第10話 ピンチかと思ったら、連携スキル発動で難なく切り抜ける
「いたたたたた……」
「う、ここは……」
「キュウ……」
暗闇に、アベル達3人の声が響く。突然の地震でダンジョン内に地割れが起き、3人とも飲み込まれてしまった。どうやら、最下層へと落とされてしまったようだ。
「《ライト》」
アベルが照明魔法を使う。辺りが明るく照らされる。ティナは尻餅をついているが、無事みたいだ。ラドはアベルを見つけるや否や、元気に足元にすり寄ってくる。ラドも大丈夫なようだ。
「な、なんだこれ!?」
アベルが足元を見て驚く。地面が、半径5mくらいの円形に凹んでいたからだ。
「あ、これ? 《プロテクション》の効果ね。私たち、あんなに高いところから落ちてきたのよ。落下の衝撃を《プロテクション》が吸収してくれたわけ」
アベルが天井を見上げると、高さは20mくらいある。
「……あんな高いところから落ちたら、普通死ぬよね。ティナの《プロテクション》はすごい性能だね……」
アベルは心底驚愕しながらそう言う。
「ねぇ。ここってどこなの? 黒曜の洞窟に地下4階なんてあったっけ!?」
「うん。実は4階層目があるんだ。基本的に立ち入り禁止だから依頼書の情報には載ってなかったけど。確か最下層は……まずい!!」
アベルは焦燥の色を顔に浮かべ、《索敵》を行う。危惧した通りの事態。剣を抜いて、戦闘態勢を整える。ラドも状況を察したのか、アベルから少し距離を取り、周囲を警戒している。
「なになに!? どうしたの?」
ティナはまだ状況が呑み込めていないようだ。
「第四階層は、レッサードラゴンの巣なんだ! 1、2、……12体! 囲まれてる!!」
アベル達が今いるのは、通路ではなく、広い部屋のような空間。半径50メートルほどはあるだろうか。その部屋の中には、12体のレッサードラゴン。アベル達を囲むようにして、距離を詰めてくる。
「これ、ちょっとヤバいんじゃない!?」
「ラド! 《牽制》できそうか?」
「キュウゥ……」
ラドが、小さく鳴きながら上目遣いでアベルを見つめてくる。レッサードラゴンは、ボスクラスに判定されるらしく、牽制は効かないようだ。戦闘を避けることはできない。
ジリジリと距離を詰めてくるレッサードラゴン達。3人は背中合わせにして、全方向を警戒している。不意にアベルの右前方が、赤く光る。
「危ない!!」
ティナを抱え、アベルが横っ飛びをする。その直後、さっきまで3人がいた空間が大きな火炎旋風に包まれる。レッサードラゴンがフレイムを使ったようだ。
「ラド! 大丈夫か?」
「キュウ!」
ラドもどうやら無事のようだ。ササッとアベルの足元に戻ってくるラド。みんな無事だったが、絶体絶命の状況は続く。
「あっつ! これはやっばいわねー!」
レッサードラゴンのフレイムの威力は凄まじく、離れていても熱風が凄い。ティナが言う様に、かなりヤバい状況だ。
アベルは頭をフル回転させ、何か策は無いかを考える。アベルの脳裏に、ティナの《アダプテーション》の緑の光が浮かび上がる。
一つの策を思いつくアベル。正直、イチかバチかだ。だが、試す価値はある。
迫りくるレッサードラゴン達。左前方10メートルほどのところにいるドラゴンが、大きく息を吸い込む様子が見える。もはや迷っている時間はない。思いついた策にかけるしかない。
「《魔力強化》」
アベルが強化魔法を詠唱する。3人の身体が、蒼くぼんやりと光る。それを確認したあと、アベルがティナに指示を出す。
「ティナ!! 《アダプテーション》だ!」
「え!? でも、わたしの《アダプテーション》じゃフレイムの炎は……」
「説明してる時間はない!! 早く!!」
「わ、分かったわ! 《アダプテーション》」
ティナの詠唱に呼応するかのように、ラドの身体が白く光り輝く。すると、アベル達の周りを、緑色に光り輝くダイヤモンド形の空間が包み込む。その空間が作る空気の層は、さっきティナがかけた《アダプテーション》とは、全く別物の力強さだ。まるで光の盾が守っているかのような安心感がある。
直後、レッサードラゴンがアベル達に向けてフレイムを放つ。2匹目、3匹目もそれに続く。岩をも溶かすものすごい灼熱。生身の人間が耐えられない熱量のはずだが、《アダプテーション》により守られた3人にはその熱風はまるで届いていない。
アベルの策。それは、ティナの《アダプテーション》をアベルが強化し、レッサードラゴンのフレイムを防ごうというものだった。正直、上手くいく保証はなかった。だが、その可能性は高かった。
「な、なんで、わたしの《アダプテーション》が、フレイムを防いでるの? それに、見た目が全然違う……」
「ふう。上手くいって良かった。僕のスキル、《魔力強化》の効果だよ。さっき、『私の魔力だと、空気の層は強固に作れない』ってティナは言ってたでしょ? だから、逆に魔力を強化すれば、フレイムにも耐えられるんじゃないかって思ったんだ」
アベルの《魔力強化》は、その名の通りパーティ全員の魔力を50%強化する。ティナの魔力が増大したため、《アダプテーション》が作り出す空気の層もより強固になる。これにより、フレイムを防げるほど強固な《アダプテーション》を詠唱できたというわけだ。
だが、見た目が大きく違うのはなぜだろうか? アベルがそんな疑問を抱いていると、アベルとティナの頭の中に例の言葉が響く。
――《魔力強化》により、《アダプテーション》の威力が向上しました。
――連携スキル、《ウォール》を獲得しました。
「え? な、なにこれ!? 《ウォール》なんて聞いたことが無い魔法よ!?」
「れ、連携スキルって、何だ……?」
突然のことに、アベルとティナが唖然としている。《ウォール》という、聞いたこともない魔法。なぜ、連携スキルなるものが突然発動したのか。様々な疑問が駆け巡り、二人は一瞬硬直する。
「キュウ!!」
ラドが、二人に向かって吠える。二人はハッと正気を取り戻す。
「ラド、ごめん! そうだね、戦闘中だったね」
アベルがラドの方を見て、ニコッと笑う。それに応えるように、ラドも青い目でアベルを見つめる。二人がコクンと頷いたあと、キッとレッサードラゴン達に顔を向ける。
「ラド! 反撃開始だ!!」
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、レッサードラゴンを蹂躙(笑)します。