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第97話 最終決戦・その2


 アベルとティナの前に立ちはだかるのは、『輪廻の理』。顔は人間のようだが、頭には角が2本、口には牙。貴族風の服装に黒いローブを羽織り、貴族のような見た目。そして、背中から生える黒い羽根。王宮で見た姿そのままだ。


 だが、『輪廻の理』が発する魔力は以前と比較にならないほどに強い。謁見の間で、アベル達が全く歯がたたなかったあの時から、さらにだ。


 アベルは剣を構え、真っすぐに『輪廻の理』を見つめる。だが、恐怖は一切感じない。ラドが、ティナがいるからだ。3人で闘えば、必ず『輪廻の理』に勝てる。アベルはそう、確信していた。


 『輪廻の理』が不意にニヤッと気味の悪い笑みを浮かべる。何か、嫌な予感がする。おもむろに、右手に持つ本を開く『輪廻の理』。あの構えは――


ヴン!!


「きゃ!!」


 ティナの足元に、突如として魔法陣が出現する。その瞬間、ティナが地面に両手を付く。謁見の間で『輪廻の理』が使った、相手を行動不能にするスキルだ。


「ティナ!」


 アベルの言葉に、ティナが振り返る。少しつらそうな表情の中に、不敵な笑みを浮かべている。その瞬間、ティナがかけた補助呪文・《プロテクション》、《ウォール》、《ヒールウィンド》が消失する。


 アベルはティナの意図を即座に理解し、ニコッと微笑み返す。アベルとティナが出会ってから4か月。ずっと育んできたチームワーク。今なら、言葉を交わさずに相手の意図を理解できる。


 今、アベルがすべきこと。それは、()()()の時間を稼ぎ、ティナの行動不能を解除すること。そのための作戦を、アベルは頭をフル回転させて考える。


「よし! 《ホーミング・フレイム》だ!」


 アベルが連携スキル・《ホーミング・フレイム》を詠唱する。30発の火炎球同時に発動する。


 おびただしい数の火炎球が『輪廻の理』に向かって飛んでいく。ひとつひとつの威力は弱いが、流石に30発もの火炎球となると、無防備で受け止めるわけにはいかない。苛立った表情を浮かべながら、『輪廻の理』は回避行動をとる。


 だが、《ホーミング・フレイム》は相手を自動追尾する火炎球。避けても避けても火炎球は『輪廻の理』に襲い掛かっていく。驚きの表情を浮かべる『輪廻の理』。左手の剣一本で数多の火球を打ち落としていく。防戦一方の『輪廻の理』。


「《縮地斬》!」


ザン!


 アベルの刃が、『輪廻の理』の右腕を襲う。『輪廻の理』は顔をしかめ、苦しそうな表情を浮かべる。ラドの魔石のおかげで、アベルの攻撃力は格段に向上しているようだ。謁見の間での闘いではキズ一つ付けられなかったが、今回はちゃんとダメージが通る。


 その後も、アベルは《ホーミング・フレイム》と《縮地斬》の連携で『輪廻の理』を攻め立てる。少しずつ体力が削られていき、『輪廻の理』の顔には焦りと苛立ちの色が見える。


 しびれを切らした『輪廻の理』が右手に持つ本を一度閉じ、別のページを開く。その瞬間、ティナの足元から魔法陣が消え失せる。地面にへたり込みながら、安堵の表情を浮かべるティナ。


 『輪廻の理』が何かの呪文を唱え始める。すると、その体が赤く禍々しい光に覆われる。


「く!! なんだ、あれは!?」


 アベルの背筋に悪寒が走る。突如現れた赤い光には、凄まじい魔力が結集している。アベルが放った《ホーミング・フレイム》が、その赤い光の層に触れた瞬間次々と消滅していく。


 そして、その魔力は『輪廻の理』の右手に凝縮されていく。アベル達に向けて、極大の攻撃魔法を放つつもりのようだ。ニタニタと妖しい笑みを浮かべる『輪廻の理』。まるで勝利を確信したかのような表情。


「準備が整っているのはこっちも同じだ。ティナ!」


「了解!」


 ティナが床からパッと起き上がり、アベルに向かって声を上げる。行動不能にされた瞬間、ティナが詠唱を開始した《パワーショット》。ちょうど5秒が経過し、発動準備完了だ。


 クロスボウに集まった大量の魔力を使い、ティナが巨大な魔法の矢を形成する。クロスボウを『輪廻の理』に向け、まさに矢を放とうとした瞬間だった。不意に、聞きなれた声がその場に響く。


――パワーショットだけじゃだめだ。アベル、ティナ。僕の力も使って。全部の魔力をアベルに託すから。最後まで、3人一緒だよ


 アベルとティナが驚きの表情を浮かべる。


「この声……まさか!?」


「ラドだ……」


 白い光の中で聞いたのと同じ声。アベルが間違うはずもない。ラドの声だ。


「――そうね。最後は、3人一緒に力をあわせて。それが、私たちの戦い方よね。アベル、私たちの魔力、全部あなたに託すわ」


 ティナが、魔剣・デュランダルにクロスボウを近づける。クロスボウに集まった全魔力がアベルの魔剣に流れ込んでいく。刀身がまばゆい輝きを放つ。


 次の瞬間、魔剣・デュランダルの柄にはめられた魔石から、白い光が放たれる。目も開けられない程凄まじく、そして優しい光が、魔剣・デュランダルを包んでいく。


「これで最後だ。ケリをつけよう、『輪廻の理』」


 アベルが小さくつぶやく。


 ニヤついた表情を崩さずに、ジッとアベルを見つめる『輪廻の理』。そして、右手をゆっくりと前に繰り出す。


ヴン!!


 鈍い音と共に、左手の手のひらの前に赤い球体が出現する。凄まじい力が凝縮した魔力球。ニタニタとした表情を浮かべ、左手に力をこめる輪廻の理。


ゴォォウ!!


 轟音と共に、『輪廻の理』左手から魔力が解き放たれる。直径10メートルはあろうかと言う魔力の波が、アベル達に襲い掛かる。


「はあああ!!」


 迫りくる魔力の波に向かって、アベルが一足飛びに駆け出していく。白く光り輝く魔剣・デュランダルを両手で握り、アベルは《居合》を放つ。


ドォオン!!


 凄まじい衝撃音と共に、赤い魔力と白い魔力がぶつかり合う。バチバチとスパークを放ちながら、二つの強力な魔力が一進一退の攻防を繰り広げる。


「く……」


 想像以上の衝撃に、アベルが苦しげな声を上げる。『輪廻の理』の魔力に少しずつ押されて行くアベル。足元の土が抉れ、今にも吹き飛ばされそうだ。


「アベル!!」


 ティナの心配そうな声が響く。アベルは今一度、全身に力をこめる。負けられない。絶対に負けられない。ティナのために、ラドのために。そして何より、自分自身のために。


「ぐぅううう……」


 アベルが全力で剣を押し込む。だが、敵の放った赤く禍々しい魔力の波が、より一層強くなる。力が足りない。3人の力を集めても、『輪廻の理』には届かないのか……アベルがそう思った瞬間だった。頭の中に、再び声が響く。


――アベル、今までありがとう。これで本当に、さよならだ


「ラド……?」


ビシ!!


 魔剣・デュランダルにはめられた白魔石にヒビが入る。その瞬間、今までより数段強い白い魔力がデュランダルを覆う。


ビシビシ! バキッ!!


 魔石のヒビが大きくなっていく。ラドが、すべての力を出し尽くしているのだろう。今にも崩れてなくなりそうだ。


「ラド! ラド!!」


 アベルの目から涙が溢れる。今までのラドとの思い出が、アベルの頭の中を駆け巡る。初めて出会った時、アベルがラドのことを少し怖がってしまったこと。その後、少しずつ仲良くなり、いつも一緒に遊んだこと。よく一緒に日向ぼっこして、モフモフの毛を撫でていたこと。一緒に冒険に出て、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に戦ったこと。今までの思い出が、溢れてくる。


「ラド……今まで、ありがとう。今度は僕が、絶対にキミを探し出すから! それまで、待っててね」


 アベルが涙を流しつつ、微笑みながらそう言う。そして、キッと『輪廻の理』をにらみ、アベルが剣に力を込める。


「はあああ!!」


 魔剣・デュランダルを振り下ろすアベル。


パキン!!


 乾いた音と共に、白い魔石が砕け散る。その直後、辺りを白い光が辺りを包み、赤い禍々しい魔力を呑み込んでいく。白い光はそのまま『輪廻の理』へと向かい、悪魔のような怪物は光の中へと消えていく。


 数秒後、デュランダルから放たれた光が徐々に弱くなっていく。前を見ると、『輪廻の理』がいたはずの空間にはぽっかりと大きな穴が空き、敵の気配は完全に消失していた。



 アベルは魔剣・デュランダルに目をやる。刀身は真ん中で真っ二つに折れ、刃はボロボロだ。柄にはめてあった白い魔石は、跡形もなくなっていた。


「ラド、やっと終わったよ」


 アベルの呟くような言葉が、その場に静かに響いていた。


 


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] えっ、最終回? まだつづきますよね?
[良い点] 決着か、誰か一人でも欠けてたら勝てなかったな。 もっと言えばアベル、ティナ、ラドの三人だけじゃないけど。 [気になる点] あっという間だったけど次回、最終回か。 どうなるのかな。 [一言]…
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