第12話 更なるチート、連携スキル《経験値10倍》
「それじゃ、早く見せて! アベルとラドのレベルアップ!」
ティナがワクワクした表情でアベルに魔石を渡す。ティナから魔石を受け取り、アベルはラドに近づいていく。ふと、理の地下神殿での出来事を思い出すアベル。あのとき、確か――
「《ソウルイーター》、だっけ」
アベルが不意に、ぽつりと語りだす。
「え!? なになに? なにそれ?」
ティナが素っ頓狂な声を上げる。
「確か、スキル・《ソウルイーター》って声が、頭の中に響いたんだ。以前、ラドに魔石を与えた時」
アベルは腕を組み、考え込む。あの時、突如頭の中に響いた声は、確かにスキルと言っていた。と、言うことは――
「《魔力強化》」
アベルが、《魔力強化》を詠唱する。ラドの身体が、ポウッとした薄い蒼色に包まれる。
「? なんで今、スキルを使ったの!?」
「連携スキルが発動しないかなって思ってさ。僕のレベルアップは、ラドのスキル《ソウルイーター》のおかげみたいなんだ。ってことは、僕が《魔力強化》をラドにかければ、もしかしたら……」
「キュウ!!」
ラドが興奮した目でアベルを見てくる。尻尾をピンと立て、アベルの足元に身体を擦り付けてくる。ラドはいつにもまして上機嫌。ということは。アベルは確信する。
「はい、ラド。魔石をあげるよ」
魔石が宙に浮き、ラドの額に吸い込まれていく。その瞬間、ラドの身体が強く白い光に包まれる。《ウォール》の時と同じ。連携スキルが発動した合図だ。
――幻獣・ラドは魔石を吸収しました。ラドのスキル、《ソウルイーター》が発動します
――《魔力強化》と《ソウルイーター》が連携。《ソウルイーター》が強化されます
――連携スキル、《経験値10倍》が発動します
――《経験値10倍》の効果により、ラドに貯蓄された経験値が10倍になってアベルとティナに還元されます。
――アベルのレベルが52に上がりました。
――ティナのレベルが46に上がりました。
――《経験値10倍》の効果により、幻獣・ラドのステータスが大幅に上昇しました。
――幻獣使いの能力により、幻獣・ラドのステータスがアベルに還元されます。アベルのステータスが大幅に上昇しました。
「「え!?」」
アベルとティナの呆けた声が響く。目を見合わせる二人。
「け、経験値10倍!? さすがに、それはズルすぎるんじゃ……」
「わ、わたしまでレベルが上がるの!? それに、レベル46って……さっきまで、レベル25だったのに……」
「キュゥ!!」
呆然とする二人。ちょこんと座り、前足をピンと伸ばしながらラドが誇らしげに胸を張る。とても可愛らしい姿だが、やったことは至極えげつない。このパーティーの中で、一番の規格外は、どうやらラドのようだ。
「あら? まだラドが白く光ってない?」
ティナがそう言うや否や、聞きなれた声が3人の頭の中に響く。
――魔石「レッサードラゴン」を吸収した効果により、ラドはスキル・《フレイム》を覚えました
「「え!?」」
またもや、呆れる2人。
「ラドがフレイム、使えるようになっちゃった……」
「魔石を吸収すると、ラドが新たにスキルを覚えることがあるみたいだね。す、すごいな、ラド」
「キュゥ!!」
またもや、得意げに胸を張るラド。調子にのって、早くも「カッ、カッ」と小さな炎を吹いている。前言撤回。パーティーで一番のバケモノは、ラドのようだ。
「それで、ティナはこれからどうするの?」
「Sランクを目指すわ。欲しいアイテムがあるから。それで……」
アベルの方をジーッと見つめながら、ティナが言葉に詰まる。代わりに、アベルが口を開く。
「ティナ。僕達と正式にパーティーを組んでくれない? 一緒に冒険、したいんだ」
パアッと嬉しそうな表情を浮かべ、ティナが弾んだ声をあげる。
「ええ! こちらこそお願い。ねぇ、ラド。あなたもわたしと一緒でいーい?」
優し気な笑みを浮かべながら、ラドの目をジーっと見ながらティナが言う。
「キュウ!!」
当然!と言わんばかりに、ラドが元気よく鳴く。これで、パーティーの結成だ。
「リーダーは、アベルがいいわね。攻撃も援護もできる万能型。戦闘の指示は的確だったし、モンスターやダンジョンの知識も豊富。索敵もできるし、パーティーの統制を取るのに適任ね」
ラドがコクコクとうなずいている。
「ティナは後衛。防御と回復担当だね。いざと言う時のパーティーの要。そしてラドは攻撃役だね。《フレイム》での広域攻撃も可能なパーティーの最大火力。とてもバランスのいいパーティーになりそうだ」
「それじゃ、今日からこの3人は仲間ね。よろしく。アベル、ラド!」
――『仲間』。その言葉に、アベルの表情が一瞬、固まる。どこか、新鮮な言葉。ゲイル達との冒険では、一度も感じたことのない感情。アベルは今、唐突に気付いた。自分が、ラドと同じようにティナを信頼しているのだということに。そして、『仲間』と言われ、嬉しい気持ちが溢れてくる自分に。泣きそうな感情を抑えながら、アベルが言葉を絞り出す。
「よろしく。ティナ」