第1話
「皆さん、はじめまして。エイト・クロエツェルです。よろしくお願いします!」
「レイナ、ちょっといい?」
1人で、しかもあと少しで行かなくてはいけないのに、男装するのは無理だ。レイナに手伝ってもらうしか…
「はい、何でしょう」
「1つあなたに頼みたいことがあってね」
「男装するの、手伝ってくれない?」
「男装、ですか?……」
黙ってしまうのも仕方がない。私だって、慕っている人に「男装するの手伝って」何て言われたら、そりゃ誰だって黙ってしまう。
「無理なら無理で、他の方法を考えるから…」
「いいですよ。」
「え?」
「だから、いいですよ。」
「え?!いいの?」
「はい。だって、お嬢様のことです。何か、考えがあってのことなんでしょう?」
そうだった、このキャラ、レイナはカイナの言う事なら何でも聞くとってもいい子だった!
それから色々手伝ってもらって、今に至るってわけよ。さすがレイナよね。こんなに一瞬で、色々用意するんだから。尊敬しちゃうわ
「遅れてすいません!!」
その時、ドアの方からとても聞いたことのある、きれいな声が聞こえてきた。
「えっと、はじめまして、ユイカ・エステルです!」
そう、この少女こそがこの乙女ゲームの主人公なのだ。
ユイカ・エステルは、生まれつき聖女しか使えないとする、人を癒やすことができる声を持っていた。それ故に貴族に好かれ、平民のユイカが、この貴族しか入れないとする帝国学院に入ることができたのだ。
みんなユイカに一目惚れしたな。
これもゲームの設定だ。ユイカの声を聞いたものは皆ユイカに惚れてしまう。(男のみ)という設定なのだ。
まぁ私は女だし?関係ないけど。
そう思っていたとき、ユイカと目があった気がした。
気のせいかな?
そう思い、黒板に目を向けた。
「やっと終わったぁ」
空腹との戦いもこれで終わりだぁ!
長かった授業が終わり、1人で学食を食べに向かおうとしたとき。
「エイト様ぁ〜」
「こっち向いてぇー」
「きゃあ!かっこいい♡」
な、何だ?そういえば、男装したあとの姿まだ見てないな。
そう思い、1人で鏡の前に立った。
「い、イケメンだぁ!」
レイナのメイクのおかげで女というのはバレてないけど…イケメンすぎじゃね?こんなんじゃ目立ってしまう!
「エイトさん?」
また来たか。そう思い、ふと後ろに振り返ってみると…
「ユイカ…さん?」
そこにはあの聖女様がいた。
「何で、あなたが?」
「エイトさんのことが、少し気になってしまって…」
そうか!忘れていたが、ユイカが攻略対象たちを好きになった理由は、「ユイカの声を聞いても好きにならなかった」からだ。
でも、私が攻略対象たちより先に、ユイカの声を聞いても普通でいたからだ!!
なんてことをしてしまったんだ。自分が死にたくないだけで、普通にユイカと攻略対象の誰かが結ばれればいいと思っていたのに…
ドンッ
「あ、すいません」
……!?
もしかして、こいつは!?
「やぁ、ごめんね、肩がぶつかってしまって」
攻略対象の中の1人、ユウ・エニシアじゃないか!?
なんでこんなところに!?