第14話 一方その頃、ゲイル達は~①
今回のお話は、前半アベル視点、途中からゲイル視点となります。
「あ! これ、美味しいわね!!」
目の前のパンケーキを口に運びながら、ティナは頬に右手を当ててニッコリと笑う。
「ふわふわの生地にあまーいクリーム。温かい生地でクリームが少しだけ溶けて、なめらかな舌触りが最高ね。それに、ベリーのソースの酸味が少し効いてて、良いアクセントになってるわ! このカフェは再訪決定!」
まるで食レポのような物言いに、アベルは少し苦笑いを浮かべる。
アベルとラド、ティナの3人は今、街の大通りにほど近いカフェでくつろいでいる。Cランク冒険者へと昇格した翌日、3人は街でショッピングだ。
ショッピングとはいっても、服や装飾品を買うといった類のものではない。目的は、ティナの武器の新調。何件か武器屋を回った後、少し疲れた3人は最近人気のカフェで束の間の休憩を楽しんでいた。
「そう言えば、少し気になってたんだけど……アベルの元パーティーって、《蒼の集い》って名前だったわよね?」
唐突に、ティナが切り出す。
「アベルが《魔力強化》を詠唱したとき、私とラドがボヤっと蒼く輝いていたのを思い出したの。それで思ったんだけど、もしかして……」
「うん。《蒼の集い》の『蒼』は、僕の強化魔法のことだと思うよ。メンバー全員が蒼く輝いてるから、《蒼の集い》。僕は常時、パーティー全員に《筋力強化》と《魔力強化》をかけてたから」
「やっぱり! でも、アベルってゲイル達から追放されたんだよね!? なんで……」
ティナが疑問の声を上げる。
「知らない。多分、蒼く光るのは俺の英雄としての実力だ! ってゲイルは思ってたんじゃない? メンバーは皆、僕のスキルの効果を信じてなかったみたいだし」
拗ねたような、呆れたような表情をアベルは浮かべている。
「はあ……ゲイル達はバカなことをしたものね。アベルを追放するなんて……今頃どうしていることやら……」
ティナは再び、パンケーキを頬張り始める。ラドはアベルを少し心配そうな目で見つめた後、ふわふわの毛をアベルの右腕に押し付けてくる。
アベルはと言うと、ふと天井を見上げ、かつての仲間について考えていた。追放されたことに関しては納得していないし、殺されそうになったことに怒りを感じる。理不尽にアベルを追放した彼らは、今どうしているのだろうか。アベルは彼らに思いを馳せる。
~~そのころ、ゲイル達は~~
◇◆◇◆
かつて王国の英雄とうたわれた魔法剣士・ゲイル。彼は今、Aランクダンジョン《ミレイジュの塔》にいた。1F、塔の入り口から入ってすぐの広間。ゲイル達《蒼の集い》の目の前には、オーガが一体大きな唸り声をあげている。
オーガは筋肉質な人型のモンスターで、小技はなく知能も低い。強靭な肉体が特徴のパワー型モンスターだ。肉体が強靭とはいっても、所詮はBランク。Sランクパーティーである《蒼の集い》にとっては、取るに足らない雑魚モンスター……のはずであった。
オーガが右手に持つこん棒でゲイル達に殴りかかってくる。すかさず、パーティーの盾役のフォルカスが前に出る。直径1メートルほどもある大盾でオーガの攻撃を受けるフォルカス。ガィン!! という大きな音がダンジョン内に響く。
「ぐおぉ!」
フォルカスがオーガのパワーに耐えきれず、あっけなく吹き飛ばされる。おかしい。こんなはずはない。オーガ如きの攻撃では、『王国の盾』と称されるフォルカスはビクともしなかったはずだ。……ほんの数日前までは。
「フォルカス! 何やってんだ、お前は!」
ゲイルの怒声が飛ぶ。オーガの攻撃で5メートルほど吹き飛ばされたフォルカスは、立ち上がることができない。盾を持つ右手をおさえ、プルプルと震え悶え苦しんでいる。
「くそ! アマンダ、ヒールだ!」
「え!? さ、さっき、ゲイルに《ヒール》したばかりだよ!?」
「は!? お前、ヒールの連発が得意だっただろ! いいからやれ!」
「む、無理だよぉ! これ以上ヒール唱えたら、死んじゃうよぉ!」
ヒーラーはヒールの連発が難しい。それは、限界を超えてヒールを詠唱し続けると、ヒーラー自身の体力が減っていくからだ。アマンダはもう限界を迎え、ヒールを詠唱できないようだ。
ゲイルの苛立ちは募る。こんなはずはない。アマンダは、『王国の奇跡』。連発が難しい《ヒール》を、軽く30連発は詠唱する奇跡のヒーラーだったはずだ。……ほんの、数日前までは。
「くそ! リサ!! 《蒼き稲妻》だ! 行くぞ!」
「OK! 《ライトニング》」
リサが雷系の上級魔法を詠唱する。リサの手元より放たれた稲妻は、ゲイルの剣に向けて集約され、魔力が剣に蓄積されていく。剣の周りで多数のスパークが発生し、バチバチと音を鳴らしている。
――《魔法剣》。これが魔法剣士・ゲイルのスキルだ。自らの剣に魔法を蓄積させ、攻撃力を上昇させることができる。
特に、リサのライトニングを使う魔法剣は、《蒼き稲妻》と呼ばれ、パーティーで最大火力を誇る攻撃技だ。蒼いスパークをまとう斬撃は、あらゆるものを一刀両断するゲイルの奥義……のはずであった。
「なんで!! 蒼くねーんだよぉぉ!!」
ゲイルが、自らの剣を見て大声を上げる。剣がまとう稲妻のスパークは、黄色だった。そしてその電撃は、普段より数段弱弱しい。こんなことはあり得ない。今までは、蒼く鋭い稲妻が剣に宿っていたはずだ。……なんで、こんなことに。
「くっそー!!!」
半ばやけくそ気味に、ゲイルがオーガに突進していく。ザン!! と小気味良い音とともに、魔法剣がオーガの体を切り裂く。しかしながら、ゲイルの斬撃はオーガの皮膚の表面を少し焼いただけで、大したダメージを与えることは出来なかった。
ニヤっと笑うオーガ。凍りつき、怯えるゲイル。
「に、逃げるぞ!!」
負傷したフォルカスを担ぎ、ゲイル達はたった一匹のオーガから一目散に逃げ出していった。
何とかオーガを振り切り、4人は塔の外へ出ることに成功する。バタンと塔の入り口の扉を閉め、ひと呼吸付く。塔の外にさえ出れば、強いモンスターは出現しない。
不意に、アマンダが語りだす。
「ね、ねえ! やっぱり、アベルに戻って来てもらおうよ! アベルがいなくなってから、ウチら全然ダメじゃん! やっぱりアイツの言ってたこと、本当だったんだよぉ」
リサもアマンダに同意する。
「私も、そう思うわ。アベルさんがいなくなってから、パーティー全員のパフォーマンスがガクッと落ちてる。それに、モンスターとの遭遇頻度も格段に増えてるわ。彼に謝って、パーティーに戻ってきてもらった方が良いと思う」
一方のゲイルは、二人の意見に不満顔だ。
「オレがアイツに頭を下げる!? そんなこと出来るかぁ! ちょっと調子が悪いだけだ! 俺たちは、王国最強の《蒼の集い》なんだぞ!」
ゲイルはそう言い、チッと舌打ちをしながら、しかめっ面をしている。長い沈黙。その後、4人は無言でスタスタと歩き始め、街へと帰っていった。
◇◆◇◆
その日の午後、ゲイル達はギルドに来ていた。受付のアンナから呼び出しがあったためだ。ゲイルはギルドの入り口の扉に手をかけ、ギィっと扉を開ける。
ギルドのロビーにいた冒険達が、一斉に振り返る。ギルドに入ってきたのがゲイル達と気付くや否や、陰口をたたき始める。
「あいつら、《蒼の集い》じゃね? 最近落ちぶれてるっていう」
「なんでも、Sランクダンジョンで全然歯が立たなくて、最近ではAランクダンジョンに出入りしてるらしいぜ」
「オーガ相手に逃げ出してたのを見たって噂もあるぞ」
「まじで? オーガってBランクだろ?」
「前に奴らを見たときは、メンバー全員がポウッと蒼く光ってて、威圧感があったんだけどなぁ」
「あれ? ほんとだ。今のあいつら、蒼くないじゃん。それに、全然強そうじゃない」
「はー。落ちぶれたもんだな。あれじゃ、《ただの集い》だぜ」
「ぶっ! お前、上手いな! 悪口の才能あるぜ」
冒険者たちの陰口にイラつきながら、ゲイルは聞こえないふりをして1F奥にある受付へと歩いていく。ゲイルの目の前には、受付嬢のアンナがいる。
「おい、アンナ。急に呼びつけておいて、何の用だ? 俺たちは忙しいんだが」
ゲイルは不機嫌な顔を隠そうともせず、そう言い放つ。一方のアンナも、ゲイルの横柄な態度にイラッときているようだ。ひきつった笑顔を浮かべながら、口を開く。
「ゲイルさん、ギルドマスターから事情聴取の要請がきています。この後、すぐにギルド4Fの会議室に向かってください」
「なんだと!? 俺たちが事情聴取!? しかも、ギルマスから直接!?」
ゲイルが怒声のような声を上げる。一方のアンナは、笑顔を崩さず説明を続ける。
「聴取の内容は、アベルさん死亡の虚偽報告の件です。ギルドは、今回の件をかなり重く見ています。言動には気を付けた方がいいですよ」
「な!! あ、あれはただの勘違いで……」
ゲイルは額に冷や汗をかきながら、弁明しようとする。アンナは、ゲイルの言葉を遮り、強い口調で付け加える。
「ああ! それと、ゲイルさん達には、殺人未遂の容疑もかけられています。アベルさんからの報告や、酒場での目撃証言を私が徹底的に調べ上げて、詳細な報告書をギルマスには提出済みですので。下手な言い逃れはムダですよ」
アンナのにこやかな笑顔を見ながら、カタカタと膝が震えるゲイルであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、もう一回ゲイルざまぁ回です!またコミカルな感じです。