にいたのは、ミミックロック3匹、ミミックウッド1匹、ミミックグラス4匹。火の玉に襲われた彼らは一瞬で焼き尽くされ、光の粒となって消えていった。


――《索敵》の効果により、《フレイム》に自動追尾機能が付与されました

――連携スキル《ホーミングフレイム》を獲得しました


「やった! 狙い通り!」


「へぇー! すっごい便利そうなスキルね! 経験値とお金稼ぎに大活躍じゃない!!」


 ティナはそう言いながら、手元に持っている討伐依頼書を見つめてニンマリしている。


――――

擬態モンスター討伐依頼書(ランクC)

討伐対象:ミミックロック、ミミックグラス、ミミックウッド(上限各20匹)

生息場所:ダンジョン《カルディア平原》

  報酬:300ゴールド

――――


 その後、アベル達は平原を闊歩しながら《ホーミングフレイム》を連発するのであった。たった2時間で、擬態モンスターを合計186匹も討伐する戦果。次に魔石を手に入れた時、アベルとティナはどれほどレベルアップすることができるのだろうか。今から楽しみで仕方がないアベルであった。




お読みいただき、ありがとうございます。

次は、ティナの新武器のお披露目です!



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギルドの依頼達成報酬が安すぎる気が するねぇ それか、馬車の往復代が高すぎるのか バランスがとれてないね
[一言] しっかりともふもふ、いやラドも活躍。 もうここまでの事が出来るようになってたのね。
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