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第15話 一方その頃、ゲイル達は~②


「クッソー!! なんで俺がこんな目に!!」


 夜の酒場。酒をあおりながら、一人の若い男が大声で愚痴を言う。男の名は、ゲイル。かつて『王国の剣』と評された英雄だ。だが、今ここにいる男には、英雄の威厳は微塵もない。ただ飲んだくれて上司の愚痴を言うような、どこにでもいるつまらない男にしか見えない。


「ちょっとゲイル!! 飲みすぎよ!」


 隣に座る魔導士・リサがゲイルをいさめる。そんなことを言う彼女も、頬は赤く、目は座っている。相当酒を飲んでいるのだろう。


「でも、飲まなきゃやってられないよぉ! 2ランク降格処分でしょぉ? やっとSランクになったと思ったのに、いきなりBランクって……」


 テーブルに顎をのせ、傾けたコップのふちに口をつけながら、ヒーラーのアマンダも愚痴をこぼす。


「ああ、ほんとだよ。しかも、殺人未遂容疑で調査中、か。なんでこんなことになったんだろうなぁ……」


 戦士・フォルカスが机に顔を突っ伏しながら弱弱しく語りだす。普段の屈強な雰囲気は微塵も感じられない。


 ギルドからの事情聴取は、ゲイル達にとって最悪の結果になってしまった。


 まずは、アベル死亡の虚偽報告に関して。この件に対するギルドの裁定は、《蒼の集い》の2ランク降格という、前代未聞の重い処分となった。

 ギルドへの虚偽報告は大罪だ。誤った情報はギルドを間違った方向に動かし、多くの冒険者を危険にさらしかねない。不注意で誤った情報をギルドに報告しただけで、処分対象となる。にもかかわらず、ゲイル達の報告は、意図的に誤った情報をギルドに報告したと判断された。ゲイルはその理由をギルドマスターに問い詰めたところ、多岐に渡る状況証拠を提示されてしまった。

・アベルの生死を確認せずに、報告書を提出したこと

・報告書に記された事の顛末と、アベルの証言が一致しないこと

・「ゲイル達が虚偽の報告を行った」ことを示唆する多数の証言が寄せられていること

これだけの状況証拠だ。反論は不可能に近かった。特に、酒場でアベルと一悶着を起こした件が致命的だった。酒場には多くの冒険者がいたため、有力な証言が多数集まってしまったのだ。

 ゲイルもただでは引き下がらず、今までの功績を訴えて、裁定の減免を要求した。だが、『最近の戦績はすこぶる悪く、Bランク降格はパーティーの実力から考えても妥当』と反論されてしまった。


 さらに、ゲイル達は殺害未遂の容疑でギルドから公式に調査されることが決定してしまった。『ゲイル達がアベルを殺害しようとした』との訴えがギルドに寄せられているとのことだ。訴えを起こしたのは、恐らく受付のアンナだろう。酒場にいた冒険者からも証言は上がっているかもしれない。

 ギルドとしては、『虚偽報告』に関してゲイル達が合理的な理由を説明できれば、殺人容疑の訴えを退けるという思惑だったようだ。だが、ゲイル達は虚偽報告に対して有効な反論を示すことが出来なかった。そのため、『殺害未遂容疑』の信憑性も高いと判断されてしまい、正式に立件されることになってしまった。調査期間を経て、約一か月後に裁判が開かれる予定だ。


「はあ、どうしよぉ。アベルくん、きっと裁判で殺されかけたことを証言しちゃうよぉ。もうおしまいだよぉ……」


 アマンダがテーブルに顔を伏せながら、泣き言をいう。いつの間にか、アベルは『くん付け』に格上げされている。


「こうなったら、アベルさんに謝りに行くしかないんじゃない? 許してもらって、パーティーに戻ってきてもらえば、全部解決よ」


 リサがボソッと語りだす。一瞬、ゲイル達のテーブルが静まり返る。


「そ、そうだよ! アベルくん優しいから、誠心誠意謝れば許してくれるかも! そうすれば、『殺人未遂容疑』もきっと取り下げてくれるよ!」


 アマンダがパッ顔を上げ、リサに同意する。


「そ、そうだな!! それに、アベル殿()がいれば、俺の筋力もまたかつての力強さを取り戻す! そうすれば、すぐにSランクにだって返り咲けるぞ!!」


 フォルカスがフンッと鼻息荒く二人に同意する。


「ああ、アベルさん。どうか愚かな私たちをお許しください。私たち《蒼の集い》には、あなたが必要なのです」


 リサが目をつぶり、胸の前で手を組みながらそんなことを言う。アベルはつい数日前まで、パーティーのお荷物とみなされ、仲間全員から見下された存在だった。それが今や、尊敬・礼賛され、頭を下げてでも戻って来て欲しい存在になっている。評価の爆上げも甚だしい。


バン!!


 突然、ゲイルが机を強く叩き、立ち上がる。場に訪れる静寂。リサ達は、『まずった』と言った表情を浮かべている。ゲイルがアベルを特に敵視していたことは、メンバーの全員が知っている。さすがに、ゲイルの前でアベルを褒めたたえすぎたか。メンバー達は皆、ゲイルの様子を恐る恐る伺っている。

 ゲイルの表情は、アベルを賞賛するメンバーへの怒りに満ちて……などいなかった。ニコッと満面の笑みを浮かべながら、ゲイルが言う。


「そうだよ!! アベルは、俺の親友なんだ!! 俺が旅立った時も、『心配だから』って言って俺についてきてくれたんだ!! 俺が誠心誠意謝れば、きっと戻ってきてくれるさ! そうすれば、《蒼の集い》完全復活だ!」


 ゲイルがそう言うや否や、4人は、『うおぉぉ!!』と雄たけびを上げる。《蒼の集い》メンバー皆の心が一つになった瞬間だ。


「そうと決まれば、アベルに会いに行くぞ! あいつは今、どこにいる?」


「アベルさんは昨日、東のカルディア平原に向かったみたいよ。今行きましょう! すぐ行きましょう!」


 リサの言葉を皮切りに、4人が一斉に酒場を飛び出す。


『謝ればきっと、アベルは戻ってきてくれる』


 ゲイル達はこの思いを胸に、東のカルディア平原へ向けて旅立っていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回から、カルディア平原編、始まります!

またアベル視点に戻ります。


~武井からのお願いです~


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― 新着の感想 ―
[一言] ゲイルたち…… お前らだったら殺されかけた相手に謝られても仲間になんかしないだろうに… 頭が弱いのぉ…
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