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第1話 レベル1の最弱テイマー、Sランクパーティーから追放される


「おい、アベル。お前とは、ここでさよならだ。今すぐ、俺たちの前から消えてくれ」


 パーティーのリーダー、ゲイルの声が響く。

 あまりにも突然すぎる、パーティーからの追放。アベルは呆然とその場に立ち尽くす。パーティー内での立場が悪いことは知っていた。だが、まさかこんな場所で追放を言い渡されるなんて、全くの想定外だった。


 アベルが今いる場所は、Sランクダンジョン『ことわりの地下神殿』。Sランクパーティーしか足を踏み入れることを許されない、最難関ダンジョンの一つだ。

 今、この場所での『クビ』宣告。周りには、アベル達のパーティー以外、誰もいない。それが何を意味するのか、アベルはすぐに理解した。だが、その意味を信じたくなかった。


「え……? ゲイル、嘘でしょ? 冗談だよね?」


 アベルは、小さな声でそう絞り出すのが精いっぱいだった。ゲイルはイラっとした表情を隠さずに、強い口調でアベルを罵倒する。


「はあ!? お前、よくそんなことを言えるな。栄えあるこのゲイル様のパーティーに、足手まといなんていらないんだよ! この、荷物運びしかできないテイマー風情が!」

 

――Sランクパーティー、《蒼の集い》。英雄ゲイルが率い、目下王国最強と称されている5人パーティーだ。

 非凡な剣と魔法の才能を持つパーティーのリーダー、【王国の剣】魔法剣士・ゲイル。

 屈強な体でパーティーのタンク役を務める、【王国の盾】戦士・フォルカス。

 王国随一の発動速度でヒールを連発する、【王国の奇跡】ヒーラー・アマンダ。

 兵器級の広域殲滅魔法を詠唱可能な、【王国の大砲】魔導士・リサ。

 そして、テイマーのアベル。パーティーの『お荷物』ということで、荷物持ちをさせられている。


 アベルは、ゲイルの幼馴染だ。そのため、《蒼の集い》設立時からメンバーとして参加しており、パーティーの中では古株だ。それでも、最近は完全にパーティー内で見下され、毎日のように罵声を浴びせられている。


「あんたさあ、いつになったらレベルが上がるの? この、レベル1のクソ雑魚テイマー!」


 リサが黒く長い髪をなびかせ、悪態をつく。トレードマークのマジシャンハットを苛立った手つきで触りながら、アベルを鋭くにらんでいる。


 アベルは目を伏せながら、リサの言葉に耐える。悔しくて悔しくて、強く拳を握りしめる。15歳の頃、冒険者として旅立って3年。なぜかアベルのレベルは上がらない。ずっとレベル1のまま。どんなに足掻いても、どうにもならなかった。


 リサの罵倒は続く。


「あたしらもう、レベル50よ? あんたやる気あんの? 才能ない上に、努力もしないなんて、ナメてんの?」


「僕だって、毎日経験値稼ぎを……」


「うっさい!! 言い訳すんな!!」


 苛立ちながら、アベルの言葉をリサは遮る。アベルは、弁明さえさせてもらえない。

 レベルが上がらなくて、一番悔しい思いをしているのは、アベル本人だ。だから、毎日早朝と深夜にパーティーから抜け出し、経験値稼ぎを繰り返してきた。リサやゲイルの2倍、3倍の努力をしてきた自負がある。それなのに『努力もしない』なんて言われている理不尽さに、アベルはいつも耐えていた。


「レベルが低くて戦力にもならない上に、パーティーの補助すらろくにできないからな。この役立たずは」


 フォルカスが屈強な腕を組みながら、ふてぶてしくアベルを非難する。兜の下から覗く眉間がピクピクと動いている。その表情からは、アベルへの軽蔑の感情があふれ出ている。


「でも、パーティーのみんなに強化魔法をいつも……」


 アベルは、確かに弱い。だが、弱いなりにパーティーにかなり貢献してきた。アベルは補助魔法に非常に長けていた。敵の位置を把握する《索敵》に、ステータスを底上げする強化魔法。特に後者の《筋力強化》と《魔力強化》に関しては、ギルド随一の使い手との自負があった。


「ハッ!! お前バカか? 強化魔法なんて、特に珍しくもないスキルだろうが。レベル1のお前如きが使えるくらいだからなぁ! 苦し紛れの自己アピールか!? ほんと、見下げ果てた男だな」


 フォルカスが大声を張り上げながらアベルを侮辱する。実際には、アベルほどの強化魔法使いはギルドにはいない。だが、フォルカスをはじめ、パーティーメンバーは誰も、アベルの価値を理解していなかった。

 アベルは、自分の最も得意なスキルですら、仲間に認めてもらえないのだ。何度彼らに『強化魔法でメンバー全員のステータスが50%ほど常時上がっている』と言っても、鼻で笑われて終わりだった。


「それに、そのラドってペット、ぜんっぜん闘わないんですけど? 主人がお荷物なら、ペットもお荷物ってね」


 アマンダが、アベルとラドを嘲笑する。ショートカットの茶髪をいじりながら、アベルの方を見ることもしない。


「キュゥ……」

 

 アベルの足元で、小さく鳴く声が聞こえる。鳴き声の主は、アベルがテイムした動物、ラドだ。ラドはアベルを心配そうに見上げている。

 ラドは幼い頃にアベルが初めてテイムした動物で、大切な親友だ。大きな青い瞳。猫のような耳に、ウサギのようなフォルム。体は、少し緑がかった白の毛で覆われており、大きな尻尾はフサフサしている。パーティーのマスコットになってもいいような、かわいらしい姿。


 ラドは、見た目のかわいらしさに反して、とても優秀で頼りになる相棒だ。ラドは確かに戦闘に参加しないが、モンスターの行動を制限するスキルを2つも所持している。

 一つは、スキル《牽制》。ラドがにらむと、大抵のモンスターは襲ってこなくなる。アベルが《索敵》で敵を発見し、ラドが《牽制》する。これだけで、ほとんどの戦闘を避けることができる。さすがにボスクラスの敵には効かないが、とても便利なスキルだ。

 もう一つは、スキル《威圧》。敵の動きを一瞬止めることが出来る。ボスクラスのモンスターにも有効で、大きな隙を作ることができる。ボス戦でとても重宝するスキルだ。

 この2つのスキルのお陰で、ダンジョン探索はかなり楽に進んでいる。


 アベルは足元のラドを背後にかくまうように引き寄せる。こんなに頼りになるラドなのに、みんなから無能扱いされるのがアベルには許せなかった。ラドをかばう様に、アベルは反論する。


「ラドはペットじゃない! 何回も言ってるよね? ラドのお陰で、強いモンスターに襲われずに済んでるって!」


 ゲイル達は、アベルの抗議に対して、ヘラヘラとした嘲笑を浮かべているだけだ。誰一人、アベルの言うことを信じていない。パーティーメンバーは、もはやアベルの言葉に聞く耳を持っていないようだ。



「おしゃべりはそこまでだ。お前は、クビだ。お前がどんなに言い訳をしようが無駄だ。ゴミは俺たちのパーティーにはいらない」


 ゲイルが、そう言い放つ。その目からは、何の感情も感じない。まるでゴミを捨てるかのように、アベルを切り捨てる。そんな目だ。


「……僕は、ゲイル達が心配なんだ! 僕がいなくて、皆やっていけるの? 僕の補助魔法が無いと、みんなのステータスは大分下がるんだ! ラドがいないとモンスターの襲撃だって……」



 ズン!!



 ダンジョン内に、鈍い音が響く。ゲイルが、アベルのみぞおちを殴った音だ。地面に崩れ落ちるアベル。冷たい目でアベルを見下ろしながら、ゲイルが叫ぶ。


「このクソ雑魚テイマーが!! 何エラそうなこと言ってんだ!! オレが強いのは、お前のお陰なんかじゃねーよ!! オレの実力だ! 何寝ぼけてやがる!!」


 激高したゲイルが大声で怒声を上げている。呼吸もままならず、地面に突っ伏しているアベル。その横で、ラドがゲイルに向かって唸っている。今にもゲイルに飛びかかりそうだ。一方、フォルカス、アマンダ、リサは、苦悶の表情を浮かべるアベルをニタニタ笑いながら見ている。



 

「グルルルル……」


 不意に、アベル達の後方から不気味な唸り声が轟く。アベルはうずくまりながら振り返り、声の正体を確認する。黒い大きな獣。大きさは優に3メートルを越えている。中層のボス、ヘルハウンドだ。まっすぐ、こっちに近寄ってくる。なぜ、こんなところに?


 ヘルハウンドの姿を確認すると、ゲイルはニタァっと悪魔のような笑みを浮かべる。


「ようやく来たな……じゃあな、アベル。達者でな」


 ゲイルがそう言うと、4人はスタスタとアベルから離れていく。故意犯。アベルはそう思った。どうやら、ヘルハウンドはゲイル達がこの場所におびき寄せたようだ。奴らは、アベルを置き去りにし、殺すつもりだ。アベルは、4人に裏切られたのだ。


「ラド、ごめんよ。あいつらが、あんなクズだったなんて……お前だけでも、逃げろ」


 ヒタヒタと忍び寄るヘルハウンドの足音。相手は、この階層のボス。アベルはレベル1。とてもじゃないが、まともに戦えるステータスじゃない。そのうえ、ゲイルにみぞおちを殴られ、動けない。ラドに逃げるよう指示するだけで精いっぱいだ。アベルは、18年という短い人生が今、終わることを覚悟した。


 だが、その時だった。アベルの目の前には、信じられない光景が広がっていた。


「ラド!? ど、どうしたんだ? その姿は……」


 アベルの隣にいたのは、金色に輝く獣の姿をしたラドであった。


お読みいただき、ありがとうございます。

次回、アベルのチート覚醒です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 捨てられるのが覚醒の条件ならわかるけど、そうでないなら捨てられた直後の覚醒ってありえないよね。
2021/02/10 19:17 退会済み
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