世にも奇妙なTSFストーリー 第13話サンプルシナリオ『タチバカワレド』
ストーリーテラー
「世の中には色々な人々がいて、それぞれの世界でそれなりに生活をしている。となりの庭は青く見える、と考えているが、果たしてそうだろうか?」
▪︎昼 繁華街のカラオケ店
女子高生と思しき三人の女の子がカラオケで盛り上がっている。
▪︎昼 繁華街の回転寿司店
60〜70代と思しき老人男性が家族連れで賑わう店内で一人寂しくカウンターに座り、寿司を食べている。視線の先には価格の表示。皿の色によって価格が異なる。
目の前には食べた皿が重ねられていて一番下が一番安い100円の皿、二枚目以降は値段が高い皿が重ねられている。
メインタイトル
『タチバカワレド』
あずさ 演:宮下萌絵(みやしたもえな)
のりすけ 演:蒲生剛士(がもうたけし)
▪︎夜 繁華街のファーストフード店
女子高生のあずさは、友だちのれな、あさみと一緒にスマートフォンを片手に楽しく会話をしている。三人の目の前の長テーブルの上には中身のない包み紙と飲み物。
れな 「これ、知ってる?」
あずさ 「テレビで見た。悪性風邪の話だよね」
れな 「お客さん、あのホテルから出られないらしい。ずっと缶詰状態なんだって」
あずさ 「やばいよねー」
れな 「でもさぁ、あの悪性風邪、感染するのは老人だけなんだって」
あさみ 「へぇー。じゃあ、うちらは安全じゃん」
れな 「だね。…あずさ、顔色が悪いけど、大丈夫?」
あずさ 「大丈夫…」
あずさはスマートフォンで二人が話題にしているのと同じニュースを観ている。その視線が店の外に移動すると、向かいの商業ビルの大型モニターにあずさが観ているのと同じニュース映像が流れている。
▪︎夜 のりすけ宅
のりすけがリビングの高級ソファーに座り、目の前の大型モニターで有料放送の映画を鑑賞している。ジャンルは学園が舞台の難病モノ。主演を今一番人気がある男性アイドル。
映画がクライマックスを迎える中、号泣してテッシュで何度も鼻をかむ。それからワインを一口飲み、続けてスナック菓子を勢いよく口に放り込む。
▪︎夜 繁華街
ファーストフード店を出たあずさ、れな、あさみの三人がときおり会話しながら繁華街を歩いている。夜の街をこれから楽しもうとする沢山の人とすれ違いながら、帰宅するべく最寄りの電車駅を目指している。
三人が駅入口前の横断歩道の赤信号で立ち止まると目の前を派手な宣伝トレーラーが通り過ぎる。トレーラーの荷台には「女性向け高収入求人広告」とラッピング。
青信号になると三人は歩き出し、エスカレーターで上を目指しながらまた話し始める。
れな 「私もそろそろバイトしようかな?」
あさみ 「アレだね。私も気になる。でもアレ、うちらの年齢だと断られるんじゃ…」
れな 「断られないって。若い方がいいに決まってんじゃん。二年の宮下ってパイセンがアレ見てバイトを始めたって噂」
あさみ 「ふーん。あずさはどう思う?」
あずさ 「私は遠慮したい、な」
れな 「お金欲しくないの?」
あずさ 「お金は欲しいけど…、でも…」
あさみ 「まあ、あずさはうちらよりも奥手だし、あの手は話は苦手だもんね」
あずさ 「ははっ。…私、もう行くね」
あずさは二人に手を振り、足早に改札を抜ける。
▪︎夜 のりすけ宅
ワインを飲み過ぎて顔を真っ赤に染めたのりすけがベランダから夜の街をぼんやりと眺めている。のりすけの自宅は高層マンションの上から三段目の一番東側の部屋。
のりすけ「ふぇっくしょん!」
冷たい風に当たり、大きくくしゃみをしたのりすけがベランダからリビングに戻ると、テーブルに置かれていたスマートフォンに複数のメールが入っている。メールを開けると私人からのメールではなく、投資話を持ちかける業者のメール。
のりすけ「面白くないメール、ばっか」
▪︎夜 あずさ宅
あずさが自宅マンションに帰ってくる。マンションのエントランスの扉は開かれたまま。扉にはボロボロの貼り紙があり「修理中」の文字。
エレベーターを使わずに階段を上り、二階の一番西側にある自宅の鍵を開ける。
自宅の中に入り、靴を脱ぎながら「ただいま」と中に向って声をかけるが、誰からも返事がない。
リビングに向かうとテレビのお笑い番組に釘付けの母親がいる。テーブルの上には缶ビールと複数のツマミ。
あずさ 「汗まみれで身体がべとべとなんだ。今日こそシャワー、浴びていい?」
母親 「まだ二日目だろ? 我慢しな」
あずさ 「臭いがほんと、やばくて」
母親 「ならお金、出しな。水道代も馬鹿にならないからね」
母親に念押しされたあずさが諦めたように自室に戻る。室内灯を点けることなく、ベッドの上に大の字になり目を閉じる。
▪︎夜 のりすけ宅
のりすけが浴室で半身浴をしながら、壁に備え付けられたテレビをザッピングしている。ザッピング中、悪性風邪の感染が伝えられる高級ホテルのニュース映像が流れる。一瞬手を止めるが、すぐにドラマに切り替える。
▪︎深夜 あずさ宅
自室で学生服姿のまま眠ってしまったあずさが目覚めるとすぐにスマートフォンを手にする。スマートフォンの画像は悪性風邪の感染により84名の宿泊客が缶詰にされている高級ホテルに関するニュース。
あずさ 「あんなパンデミックは二度と起きない。起きる訳がない…」
自分自身にそう言い聞かせながら勢いよくベッドから立ち上がり、室内灯を点けると勉強机の上でスマートフォンの充電を始める。それから衣類を脱いでパジャマに着替える。
▪︎朝 のりすけ宅
のりすけがいつものように朝早く目覚めるとダイニングに向かう。システムキッチンの前に立つと女性アイドルのヒット曲を口ずさながら朝食の準備を始める。
▪︎朝 あずさ宅
あずさがいつもよりも早く目覚める。パジャマ姿のままリビングにやって来たが母親は居ない。
あずさ 「日曜日なのに仕事なのか…」
あずさがリビングのテーブルの上に置かれたリモコンでテレビの電源をオンにしてザッピングを始める。ザッピングしているのは全てニュース番組。
どのニュース番組も悪性風邪に関するものだが、昨日とは別の情報。悪性風邪の感染が高級ホテルとは別の場所で確認された、と女性アナウンサーが話している。
それを知ったあずさが驚きの表情を浮かべ、急いで自室に戻り、スマートフォンを手にして電話をかける。電話の呼び出し音を聞きながら五日前のことを思い出す。
▪︎昼 都立公園(画面に「五日前」の文字)
穏やか天候の下、公園のベンチに女子高生と老人男性が座っている。座っているのはあずさとのりすけ。
あずさがスマートフォンを操作して友だちにショートメールを打っている。
のりすけが目の前を歩く華やかな衣装に身を包んだ女の子たちを羨ましそうに見つめる。
のりすけ「あずさちゃん、話があるんだけど」
あずさ 「何ですか?」
のりすけ「あずさちゃんはもっとお金、ほしくない?」
あずさ 「ほしいです」
のりすけ「だったら、私と入れ替わってほしい」
あずさ 「入れ替わる? 何それ?」
のりすけ「私とあずさちゃんの立場を入れ替える。二人の心と身体を入れ替えるんだ」
のりすけの話を聞いたあずさはスマートフォンを操作しながら馬鹿にしたように笑う。
あずさ 「そんなこと出来る訳ないじゃん」
のりすけ「出来る。私が調べたある秘密クラブが人間の心と身体を入れ替える装置を持っていて、それを希望する人たちを入れ替えてくれる。会員制でそれなりのお金が必要だけど」
あずさ 「ふーん。おじいちゃんは私になりたいんだ。それって無茶苦茶、変態じゃなくね?」
のりすけ「そうだよ。私は変態なんだ。一生に一度でいいから女の子になってみたいんだ。あずさちゃんが同意してくれたら入れ替わりに必要なお金は全て私が支払うし、それに加えて、あずさちゃんにはいつもの三倍支払う」
それを聞いたあずさはスマートフォンの操作を止め、のりすけの方に身体ごと振り向く。それからのりすけの顔を興味深く見つめる。
あずさ 「女子高生の私がおじいちゃんになるんだね。…どれくらい入れ替わるの?」
のりすけ「一週間」
あずさ 「いつもの五倍。それならいいよ」
あずさはそう言って身体ごと背を向け、またスマートフォンを操作し始める。
それを聞いたのりすけは満面の笑みを浮かべながら正面に視線を向ける。
~ 一分間のCMタイム ~
▪︎昼 雑居ビル前
のりすけから連絡を受けたあずさが秘密クラブのある雑居ビルに到着すると周りにパトカー、保健所の車、テレビ局の車が停車している。
周りを見渡しながら雑居ビルに近づこうとすると警察官に止められる。
警察官 「あー、駄目だよ、おじいちゃん。ここは立ち入り禁止だよ」
あずさ 「ええっ? でもぉ…」
警察官に対して困惑した表情を浮かべるあずさは突然、後ろから腕を引っ張られる。腕を引っ張ったのは可愛い衣装を着たのりすけ。
のりすけ「あー、こんなところにいたぁ」
あずさ 「これ何? 何が起きてるの?」
のりすけ「その話は家に帰ってから。ね、おじいちゃん♪」
のりすけは警察官に愛想笑いを浮かべながらあずさの背中を押す。二人は雑居ビルに背を向けて歩き始める。
▪︎昼 雑居ビル近くの喫茶店
二人は年季の入った喫茶店で昼食をとっている。あずさはパスタ、のりすけはカレーライス。一番奥のテーブルに座り、周りには誰も居ない。
のりすけ「まずいことになった。あの雑居ビルのどこかで例の悪性風邪の感染者が出たらしい。秘密クラブのメンツかどうかは分からない」
あずさ 「ひょっとして、私たちも感染しているとか?」
のりすけ「分からない。私は大丈夫だ。あずさちゃんは?」
あずさ 「大丈夫、だと思う…」
のりすけ「そうか。それはともかく、これからあの雑居ビルは消毒や調査のために出入り禁止になる。当然ながら秘密クラブも休店だ」
あずさ 「ええっ! ってことは…」
のりすけ「私たちは元に戻れない」
あずさ 「そんなぁ…。私、ずっとおじいちゃんだなんて嫌。何とかしてください。保健所の人にあの機械を使えるように説明してください」
のりすけ「それは駄目だ。身体の入れ替わり自体がそもそも違法なんだ。あの精神入れ替わり装置は国際法で禁止されたもの。だから秘密裏にやっているんだ」
あずさ 「でも事情を説明すれば…」
のりすけ「元に戻れるかもしれないけど、その時点で私もあずさちゃんも警察に捕まって即座に刑務所行きだ。あずさちゃんは未成年だから罪は軽いけど、私は多分重罪になる」
あずさ 「私、元に戻れるんだったら警察に行く。捕まるのなんて全然怖くない」
のりすけ「そんなことを言わないでくれ。警察に捕まれば、君とのこれまでの関係が明るみに出る。そうなれば君だって困るだろ?」
あずさ 「それは…、でも…」
のりすけ「少なくてとも私はそれで人生が終わってしまう。それだけは勘弁してほしい。私のお金は幾ら使っても構わない。だから秘密クラブが再開するまで、その身体で我慢してほしい。頼む。この通りだ」
のりすけが深々と頭を下げる。それを見たあずさが困惑して大きなため息をつく。
▪︎夜 のりすけ宅(画面に「二週間後」の文字)
あずさがリビングでテレビの情報番組に釘付けになっている。番組は悪性風邪の話。世界の至る所でパンデミック化して死者が何百人も出ていること、日本での死者は今のところ高級ホテルの宿泊客二名だけでパンデミック化するかどうかは分からない、と言った内容を人気の男性コメンテーターがまるで他人事のように話している。
そんな中、スマートフォンの電話が鳴る。電話をしてきたのはのりすけ。
のりすけ「身体は大丈夫か?」
あずさ 「大丈夫。外に出るのをなるだけ控えているし、外にいる時はきちんとマスクをしているよ。そっちはどう?」
のりすけ「昨日から学校が休校になって二日後にネット授業が始まる。部屋の中を掃除するのが大変だ」
あずさ 「ははっ、そっか。それは大変だね。…こほ、こほ」
のりすけ「咳? いつから咳が出ているんだ?」
あずさ 「昨日から。でも熱はないよ」
のりすけ「明日、病院に行くんだ。かかりつけの診察所が近くにある。財布の中に診察券があると思う」
あずさ 「…えっと、…あった。でも熱が無ければ自宅で様子見、ってテレビで言っているよ」
のりすけ「テレビを信用するな。明日、必ず行くんだ。分かったな」
あずさ 「分かった」
あずさは電話を切ると、ソファーに深々と座り込んで天井を見上げた。
▪︎昼 薬局
診察所で診察を終えたあずさは、薬局で処方箋医薬品を待ちながらメールをしている。
― 診察所に行った。人が一杯だった。先生から悪性風邪じゃなくて普通の風邪だと言われた。これから薬をもらう。あずさ
― 悪性風邪専用の検査はした? のりすけ
― してない。昔の検査機だと検査できないって。あずさ
― そうか。今から会えないか? 話がある。のりすけ
― どこで会うの? あずさ
― 雑居ビル近くの例の喫茶店。のりすけ
~ 一分間のCMタイム ~
▪︎夕方 雑居ビル近くの喫茶店前
顔に簡易マスクをつけた二人は待ち合わせ場所の喫茶店の前で呆然と立ち尽くしている。喫茶店の扉には「しばらく休みます」の貼り紙。
二人は力なく歩き出して秘密クラブのある雑居ビルに行き、その前で再び立ち止まる。ビルの入口には相変わらず出入り禁止のテープ。
あずさ 「あのお店、開きそうないね」
あずさが疲れたようにその場に座り込む。のりすけがそんなあずさの隣に座り込み、そっと肩を抱く。
のりすけ「すまない。私のせいでこんなことになって…」
あずさ 「おじいちゃんだけのせいじゃないよ。私だってお金のために同意したんだから…」
のりすけが項垂れるあずさの真正面に移動して真っ直ぐにあずさを見る。
のりすけ「これから大事な話をするので聞いてほしい」
あずさ 「元に戻るよりも大事なこと?」
のりすけ「そうだ。これからのことだ」
あずさ 「何?」
のりすけ「これからこの悪性風邪はあっという間に日本中に広がる。そして何百何千、いや何万人の死者が出ると思う」
あずさ 「どうしてそんなことが分かるの? テレビでそんな大袈裟なこと、これっぽっちも言ってないよ」
のりすけ「テレビではっきりと言わないけど、この悪性風邪が今から十五年前にパンデミックになったコロナウィルスによるウィルス性肺炎とそっくりだからだ。私は当時、50代後半だったからよく覚えているけど、あずさちゃんはその頃はまだ小さかったから覚えていないだろ?」
あずさが大きく頷くとのりすけは再び話し始める。
のりすけ「今の国会議員がその時と殆ど変わっていない。あの時、奴らは自分たちの私利私欲のためにコロナのパンデミックを真剣に食い止めようとせず、沢山の国民を見殺しにした。特に第五波の最中、多くの人々の反対を無視して世界的なスポーツ大会を強行したことで医療現場が崩壊し、国内が完膚なきまでに破壊されたが、自分たちはワクチンを打って高見の見物だった。だから今回も同じことをするだろう」
あずさ 「どうしてそんなことをするの?」
のりすけ「理由は色々あるけど、極論すればこの国が様々な外人たちに貢ぐ観光立国になってしまったからだ。この国を訪れる観光客、悪性風邪に感染していると思しき人間の入国を簡単に止めることが出来ない。何故なら我々は観光客の落とす金で生きていると言っても過言ではないからだ」
あずさ 「でも、観光客だって同じように悪性風邪にかかるし、早く手を打たないと皆んなにすごく迷惑がかかる…」
のりすけ「ある程度蔓延すれば、奴らは手を打つ。しかしその手は意識的に後手後手になるだろう。危機が迫る現時点でもやる気がないのは明らかだ。人が何人死のうと自分たちが損をせずに儲かればいいと思っている」
あずさがのりすけの話を聞いても訳が分からず、困惑した表情を見せるだけ。
のりすけがそこまで言って立ち上がる。そしてあずさに立つように促す。
あずさがゆっくりとその場から立ち上がると、のりすけがあずさの両肩に手を乗せる。
のりすけ「あずさちゃん。今からその身体を大事にしてほしい。悪性風邪に罹患しないように努力してほしい」
あずさ 「そんなこと言ったって、相手は目に見えない菌が相手だよ。どうすればいいの?」
のりすけ「とにかく政府の発表することを100%鵜呑みにしないことだ。そのためには正しい情報を入手しなくてはならない。幸い十五年前の出来事を知っている良識者がほんの僅かだけど残っている。私がそれを君に教える。その人たちの言葉を聞いて自分自身を防衛するんだ。そのためのお金は有る」
あずさ 「お金がいくら有ったって、私、おじいちゃんなんだよ。70歳で全然若くないんだよ。それなのに悪性風邪は、私みたいな老人にばっか、かかるんだよ」
のりすけ「それは…、確かにそうだけど…」
それを聞いたあずさがシワだらけの顔を醜く歪める。そしてみる間に怒りの表情に変わる。
あずさ 「分かった。あんた、悪性風邪を利用して私を脅かして絶望させようとしているんだ。私を騙して爺いの身体を押し付けて、最初っから元に戻る気なんかなかったんだ!」
のりすけ「そんなことはない。私だっていつまでもこの身体は嫌だ。女の身体に未来なんかないんだ」
あずさ 「50歳以上も若返ったくせに何を言っているの? 私の若い身体だったら何だって出来るじゃん!」
あずさの怒りの声に対してのりすけが大きなため息をつき、あずさに見せつけるように首を左右に振る。
のりすけ「それはない。今は絶望しかない。何故なら君の家が貧困家庭だからだ。そしてその貧困から抜け出せないことが明白だからだ」
あずさ 「確かにうちは貧乏だけど、これからのことなんて分かるわけないじゃない!」
のりすけ「いいや。分かる。何故、君のお父さんは日本を離れて外国に出稼ぎに行っているのか? 何故、お母さんは日曜日も働くのか? 何故、年頃の娘なのにシャワーもろくに浴びさせてもらえないのか? それは世の中が貧困に満ち溢れているからだ。十五年前のパンデミックからこの国は何とか立ち直ったが、その代わり、生き延びた多くの人々とこの国のほんの数%の金持ちとの間の所得格差が一気に広がった。絶望的なレベルで。私はその時に恩恵を受けた人間の一人だからそれが良く分かる」
あずさ 「分からない。そんなの分からない…」
のりすけ「立場は変わってしまったけれど、我々は何とかこの危機を乗り越えるしかない。元の身体に戻るその日まで生き続けるしかないんだ」
▪︎深夜 のりすけ宅(画面に「一週間後」の文字)
あずさがマンションのベランダからいつものように夜の街をぼんやりと眺めている。遠くで救急車のサイレンが聞こえてくるとそれに耳を傾ける。
あずさ 「救急車のサイレンが多くなった」
あずさは夜の街に背を向け、小さく咳き込みながら逃げるように室内に入る。
▪︎深夜 コンビニエンスストア
レジに立つのりすけが生あくびをしていると、店内にいた若いカップルが賞味期限切れの食料品が一杯入った買い物かごを目の前に置く。
のりすけ「いらっしゃいませ。お弁当、温めますか? …ふっ、ふ、ふぇーっくしゅん!」
ストーリーテラー
「悪性風邪の本格的なパンデミックが迫る中、皆、それぞれの立場でそれなりに苦労しながら生きている。でもその苦労は自分たちのせい? それとも?」
おわり
ノクターンに18禁バージョンもあります。